第294話 約2年間の状況
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あれから2年と少々経った。
一時期はロイドステア包囲網が作られるのではないかと危惧されていたが、ワターライカ沖海戦に私が参戦しなかったことで決定的な口実が得られず、また、空動車などを脅威と考える国はそれなりにあったものの、防衛戦であったことや、従来から侵略戦争を行わないと宣言していたこと、また、同盟国やその他幾つかの友好国などの存在もあり、ウェルスーラ国やノスフェトゥス国が反ロイドステアの機運を高めようとするも、失敗に終わった様だ。
むしろ外務省の話では、同盟を結んでいるサウスエッド国の様に、交流を深めて新魔法の知識を得たいと考えている国が多いらしい。それと
「海底火山の噴火に対する緊急措置を侵略行為であると主張する国へは、誤解を避けるため、今後は距離を置かざるを得ないし、同様の自然災害が起こった際にも精霊導師の派遣を行うことは出来ない」
と、外務大臣が国外の様々な会合などで言っているそうだから、損得を考えて敵対よりは融和を選ぼうと考えた国が多かったということだ。私としても、難癖をつけられに行くのは嫌だからね。
そんなこともあり、私については主に、ワターライカ島の開発を中心に業務を行っていた。
ワターライカ島は、水源確保や植林、ある程度の開墾が進み、何とか人の住めそうな環境になったため、今度陛下や主要な大臣が視察をされることになった。現在は王城とワターライカ島仮行政舎との間に転移門が設置されているから、移動も楽になった。
この視察が終了し、裁可が下りれば入植が開始されることになる。とは言っても、時期が前後するだけで、入植そのものは決定事項なので、現在各領で希望者を募っているところだ。不景気で応募者が殺到している領が幾つかあるようだが、それとは別に、技術などを見込まれて招聘される人達も多い。
王都やセントラカレン領からは、建築士、鍛冶師、魔技士など、生活基盤を整える事業に携わる人達、アルカドール領からは、塩の製造や氷魔法を利用した仕事に携わる人達などが呼ばれている。
それに、ワターライカ島は、全般的には地球の気候区分で言う所の亜熱帯気候に近かったため、米とさつまいもを主要な作物として生産することになり、イクスルード領やテトラーデ領から現場作業を指導出来る人達を呼んでいる。この際、田んぼ及び用水路、さつまいも畑については、私が当面必要となりそうな分を作っているので、何とかなるだろう。
勿論、食料の安定供給や堆肥の生産などの面から、牧畜や漁業も重要だ。特にワターライカ島周辺の海域は良好な漁場のようで、様々な魚介類が獲れるため、元々の東西の港湾だけでなく、南北に漁港に使用出来るような拠点を作ったくらいだ。
なお、料理人や酒造りなどの職人も募集しているが、今の所応募は低調のようだ。現状では、現地での材料の入手に不安があるからね……。
ワターライカ島は、当面は国王直轄地だが、領地経営の基盤が出来上がれば、建国以来初の新規領地として、新しい領主を任命することになるかもしれないそうだ。別の方法での管理の可能性もあるけれども。
ワターライカ島開発チームは、建設省を主体としつつ、総務省、国防省や商務省、それに魔法省から私やヴェルドレイク様などが参加していたが、入植に伴い規模を縮小することになり、私についても出張の頻度も下がって行くわけだが、それでも領主に引き渡す所までは付き合うことになる。私としても、かなりの愛着が湧いており、それこそ自分の子供の様に感じているくらいだ。
子供と言えば、以前拾った獣人族の子供、ナビタンについては、結局身寄りとなる引き取り手は現れず、そのまま王都邸の使用人達が面倒を見ている状態だ。差別などがあるかもしれないと心配したが、クラリア曰く、ぬいぐるみの様でメイド達からは可愛がられている、という話で、すくすくと育っており、今では普通に話す事も出来る。
やはり、前世を持つ複数属性者なので、適応力が高いようだ。そして、前世は拳闘士だったと思われるが、身体を動かすことが得意らしく、最近は私の鍛錬にも参加するようになった。正直、私も体術の鍛錬がしたかったので渡りに船だった。
それも彼の場合、当初は前世で使っていた格闘術により私と対戦していたのだが、身体能力に優れた獣人族であっても、成人ならば判らないが現状では私に勝てる筈も無く、暫くは鍛錬の度に執拗に挑まれたのだが、ある時
「お嬢様が使う不思議な武術を教えて頂けないでしょうか」
と言われたのだ。そこで、合気道を教えることになった。こっそり書き溜めて作っていた教本を読ませるとともに、毎朝型稽古を教え始めた。
それに加え、折角持ってくれた興味を無くさないよう、併せてアンダラット法と魔力波を教えることにした。これで魔力視を習得することが出来れば、前世の様に胡散臭く思われることも無く、しっかりと理を学ぶことが出来るだろう、と考えた上でのことだ。
現在、魔力波までは習得出来ていないが、アンダラット法は習得し、以前から使えていた身体強化も更に巧くなったと喜んでいた。今後も体の成長に伴い、更に強くなるだろうし、稽古の質が高くなるのはこちらとしても有難い。
アルカドール領については、毎年の年末年始休暇の際に状況を把握して、それに応じて工事や品種改良などを進めた。特に、精霊酒については販売開始以降人気が高まっており、更に工場を6つ新設している。酒造用の大麦も普及させているので、今後は更に良い酒が出来るのではないかと思う。
また、お菓子については、王太子妃殿下が主催する品評会が毎年収穫祭の時期に行われるようになり、甘味研究所の力作が出品された。それが好評を博し、先日王都にもアルカドール風甘味店が出店されるまでになった。元々アルカドール牛関連で、食に関しては一定の知名度があったこともあり、開店以来大人気らしい。
開店の際は私も呼ばれ、幾つかの品を食べさせて貰ったが、以前より更に美味しくなった。店長は甘味研究所の初期メンバーの一人だし、既にこちらで再現出来そうな前世の知識は教えてあるから、問題無いだろう。たまに王城に店の職人が招聘されて、王太子妃殿下のために新作のお菓子を作っていたりもするが……御用達店になったということかな。
砂糖や塩の製造も好調で、他領にも相応の対価を頂いた上で製法を普及中だ。その利益は開墾や道路整備、その他産業振興や人材育成に使われているため、領の景気は非常に良い状態が続いており、領軍の整備にも予算を付けられるようになった。
観光業については、新しい料理や水晶像なども人気だが、美肌魔法が富裕層の奥様方に大人気で、避暑地として別荘を作って定期的にやって来る人達も増えた。なので、私も帰省時に温泉の整備に力を貸したんだよね……。
景勝地を選定して貰い、温泉を掘って、ある程度周辺の整地などをやったら、次の年にはもう温泉街が出来ていた……のはいいのだけれど、私の石像を置くのはやめて欲しかったよ……。
他にも、お兄様のフリーズドライ魔法などを利用した携帯食料も作り始めた。アルカドール領は人の出入りも増え、隊商などを中心に携帯食料の需要が増えていたこともあり、こちらも大当たりして現在製造工場と魔法の使い手を増やしているところだ。
お兄様に関係する所では、魔力増幅は概ね魔法研究所の人が再現することは出来たそうだが、まだ改良の余地が大いにあるようで、研究のためにたまに王都に来ている。
そういえば、お兄様は遠視が王都まで届くようになったので、たまに私の様子も確認しているようだが、問題無ければすぐに気配は消える。それに、とうとう転移門を一人で発動できるまでに魔力量が増加したようで、魔法研究所などに用事がある時は自力でやって来ている。
なお、そういった時を利用して、婚約者であるチェルシーと会っているようだ。チェルシーは魔法学校に在学中なので王都にいる。私もそのうち義理の姉妹になるのだから……と親しくさせて頂いているが、お兄様ともそれなりに関係を築けているようだ。
家族の状況だが、お父様は国防大臣となったため、王都に住んでいる。領主の仕事の多くをお兄様に任せているようだ。それは問題無いのだが、ちょくちょく私の執務室に遊びに来るのはやめて欲しいものだ。
お母様は基本的に領地にいるが、必要に応じて王都に来ている。お兄様とチェルシーが結婚するまでは、この形をとるらしい。まあ、領内のご婦人達をまとめないといけないから仕方ないかな。
お祖父様はまだ元気の様だが、最近はお兄様に領主の仕事の助言などを行っているので、負担がかかっていないか心配だが、本人曰く、私が結婚するまでは元気でいるそうなので、暫くは大丈夫と信じよう。
友人達の状況だが、パティは精霊課で頑張っていて、今では地の精霊術士のリーダー的な位置付けのようだ。何だかんだと活躍しているようだからね……。
ティーナ、ルカ、セレナは魔法学校を卒業した。
ティーナについては雷魔法のエキスパートとして、魔法兵団長直々にスカウトされて魔法兵団に入ったから、今後も活躍するだろう。
ルカもスカウトされていたらしいが、光魔法を分領で広めたいと言って分領に帰った。確かに、鉱山での照明や、水晶像と光の組み合わせなど、様々な所で役に立ちそうだ。
セレナは分領で、港湾関係の仕事を手伝っているそうで、たまに船に乗って遠出しているらしい。まあ、前から旅行に興味があったらしいから、丁度いいのかな。
ネリスは魔法学校に在学し、今年卒業予定だが、以前言っていたように魔技士を目指すそうで、既に父親であるコルドリップ先生の伝手で魔道具課に売り込みをしているそうだ。現在光魔法を使える魔技士が殆どいないから、恐らくは採用されるだろう。
リーズは、かつての病気の影響は既に無く、希望通り騎士学校に入学し、日々頑張っているようだ。ちなみに騎士学校も女子学生を増やしているそうで、以前からその傾向はあったが、正式な教官となったレイテアの指導もあって男女とも切磋琢磨し、レベルが上がっているそうだ。
親戚関係で言えば、一番変化があったのはミリナだろうか。何と、ダリムハイト様と結婚してしまったのだ。
まあ、在学中から怪しいとは思っていたが、気が付いたら恋仲になっていて、いつの間にか縁談が進んでいたというね……。家柄も問題無いし、イクスルード家は本人が望むなら、という感じだったそうだ。
ただ、ビースレクナ側では父親のフィル叔父様が難色を示したらしいが、母親のレーナ叔母様の後押しもあり、渋々ながら
「武術大会に出場して成果を上げることが出来たなら、娘との婚姻を認める」
と条件付きで結婚を認め、ダリムハイト様が去年の武術大会に出場し、準々決勝には進むことが出来たので、フィル叔父様も認めたようだ。
ちなみにこの際、現在騎士団長となっているシンスグリム子爵が同門だったらしく、その繋がりで特訓を受けて、かなり剣術の腕が上がったようだ。夫人であるレイテア繋がりで私もたまに対戦したが……以前指摘した対応力の無さはかなり改善していた。まあ、そんなこんなで二人は無事結婚し、次期領主夫妻としてイクスルード領に住んでいるわけだ。
ミリナの弟のワルター、テトラーデ領のアレクやセディは魔法学校に在学しており、たまに家にも遊びに来て、剣術や魔法の練習を行っているが、なかなか筋は良さそうで、次期領主として頑張っているようだ。
そんなこんなで色々状況は変化しているが、私も漸くこちらの世界において成人と認められる15才になる。神託のおかげで暫くは結婚の話は無く、強引な囲い込みなども受けていないので平穏に過ごしていたが、今後は大人の扱いを受けるわけだから、そういった面にも気を付けて行かないとね。
まあ、本当は稽古に打ち込みたい所なのだが、単純に稽古を繰り返しても到達出来ない領域があり、そこには何かしらの気付きがあって初めて進めるのだと思っているので、回り道に見えても、普段の生活や業務を鍛錬に活かしていこうと思っている。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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