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第297話 ワターライカ島視察 2

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

視察2日目は、初日同様王城から仮行政舎に転移して、そこからハリス漁港まで空動車で移動した後、周辺の説明が行われていた。


「こちらは、沖が暖流と寒流の混交する潮目となっておりまして、大変良好な漁場となっております」


「成程。漁師を多く居住させるとともに、保存や輸送の処置を行えるように発展させよ」


「拝命致しました」


実際ここは、一大漁業基地として埠頭の整備を検討していて、それと同時にカマボコ工場やフリーズドライ技術を利用した食品工場なども建設予定だ。




そこから外周道沿いに移動し、北東のグアリスタ山の山麓部に到着した。この、通称「山麓砦」は今回の視察の目玉の一つだ。


「ここは、外敵が船舶により接近した際に攻撃を行う施設でございます。なお、外周道の主要な場所には、ここより規模は小さいですが、同様の施設を建設しております」


建設課長はここに陛下達を誘導した後、国防施設課長に現場の説明を交代した。目の前にあるのは前世の世界でもあった、砲台に似た形の建造物だが、正確には魔道具の一種だ。また、海岸より少し離れた場所に、的となる船が現在停泊している。国防施設課長が現状の説明を行った後


「今からこの『風魔弾発射具』を用いてあの船舶へ攻撃を行います。大きな音が発生しますのでお気を付け下さい。では、攻撃!」


国防施設課長が操作台にいる兵士達に命令をした。兵士達は手元の卓のようなものに手を当て、魔力を流した。すると、大きな音と共に目にも止まらぬ速さで発射口から弾が飛び出し、的となっていた船に命中した。船には大きな穴が開き、そのまま沈んで行った。


陛下達は大きく驚かれたようであったが……暫くすると、国防施設課長にご下問された。


「これが遠方の敵を攻撃するための魔道具か。聞いてはおったが、確かにこれは実際に見なければ想像もつかぬ。凄まじい威力よの」


「恐れながら陛下、その通りでございます。鉄に風砂を混ぜることにより風属性を付与して作成した『風魔弾』を、風魔法などにより発射する仕組みでして、御覧の様に、遠方の船なども破壊可能でございます」


「有効射程は、どの程度あるのだ?」


「現在は改良の結果、弾を飛ばすだけなら30キート程度までは可能です。そして、照準が付けられるのであれば、あの程度の船舶ならば10キート程度離れていても撃破可能でございます」


「何と……全くもって恐るべき魔道具よ」


これは、我が国とサウスエッドの共同研究の結果完成したものだ。主に魔法理論的なものや魔道具部分を我が国が、発射台や砲身などをサウスエッドが研究した。


ちなみにこれは、混ぜて鋳造すると風属性を付与できる風砂という物質を知った時に、私がこんなことが出来ると発言したことが切っ掛けになって作られたもので、風属性の弾丸を風魔法と電磁力で発射する、火砲とレールガンを合わせたような魔道具だ。


この世界には火薬は無いが魔法がある。弾丸を発射する際に使われる魔法は主に4つ、一度空気を圧縮してそれを瞬時に解放し、弾丸を押し出すもの、その動きに連動して風属性物体である弾丸を更に前方に押し出すように発動させるもの、それに加えて雷魔法を応用して発生させた電磁力を弾丸に作用させるもの、他にも発射口周辺の空気を風魔法で操作し、空気抵抗を減少させつつ弾丸の通過を安定化させることで、地球におけるレールガンの様に、火薬を使わずに弾丸を発射する魔道具が完成したわけだ。


発射には複数の風魔法士を必要とし、多量の魔力が必要なため同じ人員で何度も発射することは難しいそうだが、威力は単純に魔法を使う時とは比べ物にならないほど大きくなった。その分作るのにも苦労したようで、衝撃などに耐え得る砲身部分や弾丸を製造するのは、サウスエッドの技術力があって初めて可能だったと聞いている。


そういった関係もあり、この施設は魔道具の実験場としても使われた。忙しい中、試作された魔道具を私が運んで設置したので、結構印象に残っている。あと、電磁力の部分の開発については、ヴェルドレイク様が担当していた筈だ。色々なところで活躍しているなあ。


「この魔道具を、このような砦だけでなく、船舶にも搭載することが出来れば、もうウェルスーラ国に大きな顔をさせることは無いな。国防大臣、そちらの方はどうなっておる」


「恐れながら陛下、現在はサウスエッドと共同し、船舶に合わせた形に改修しております。来月には完成予定となっております」


国防大臣であるお父様が陛下のご下問に答えている。ウェルスーラ国の海軍は大幅に勢力を減らしたが、たまに少数でワターライカ島近郊を通過したりしているからね……。攻撃はして来ないし、一度空動車で近付いたら慌てて逃げて行ったから、そこまで恐れるものではないが、警戒はしておかないとね。


特にこのワターライカ島は、押さえられるとロイドステアとしては非常に痛い場所だから、防衛力は高めておくに越したことはない。




山麓砦にいた海兵団の兵士達を労った後、再び空動車で移動し、ターレス港に到着した。


「こちらの港も、昨日のライカル港に劣らず良い港となっておるな。こちらでは他国との交易を行いたいということであったが……商務大臣、どう思う」


「恐れながら陛下、こちらの人口が増加した上であれば、可能でありましょう。ただし、東公領の港とは交易品が重複しないよう、調整せねばなりませんが」


「成程。今後この島独自の特産品などが出来た場合は、検討せよ」


「拝命致しました」


まあ、既得権益を侵すのは宜しくないからね……。とは言っても、気候も本土とは違うから、色々と独自の特産品になりそうなものを考えていたりするのだけれどね。ちなみに、今の商務大臣は、ヘキサディス伯爵、つまりはリゼルトアラのお父さんだ。


その影響かどうかは判らないが、最近は絹織物の流通が増えた。アブドーム国産のものが多いが、ヘキサディス領のものも増えて来ている。去年の収穫祭の時の宴にリゼルトアラが自領で作った絹のドレスを着て注目されていたが……まあ、文化の発展は良い事だろう。




さて、ここで昼食を取ったら視察も終了だが……どうやら、あれも準備は良いみたいだな。


「む? 何やら変わった匂いがするな」


「確かこの匂いは……精霊導師殿、あれをこちらで準備していたのか?」


「王太子殿下、その通りでございます。この島は主食として米を生産致しますし、南方の香辛料でも栽培可能ですから、この島に適した料理と言えますわ」


視察に同行していた王太子殿下は、気付かれた様だ。出て来た料理は、カレーライスだった。


「ほう! 色と香りは面妖だが、何とも美味ではないか。これがサウスエッドの香辛料を使って作ったという、辛み煮掛け飯か。王太子より聞いてはおったが、これほどの料理とはな」


「陛下にお褒め頂き、海兵団の料理人も、この上ない幸せでございましょう」


カレーを初めて食べた陛下達は、驚きながらも美味しそうに食べている。ちなみにカレーは、以前王太子殿下がこの国で香辛料の料理を根付かせようと考えていたところ、私が案を出してサウスエッドの料理人達と協力して作ったのだ。


で、香辛料の配合に苦労したが、今年に入りやっと完成し、王太子殿下や王太子妃殿下にも満足頂けたので、王都の料理店でも出し始めており、それに伴い香辛料の輸入が増えているそうだ。


また、ワターライカ島の開発をしているうちに海兵団の料理人とも結構話をするようになったのだが、その際にカレーの話をしたら、物珍しさに興味を示していたので作り方を教えた結果、今では週に1回カレーが出て来るようになった。


そういえば日本でも海上自衛隊のカレーは有名だったな。金曜日はカレーの日だったっけ。


なお、肉や野菜は基本的にセントラカレン領のものを使っているが、じゃがいもだけはアルカドール領の奥方芋を使っている。最近は砂糖などと一緒にじゃがいもも売り出していて、王都でも扱われるようになったのだ。領から特別に取り寄せる必要が無くなって良かったよ。




こうして視察は成功に終わり、陛下達はワターライカ島の開発状況に満足されるとともに、開発に伴い技術などが発展したことを喜ばれた。入植に関しても裁可を頂き、来月から開始されることになった。これで更に開発は進んで行くだろう。私も楽しみだ。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


※ 造語 辛み煮掛け飯=カレーライス

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