第296話 ワターライカ島視察 1
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今日から2日間は、陛下や主要な大臣達によるワターライカ島の視察だ。
島までの移動は転移門で行い、島内の移動はワゴン型空動車7台で行う。1台は私がいつも使っているもので、3台は王家、3台はステア政府の物だ。
カーボンナノチューブとグラファイトの複合素材を魔法で作る場合、ワゴン型の車体を作るには非常に多くの魔力が必要とのことで、魔道具を介して複数人が魔力を提供しないと作れないようだ。このため、現在は車体を作るための魔道具を商務省と魔法省が共同開発中だそうだ。
しかしながら昨年、作れるようになるまで待てないということで、王家と政府用3台ずつ計6台分、私に車体作成の依頼が来た。陛下も所望されていたということで断れないし、政府についても必要性は判るので、作らせて頂きましたよ。
おかげで、近場の視察などは空動車のみで移動出来るため、移動時間が短縮出来るそうだ。王都から離れていると、騎士団が同行して警護をしないといけないから、あまり時間は変わらないが、それでも馬車と比較して揺れが格段に少ないから、大変好評の様だ。
視察は基本的に建設省が計画しており、細部をそれぞれの担当者達が報告することになっている。まずは仮行政舎に建設した、周囲を見渡せる塔に登り、全般を説明している。
「北の方向はこちらで、そこから北東に目を転じますと、この島で最も著明な山、グアリスタ山がございます。海面からの高さは、測量したところ、約4196クールでございます」
陛下達が望遠鏡などでグアリスタ山を確認している。グアリスタ山は、最終的にかなりの高山になった。当初は山頂に灯台を作ろうという話があったが、その必要も無いということで、山頂には灯台ではなく観測所が作られている。
あの山自体にも色々なものを作っていて、中腹に大きな窪みがあったから、それを大きくして地盤も固めた上で湖を作ったり、山麓には植樹を行ったりしている。それに、北西の山肌で、海に近い区域には、後から現地説明することになっているが、防衛用の砦が作られている。
あと、山麓の北部は、島に暖流が流れて来ていることもあり、年間を通じて気温が高くて、熱帯雨林に近い状態になっている、といった説明を、説明用のチャートとともに建設課長が行っている。説明が終わり、次はその他の地形の説明だ。
「島の地形は、グアリスタ山から南西に向けて緩やかに下っているものの、概ね平坦でございます。その他、ここからは確認出来ませんが、島の四方には港がございます。それらを基点として、概ね十字に道路を作っております。また、島の外周にも道路を作っており、上空から見ると概ねこのようになります」
「成程、主要な地域を結ぶ要所が、仮行政舎一帯ということだな」
「恐れながら陛下、その通りでございます」
ここから見えない場所についても説明されていく。それぞれ、東西のターレス港とライカル港、南北のボルク漁港とハリス漁港、東西道、南北道、外周道といった感じで命名されている。大きな河川は作られていないが、基本的には農地には用水路を、都市部には上下水道を建設中だ。
「植樹の状況はどうなっている」
「恐れながら陛下、外周の防風林を始め、概ね主要な区域の周辺に作っております。今後は入植の状況に応じて、対応して参ります」
植樹はかなり大変だった。ワターライカ島は初期段階では水が殆ど無かったから、上空に雲が発生せず、沿岸部か風で雲が流れて来ないと雨が降らなかった。雨が降らないと樹が根付かないだろうから、まず地下水脈を貯めた後で植樹を進めたんだよね。野ざらし状態だから、最初は防風林を何とか作って、内側に進めていった。
それに伴い、内陸部にも雨が降るようになった……のはいいのだけれど、今度は気候のせいか、夕方にスコールが降る日が増えて、表土が流されてしまいそうになったから、表土が流れないように農場予定地を土手で囲ったり、飛行兵団にお願いして、雑草の種を上空から播きまくったんだよね……。
植える樹も、カルテリア領やデカントラル領で、トンネルの開通に伴って新たに道路を作っていく必要があったので、道路予定地に私が行って樹を収納して持って来て植える作業をひたすら繰り返した。この際に作業を早く進めるために転移門を作って貰ったのだけれど、あれが無ければ、かなり表土が流されていたと思う。
そんな苦労もあり、いい感じで緑化が進んだわけだ。
概略の説明が終了し、空動車で主要な地域を実視することになった。まずはこの周辺、この島の中心都市になる予定となっている。まだ住民は住んでいないが、ある程度の住居や施設は作っている状態だ。速度を落として主要な場所を回りながら、建設課長がバスガイドの様に陛下に説明している。
「ふむ……井戸が無いな。上水道とはどのように作っているのだ」
「恐れながら陛下、まずは地下から水を汲み上げ、生活用水として使用可能か確認を行った後、街の各所に水の通る道を作って配分しております。街の所々に塔のようなものがございますが、あれは一時水を貯めるものでございまして、一旦上に持ち上げますと、下に流れる勢いを利用でき、地域への配分が容易になりますので行っております。なお、水を汲み上げたりする際には、先日報告された魔道具を使用しております」
上下水道は、水の有効かつ安全な利用ということで私が意見を出して、建設省側で検討して作ったものだ。当然、色々な技術を利用したのだが、ここの肝は、水を汲み上げる魔道具だ。
地下水脈は、汚染や海水の流入を防ぐようにそれなりに地下深く作っているけれど、現段階では地表にとめどなく湧いてくるものでもない。そこで、生活用水としてどう利用していくかを検討した時に、魔道具で水を汲み上げる話が出た。
しかしながら、それを人が発動させるのは非常に大変なので、ヴェルドレイク様が風によって自動で水を汲み上げる仕組みの魔道具を作ったのだ。簡単に言えば、風力発電を行って、そのエネルギーで水を汲み上げたわけだ。
電磁誘導により、回転力を電気、こちらの言葉では雷素に変えるという発雷機、発生した雷素を風の魔力に変換する雷魔変換器、風魔法で真空を作り、水を汲み上げる魔道具を作り上げてシステム化したヴェルドレイク様の功績は、私が色々助言を行っていた上の話としても、素晴らしいものだと思う。
ワターライカ島は、大体どこからか風が吹いて来るので、風車を設置すれば、風魔道具が使えるわけだ。なお、更に別属性に変換して魔法を使うことも出来る。当然水魔法で水を汲み上げる方式なども検討されたが、水量の効率上、真空ポンプを利用したものが採用された。この発明は、島内だけではなく国の様々な場所で利用されていくことだろう。
ちなみに下水道も作っている。こちらは配管を済ませているが、実際に人が住み始めてから逐次改修などを行っていく予定だ。ちなみに、最終点は地下水脈に戻す所になるが、そこで汚物などを回収する仕組みだ。これについては、地魔法を利用した魔道具が既にあるので、それを設置している。
そこから空動車でライカル港まで進み、港湾施設や駐留している海兵団の1個部隊などを視察した後、昼食となった。ちなみに食事については、私が精霊に確認した結果、異状が無いと報告した上で出されている。
「ふむ、最近『こめ』を使った料理を良く見るが、これは初めてだな。使っている魚介類もなかなか面白い。今後この島ではこういった料理も作られるということだな」
現在食べて貰っているのは、パエリアだ。当然、米はワターライカ島で栽培されたものではなく、テトラーデ産だが、海産物はこの付近で獲れたものを使って、海兵団の料理人が調理している。サフランっぽい植物もロイドステアに自生していて、薬として使われていたので、今回利用している。
島の特性上、こういう料理もいいだろうと思って考案したものだ。テトラーデでは海鮮丼なども人気だそうで、島の食卓には、ご飯と海の幸を使った料理が並ぶことになるだろう。
それから、外周道沿いに農地や牧場を予定する地域を視察した。外周道沿いには、一定の間隔で製塩施設があるが、塩を作る他、真水の供給という理由で作られている。そういった事を車内で説明しながら、ボルク漁港に到着した。
「ここは新たに漁港として開発した、ボルク漁港です。良好な漁場ではございますが、頻繁に魔魚が出没し、警備用の兵力を必要としますので、海兵団の駐留施設もあちらに建設中です」
「周辺に魔素が多いのやも知れぬ。付近を良く調査せよ」
「拝命致しました」
ちなみにここ、頻繁に魔鮫などが出るので、私が水精霊と同化して、水を操作して捕まえた上で陸揚げして、島の肥やしにしてるんだよね……。まあ、陸揚げ以降は他の人に任せてるけど、聞いた話では、解体して土に混ぜて、農場予定地に撒いているそうだが……今では雑草が結構生えているそうだ。
それから最初の仮行政舎に戻り、今日の視察を終えた。
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