第291話 獣人族の子供と出会った
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
特使としての報告を陛下や外務大臣に対して行ったり、省定例会議に参加したりの後、久しぶりに通常の休日を迎え、鍛錬や読書などで過ごした。本当に、普通の日々は有難いね……。
第3週に入り、予算審議の準備が大詰めを迎え、私の所にも色々確認する文書が来ていたが、それらを片付け、ワターライカ島に行く準備をしていた。
今後の開発のため、まずは港を本格的に工事したり、海兵団の一部を常駐させ、警備を行うことになり、早速第1便が出るのだ。私も当面の水源の確保などのため、急遽それに同行することになったわけだ。
海兵団の船2隻と政府の輸送船1隻が海兵団本部のあるプレドックから出港した。前回向かった際は2日で到着したそうなので、今回も同様だろう。
なお、私については仮に作った港の様子を見るため、海兵団の人達も数人乗せて空動車で先行した。私が空動車で移動すれば、プレドックからは4時間もあれば到着出来る。精霊に聞けば方向も教えてくれるし、迷うことも無いだろう。
西港湾、今後はライカル港と呼ぶことになった湾に到着し、以前建設した仮設庁舎で休憩した。休憩後、海兵団の人達が埠頭の確認に行ったので、私は地下水の様子を確認しようとしたところ、風精霊がやって来た。
『愛し子~、嫌な感じの人達がいるよ』
この島には当然住民はいないが、誰かが入って来たのだろうか。
「風精霊さん、その人達はこの島のどの辺りにおりますの?」
『ここの反対側に泊まっている船の近くにいるよ』
ということは、やはり東側の湾を利用して停泊して、上陸したのか。国軍の可能性は無いだろうから、商船又は海賊か。何にしろ、様子を確認しなければならないだろう。テルフィに海兵団の人達を呼んで貰い、空動車で東港湾に向かい、様子を確認することになった。
東港湾に近付いたので空動車の高度を下げ、慎重に接近した。風精霊の話では、現在は船周辺にいるらしいが、この島には隠れる所が無い。ある程度近付いた所で停止し、一旦風精霊と感覚共有して、様子を見ることにした。
湾岸に移動すると、確かに船が1隻停泊している。外観は結構ぼろぼろで、とてもまともな船には見えない。近くに人がいるので、近寄ってみた。
「お頭、やっぱりこの島、食料どころか水すらありやせんぜ」
「知らねえ島だったから期待したんだが……まあ、休んだら出航だな」
「ここは結構良い港になりそうなんですがね……こんなに開けてちゃあ隠れ家にもなりませんしね」
「そういうこった。この付近は航路も関係ねえから、商船の待ち伏せにも使えねえし、明日には出るぞ」
「わかりやした」
……話を聞く限り、海賊の様だ。後は、概略の人数を確認して、一旦戻ろう。
感覚共有を解いた私は、皆に状況を説明した。
「海賊でしたら、放置は出来ませんね。導師様、どの程度の勢力だったのでしょうか?」
「船外にいたのは20名程ですわね。中にも概ね20名程いるようでしたわ」
「こちらの勢力では、まともにやれば厳しいですね」
「では、私が風精霊の力を借りて気絶させますので、その後捕縛しては如何でしょうか?」
「導師様は、そのような事もお出来になるのですか? ……ならば、その方法で進めさせて下さい」
ということで、再度風精霊と感覚共有を行い、船の位置に戻って海賊らしき人達を弱い雷魔法で気絶させ、空動車でやって来て、一斉に捕縛した。
捕縛した海賊達は、一旦集めて地魔法で洞穴を作り、入口に格子を作り、閉じ込めた。船から食料と水樽を搬出して洞穴の中に置いたので、海兵団が来るまで死ぬことは無いと思うが……そこは何とも言えないところだ。
海賊達を捕縛したので、改めて船内を探索した。携帯食料や水以外は、外国のお金や武器などが大量に発見された。この辺りは国に接収される筈で、処置としては楽だったのだが……。
船底に近い部屋には、みすぼらしい格好をした女性が3人いて、呼びかけても反応が薄かった。恐らくは、海賊達に弄ばれたのだろう。この人達は、直ちに連れ帰らないといけないな。
そして、隣の部屋の前に行くと、中から泣き声のようなものが聞こえた。部屋に入ると、ベッドで赤ん坊? が泣いていた。ただし、その赤ん坊は、体が動物の様に体毛で覆われている、所謂獣人族だった。
獣人族は、この世界における人種の一つで、ロイドステア国では見かけたことは無いが、サウスエッド国ではたまに見かけることがある。赤道に近いカナイ大陸では多数民族らしく、総人口の6割程が獣人族だそうだ。
この世界は、カラートアミ教において、神の前では全ての人種は平等だと説いていることもあり、少数人種への迫害が行われているという話は聞いていないが、偏見などはかなりあるという話だ。
何故獣人族の赤ん坊がここにいるのだろう……と思いつつ、泣き止んだので近付いて顔を見たところ、驚いてしまった。何と、左の瞳が緑色、右の瞳が茶色のオッドアイ、つまり複数属性者だったのだ。
という事は、この世界の転生者であるわけで、もしかすると意識があるかもしれないと思い、じっと見つめてみたところ、こちらをじっと見つめてきた。しっかりとした意志を感じる。
「貴方は、話が出来ますか?」
「あーあー、うー」
どうやら話せないようだ。獣人族であっても、この位の赤ん坊は、話せないらしい。では、感覚共有を利用して、念話を使ってみよう。
念話には2通りあり、1つは姿の見える相手に対し、普通に話すように意思を伝えるもので、もう1つは、近傍にいる存在と一時的にパスを繋ぐことにより、思ったことを相互にやり取り出来るものだ。
前者は私や精霊術士が精霊達と意思疎通する時に精霊が行うもので、こちらは力を使わないから気楽に出来るそうだ。後者は、私が生まれて間もない頃で話が出来なかった時に、様子を見に来た精霊達が使ったものだ。こちらは結構力を使うらしく、よほどの時でないと使わないそうだが、今回使うのは、パスを繋ぐ方の念話だ。
風精霊に姿を見せて貰った上で感覚共有をして、目の前の獣人族の赤ん坊と念話のパスを繋ぐ。
『貴方、私の声が、聞こえますか?』
『……なっ? 頭の中に、声が響く!』
『これは、貴方の目の前にいる私が、精霊の力を借りて、貴方と念話を行っているのですわ』
『ね、念話? 何だそりゃ……あんた、何者だ?』
『私は、ロイドステア国の者で、フィリストリア・アルカドールと申します。貴方は?』
『俺は……あー、そうだな、名前はナビタンと母に呼ばれていた。父はサットパータ国のブアース商会の会頭だったから、ナビタン・ブアースという名になる筈だ』
『有難うございます。ちなみに……その……ご両親は、やはり……?』
『ああ。この船の海賊達にやられたらしい。俺の体が動けば……くそっ!』
『ご愁傷様です。海賊達は捕らえましたわ。ご不満かもしれませんが、我が国で裁かせて頂きますわ』
『あー、それは、俺に力が無いだけだからな。仕方がねえ。それより俺はどうなるんだ?』
『とりあえずは我が国が保護させて頂きますわ。悪い様には致しません』
『まあそうなるよな。宜しく頼むぜ。こちとらまだ何も出来ねえんだ』
『ちなみに、ですが、何が得意なのですか?』
『今はこんな形だが、大きくなれば、格闘術は出来ると思うぜ?』
『まあ、格闘術ですか? それは素晴らしいわ!』
『ん? あんた、格闘術に興味があるのかい? そんな別嬪さんのくせに』
『こう見えても、武術を嗜んでいるのですわ』
『へえ、一度、お相手して頂きたいものだね』
『大きくなりましたら、宜しくお願いしますわ。それで、今後の話ですが……』
私はナビタンに、これから海賊に囚われていた女性達と共に、一旦王都に戻ることを説明し、その後はテルフィ達と協力して、女性達とナビタンを空動車に乗せ、王都まで前進した。
流石に夜中になってしまったが、近衛隊の詰め所に事情を話して女性達を預けた。ただし、流石にナビタンは預けることも出来ず、一旦アルカドール家で預かることにした。夜中にいきなり戻って来て、赤ん坊を預けられたにも関わらず、うちのメイド達はしっかり世話をしてくれるようだ。有難う。
ナビタンにも念話で確認したが
『その方が、扱いが良さそうだからな』
と、了解は得られたので問題ないだろう。
その後は再びワターライカ島まで戻って、予定されていた水源の確保などを行った。
捕縛した海賊達については、海兵団によって王都まで連行されたようで、そこで裁判を受けることになる筈だ。ワターライカ島の警備についても今後は海兵団が行ってくれるので、海賊に上陸されることは無くなるだろうし、一先ず安心だ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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