第298話 帝国で発生した蝗害に対処した
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陛下のワターライカ島視察が終わり、5月から入植が開始されることになったので、私の開発に関する業務は落ち着いたので、溜まっていた書類を片付けていた時、宰相補佐官の一人が訪ねて来た。宰相閣下が私を呼んでいるとのことだったので、案内されて、宰相府の小会議室にやって来た。
「導師殿、来てくれたか。こちらで話を聞いて貰いたい」
宰相閣下の他、外務大臣や数人の官僚達の他、帝国大使である第2皇子がいた。一体何の話だろう?
「宰相閣下、帝国大使様までいらっしゃるとは、一体どのような内容なのでしょうか?」
「精霊導師殿、実は現在我が国は、蝗害が発生しているのだが、貴女の助力を頂けないだろうか」
聞いたところによると、現在帝国では、北部の砂漠地帯で蝗害が発生し、被害が出ているそうだ。蝗害自体は昨年から見られ、当初はそこまで被害が大きくはなかったが、2月頃に季節外れの嵐が発生して、雨が大量に降ったことが原因と思われるが、昨年よりはるかに大きな規模で蝗害が発生しており、このままでは帝国全土に大きな被害が出てしまうだろうということだった。
蝗害は地球でも特にやっかいな災害の一つだったが、こちらの世界でも概ね状況は変わらないらしい。あと、宰相閣下や外務大臣的には何らかの助力を行いたいようだ。元々宰相閣下は帝国との関係が深いし、外務省も帝国との交流を深めたいと言っていたから、その切っ掛けにしたいのだろう。
「精霊導師殿、何か蝗害の被害を抑える方法は無いだろうか?」
第2皇子が尋ねるも、私は暫く考えていたが……予想が正しければ何とかなるような気はしたものの、正直、現地で試してみないと何とも言えないということが判った。
「成功するかは判りませんが、一つ、現地で試してみたいことがございます。宜しいでしょうか?」
「……何を試すか伺っても良いだろうか? 我が国も軍により個体を潰したり、火魔法で燃やしたりはしたのだが、一部しか減らすことは出来ず、効果は出ていないが、それでもやらないよりは良いということで出動しているのが現状だ。今後の為にも是非聞いておきたい」
私は、帝国で試すことについて、説明を行った。
外務省と帝国大使館の間で、今回の私の派遣に関する協定が結ばれ、正式に陛下から命を受けた私は、第2皇子達と共にカラートアミ教の転移門を使って帝都に移動した。
今回については、どこまで蝗害に対処出来るか未知数だったため、正式な皇帝への謁見は無く、第2皇子に連れられて非公式に挨拶だけを行った。皇帝からは、こちらを見下す様な発言は無かったが、私にどこまで対処出来るか試す意志があるのは分かった。
帝国の担当者に案内され、蝗害が発生している地域まで転移門で移動した。ちなみにこの時の発動は帝国側で行っていたが、5人で発動した後、2人は倒れ、3人は倒れはしなかったものの疲労していたので、私が代わりにやっておけば良かったかな、と少し後悔した。
帝国は南半球にあるので、初夏であったロイドステアとは逆に、季節は冬の筈だが、この付近はヴァルザー大陸の北側、つまり赤道に近い側であり、寒くはない。それに、砂漠の様な風景が広がっており、かなり乾燥している。だから蝗害が発生するのだろうね……。
私に寄って来た風精霊に、飛蝗の位置を確認して貰い、空動車で近くまで移動した。この時、同行していた第2皇子や担当者は、空動車に初めて乗ったので喜んでいたようだったが、暫く移動して、遠くに見えた雲のような飛蝗の群れが見えて来たところで気分が落ち込んだ様だ。確かにあれは……あまり関わりたくないというのが本音だが、仕事だし、やるだけやってみようか。
飛蝗の群れの近くに降り立ち、私は和合を始めた。
【我が魂の同胞たる風精霊よ。我と共に在れ】
和合を終えた私は、こちらの方向に向かって来る飛蝗の群れに対して、掌握するために感覚を広げた。すると、数えきれない飛蝗がいることを認識出来た。よし、始めようか。
今回は、いつもは単に収納するために使っている異空間を、温度変化と時間経過が出来るように新たに設定したのだ。
これまでの異空間はそのまま保持されているが、新たに設定する際に多くの魔力を使う上、保持自体にもそれなりに魔力を使うから、通常は複数の異空間を持つことはしないのだが、今回は臨時ということで昨日設定しておいた。
新たなこの異空間は、相応の魔力を消費することで、常温ではない温度に保つことが出来、時間も経過する。これまで試しにしか使ったことが無かったが、今回の話が出た時に、飛蝗を効果的に無力化するには……と考えて思い付いたのが、これだ。
現在は風精霊と和合しているため、この付近一帯の大気の状態をはじめ、大気中の存在の状況が手に取るように解る。つまり、今の私は、無数に空を飛んでいる飛蝗達を、収納することが出来るのだ。飛蝗には魂が無いから、当然収納は可能だ。
片っ端から飛蝗達を、氷点下十数度の異空間に放り込み、数分入れた後放り出すと……飛蝗達は、動かなくなっていた。どうやら成功の様だ。これを周辺の飛蝗がいなくなるまで続け、終わった所で和合を解いた。
「精霊導師殿! 貴女が言っていた方法は、どうやら成功したみたいだな!」
「はい。飛蝗……というより虫は基本的に低温には弱いですし、高温で燃やすよりは魔力を有効に使えます。おかげで魔力にまだ余裕があるうちに、対処することが出来ましたわ」
今回、正直やってみないと判らなかったのが、魔力が持つかどうかだった。現在私の魔力は40万を超えているが、和合した状態で無数の飛蝗を捕らえ、冷却した場合、本当に魔力が持つか心配になったのだ。まあ何とか持ったので、今私の目の前には、無数の飛蝗の死骸があるわけだが。
こうして、途中休息を取りながら飛蝗の群れを探して殺し続け、10日で蝗害は終息した。ただし、現在地中にある筈の卵が孵化した場合はまた飛蝗が大量発生する可能性はあるが、当面の間は砂漠地帯を中心に警戒し、バッタを見かけたら殺していくそうだから、恐らくは大丈夫だろう。
蝗害対処を完了した私は、先日同様皇帝に挨拶をしたが、来た時とは違い、喜色満面で私に礼を言ってくれた。
「精霊導師よ、此度の働き、見事であった。本来であれば総出で祝いたい所だが……協定のため、それも叶わぬ。今宵はゆるりと休まれよ。後日、政府を通じて正式に礼をさせて貰おう」
ということでその日の夜はささやかながら皇室の皆様と晩餐を頂いた。とは言っても、一緒に食べた人達は皇帝をはじめ、多くの妃、皇子、皇女がおり、規模は宴に近いものがあった。
そういえばここは、第1妃から第4妃までいるそうだし、当然子供達も多いから、ホームパーティーでも規模は大きくなるよね……しかしながら、やはりというか何というか、和気藹々としたものではなかったな。妃達は張り合っているのがすぐに分かったし、皇子や皇女の間もそこまで仲が良いわけではなさそうだ。ということで
「精霊導師殿、今後も帝国で働いてみる気は無いか。今より好待遇で迎えよう。それに……」
「兄上、それ以上は協定に抵触しますよ。皇帝陛下ですら仰られておりませんのに」
「カルロベイナス……この位良いではないか。それに次期皇帝たる私が言っているのだ」
「おや、まだ皇太子となられてはいないのですがね……」
等々、第1皇子と第2皇子が目の前でやり合っている。やっぱりこういう所があるわけか……帝国で暮らすのは、正直遠慮したい所だな……。
晩餐以降も、特に問題となる出来事は無く、次の日転移門でロイドステアに戻った。第2皇子とともに陛下に謁見し、簡単に復命した後、第2皇子と別れて陛下の執務室で、詳細の報告を行った。ちなみにその場には陛下の他、宰相閣下と外務大臣、それにお父様もいた。まあ、以前やらかした国があったから、心配を掛けていた様だ。お父様には後で話をしておこう。
ということで、詳細な報告を行った。まあ、基本的には問題無く任務を達成したし、帝国側の私への態度も特に問題視する所は無かったが、外務大臣は帝国の情報を収集したいのか、後で帝国の詳細な様子を書面で外務省に報告して欲しいと言っていた。
今回の蝗害対処は無事に終了した。帝国の様子も垣間見ることが出来たので、見聞を広めるという意味では良い機会だったかな。
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