第299話 ヴェルドレイク様が、遠隔談具を完成させた
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帝国から戻って来て暫くは特に何も無く、通常の業務を行っていたが、魔道具課がまた画期的な魔道具を開発したので、陛下に報告するという話が入って来た。ただし、以前の計算具の様に小さいものではないらしく、王城の庭で報告するということだった。
話を聞く限り、ヴェルドレイク様が忙しい合間を縫って開発していた通信機が完成した様だ。通信機は流通改革の一端を担う可能性もある発明だし、ヴェルドレイク様はこれまでの実績もあることから、陛下をお呼びすることが出来たのだろう。希望者はその場で見る事も可能だとのことで、私も見に行くことにした。
次の日、指定された時間に王城の庭の一角に行くと、結構な人だかりが出来ていた。警備を行っている近衛騎士隊も大変そうだ。そんな中、ヴェルドレイク様は、台の上に置いた一辺50センチくらいの箱状の魔道具を触っていた。最終点検を行っているのだろう。
また、同様の魔道具が少し離れた所にも置いてあり、そちらでは魔道具課の人がいて、同様に点検を行っている。そして、二人の間の話が通じているらしいので、機能は問題無さそうだ。箱状の魔道具は、近くに設置されているアンテナらしき物に接続されている。アンテナを開発するのにも非常に苦労したとヴェルドレイク様は言ってたね……。
点検も終わったらしく、ヴェルドレイク様達が待機していたところ
「陛下の御出座しである。控えよ」
と、侍従がやって来て、皆跪いているところに陛下がお出でになった。
「さて、セントラーク男爵。本日は面白いものを見せてくれるそうだな」
「偉大なる陛下の貴重なる時を頂戴し、恐悦至極に存じます。本日御覧に入れます魔道具は、遠くに離れた者との会話を可能とするものであります」
「ほう、興味深い。早速見せてみよ」
「拝命致しました。まずはあちらに見えます者との会話、引き続き、遠方におります者との会話を実施致します」
それから、まずは庭内で、一応相手が見える所での会話が行われた。周囲の者達も、見学の態勢を取った。
「城庭2、城庭2、こちら城庭1。聞こえたならば、右手を挙げ、返答せよ」
その言葉が発せられた瞬間、あちらの者が右手を挙げた。
『城庭1、城庭1、こちら城庭2。右手を挙げた』
「城庭2、城庭2、こちら城庭1。右手を下ろせ」
するとあちらの者が右手を下ろした。意思疎通は出来ているように見える。周囲からは多少驚きの声が漏れていたが、会話は続いた。また、ヴェルドレイク様だけでなく、侍従が話してしっかり対応出来ていることも確認された。
それと、この魔道具は電気を使っているから風属性の魔道具になるが、属性変換器を使えば他属性の者でも使用可能であることや、必要な魔力も多くは無く、一般的な平民の成人程度の魔力量があれば使えるということも、実験によって証明された。
従来の連絡用の魔道具は、成人貴族クラスでないと使用出来ない上、魔力の消費が激しいために連続使用は難しい代物だったので、その点だけでも物凄い進歩だ。内容も限定されていたから、連絡内容の質も量も各段に向上するわけだ。あと、精霊が見える立場から言うと、あの魔道具はかなり風精霊を酷使しているから、何とかして欲しかったんだよね……。
「姿の見えている者と会話することにより、会話中の様子は概ねお分かりになられたと存じます。引き続きまして、遠方の者との会話を行います」
そう言ってヴェルドレイク様は、魔道具を再調整してから、話し掛けた。
「セントラ邸、セントラ邸、こちら王城。聞こえますか?返答お願いします」
暫くすると、魔道具から、聞き覚えのある声が聞こえて来た。
『王城、王城、こちらセントラ邸、この老いぼれの耳にも聞こえておるぞ』
その声を聞いて、多くの人は、前宰相のタレスドルク・セントラカレン様がこの場にいるのではないかと錯覚したようだ。耳を疑う人も少なからずいた。こうした周囲の驚きの中、会話は続けられた。
「セントラ邸、セントラ邸、こちら王城。祖父君、お手を煩わせて申し訳ございません。暫く会話をさせて頂きたく存じますが、宜しくお願いします」
『王城、王城、こちらセントラ邸。なに、孫の開発した魔道具の実験じゃからな。問題無い』
タレスドルク様は宰相を交代した後、セントラカレン領の公府セントリードにあるセントラカレン本邸にお住まいの筈だ。皆はそのことを知っているし、この実験のためにわざわざ隠れて王都に来るような方でもない事も、良く分かっていた。今回の会話の相手としては最適の人物だろう。
そして、暫くヴェルドレイク様とタレスドルク様の間で近況について話されていた。内容や会話としての応対についても、聞こえているとしか思えない。更には、陛下御自身が会話を望まれた。
「セントラ邸、セントラ邸、こちら王城。タレス、久しいな」
『王城、王城、こちらセントラ邸。おお、陛下、お久しゅうございます』
長年に亘り、ともに治世を行われたこのお二人が予告も無く会話をされたことで、相手は間違いなくタレスドルク様ご本人であることが確認され、この魔道具の実験は終了した。
「セントラーク男爵、これは良き物よの」
「偉大なる陛下にお褒め戴き、誠に有難き幸せに存じます」
「これを各所に配置すれば、我が国はより発展できよう。ところでこの魔道具、名は何と言う」
「恐れながら陛下、こちらの魔道具は『遠隔談具』と称しております」
「成程。王太子、どう思う」
陛下は、近くにいた王太子殿下に呼び掛けた。
「恐れながら陛下、この遠隔談具は、私が進めております政策に必要不可欠なものにございます。是非量産及び配備の許可を頂きたく存じます」
「うむ。委細構わず行うが良い」
「拝命致しました」
こうして通信機、こちらの世界では「遠隔談具」と称する魔道具は陛下に承認されることになった。遠隔談具を使い、また、その技術を更に発展させることにより、我が国はますます栄えていくことだろう。
陛下がお帰りになられた後は、遠隔談具の周辺に集まったその他の政府関係者達に、ヴェルドレイク様が説明を行っていた。私がそれを眺めていると、お父様がやって来た。
「セントラーク男爵は、島の開発においても活躍していたが、また素晴らしい発明をしたな」
「はい。まさかこの短期間に、あの魔道具を開発出来るとは、思いませんでした。あの方は天才と呼ぶに相応しいと思っておりますわ」
「確かにな。あの魔道具を王都邸と領の本邸に置けば、領とのやり取りも楽になる」
「それだけではございませんわ。例えば国軍についても、要所に連絡所を設置することで、伝令よりも早く、より軽易に連絡が出来ますし、船舶や空動車に搭載できるようになれば、遠方での活動や偵察などを行う際にも非常に有用ですわ」
「その通りだ。国軍への配備も検討しなければな」
お父様は、私と話した後、遠隔談具の所へ行って色々確認した後、国防省の職員と話していた。良く見ると、建設大臣や商務大臣なども早速導入を検討しているようで、職員と色々話していた。間違いなくこれまでの運用が一変する発明だからね……。
ただ、少々心配なのが、魔道具の作成に必要な魔石が希少だということだ。ワターライカ島の開発の際には、以前地龍様から貰った魔石を使ったりしたから問題無かったのだけれど、遠隔談具も様々な場所で使われるだろうから、更に需要が増える筈だ。
ビースレクナ領の魔石採集やリサイクルの体制も良くなっているらしいけれど、それでも足りなくなる可能性が高いから、輸入の他に魔石を入手する方法を探さないとね……。
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