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第290話 妖精族の建国祭 2

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

建国祭当日になった。


午前中は精霊女王様や大樹への感謝などを意味する儀式を行い、正午にクーリナルルドース様の式辞があり、その次に私の祝辞があった後、大精霊が登場するそうだ。その後は祭りが始まり、皆で楽しむという流れらしい。儀式に参加する人達以外は基本的に祭りの準備などを行っているそうで、私は皆さんの様子を見に行った。


飾りなどは前日までに終了し、今は食事やお酒などの準備をやっているようだ。それに、祭り用の衣装を準備していたり、楽器の調整を行っている人も多かった。妖精族の人達は、笛や竪琴を使う人が多い様だ。ちなみに大樹の下に奏者を集め、昼以降は魔道具で周囲に音を広めるらしい。交代しながら祭りの間演奏し続けるそうで、なかなか大変のようだ。


あと、祭りの中で行われる演劇に参加する人達はその準備を行っていた。役者は勿論のこと、道具係やナレーターみたいな人もいた。ヨルドナナラースさんの娘さん、イリナピピラーデさんにも会った。


「今回の建国祭でロイドステア国特使として参った、フィリストリア・アルカドールです。昨日は父君のヨルドナナラースさんには建国祭についてご教授頂きましたわ」


「イリナピピラーデです。昨日は父が取り留めも無く色々話したせいでさぞご迷惑だったでしょう」


「とんでもございません。どのお話も興味深く聞かせて頂きましたわ。本日イリナピピラーデさんは、主役だそうですわね。楽しみにさせて頂きますわ」


「ご期待に添えるかは判りませんが、建国の様子に思いを馳せて頂ける手助けとなれば幸甚ですわ」


イリナピピラーデさんはそう言って席を外し、他の役者の人達と打ち合わせを始めた。




儀式の方は恙なく終了し、建国祭が始まった。クーリナルルドース様の式辞や私の祝辞も終了して……今回は、風の大精霊がやって来たようで、つむじ風が巻き起こったかと思うと、若い女性の姿をした精霊が姿を現した。


『やあ! 森の護り手達! 今日も木々は元気の様だね。誓約の樹も喜んでいるよ。僕からはこれをあげよう。みんなと仲良くね!』


風の大精霊はそう言うと、大樹を中心としてかなり広範囲に亘って、恐らく風属性のエネルギーを活性化させ……どうやら、その範囲にいる人達の、風精霊達との意志疎通の力を高めてくれたようだ。私自身がどうなったかは判らないが、近くにいた風属性の妖精族の人が教えてくれたので、確かな事だろう。また、風の大精霊は、こちらへやって来て、挨拶してくれた。


『やあ、初めまして、女王様の愛し子』


「風の大精霊殿、お初にお目にかかりますわ。精霊女王様の加護を賜りました、フィリストリア・アルカドールです。この度は、お会いできましたこと、真に光栄でございますわ」


『本当はもっと早く会いたかったんだけど、僕も色々仕事があってさ。火の、水の、地のとは会ったんだよね』


「ええ。水の大精霊殿には、少し前にも干ばつの話がございましてお会いしたのですが、その他、先日の海底火山の噴火の際は、御三方にも協力頂き、被害を最小限にすることが出来ましたわ」


『うんうん、聞いたよ。でも、僕だけ仲間外れみたいな感じだったからさ、丁度今日会えて良かったよ』


「そうでしたか……今日の幸運に感謝を」


『それじゃ僕は行くよ。また会おうね!』


風の大精霊は、慌しく去って行った。妖精族の人達は皆、風の大精霊に感謝の言葉を呟いていた。




そして、祭りが始まった。私は食事の用意された席に案内され、まずはそこに座ったクーリナルルドース様達、ウォールレフテ国の主要な方達との歓談に興じた。


今回は風の大精霊がやって来たが、概ねローテーションで火→風→水→地の順でやって来るそうだ。以前は精霊女王様がやって来たこともあったと記録に残されているが、少なくともここ暫くは無いそうだ。


以前サザーメリド国の件でやって来た時も、1~2分程度しかいなかったが精霊達がその間は動きを止めていたから、女王様が気軽に来ると、世界に影響を及ぼしかねないからね……。


その他、最近の出来事などの話に興じていると、演劇が始まるそうで、舞台の方に注目した。少々遠かったが、周囲の人達は身体強化の応用で視力を高めているようで、私も同様に視力を高めて観賞させて貰った。音声については伝声の魔道具により会場内に伝わっており、先程から流れていた音楽も、演劇に合わせたものに変化していた。



妖精族の起源とされる出来事を題材とした演劇が始まった。



太古の昔、今のような国ではなく、人が小部族毎に集落を作って暮らしていた時代は、集落間の争いが絶えなかった。


そんな中、ある女性が精霊の言葉を聞いた。精霊女王様が、大樹の護り手を探しているとのことだった。イリナピピラーデさんが演じるその女性は、争いが絶えない世を厭い、その話に賛同しようと考えるが、まずは夫に相談した。夫もその話に賛同したので、集落を去ることにした。


実は、前々から精霊と話が出来る女性のことを不気味だと周囲に言われており、夫はそれを不満に思っていたらしい。そして、子供も連れて家族で集落を出て、精霊の導きにより、大樹の元にやって来た。


大樹には不思議な力があり、また、周辺の木々も生き生きとしており、森の恵みにより暮らして行こうと家族は考えた。そして、同様に精霊に導かれてやって来た、総勢11組の夫婦やその子供達と力を合わせて、大樹の元で新しい集落を作ることになった。


その際、精霊女王様が(描写のみ)現れて、こう言った。


『我は精霊女王。この樹の元に集った者達よ、汝らは今後、どう在りたいのじゃ』


すると、イリナピピラーデさん演じる女性が答えた。


「精霊女王様、私達は、自然と平和を愛し、この大樹と森を護って暮らして参ります」


『ならば我等精霊は、汝ら自然と平和を愛する者と共に生き、その力となろう』


その時、大樹が光り輝いたそうだ。


『おお、神もこの誓約を祝福された。森の護り手達よ、この樹が証じゃ』


「誓約の樹を、子々孫々に至るまで、受け継いで参りましょう」


こうして妖精族は、大樹と森を護り、共に生きるようになったそうだ。で、この時の大樹から出た光を浴びた時に、これまで精霊を見ることが出来なかった夫達や子供達も見ることが出来るようになったそうだ。これが本当かどうかは、今となっては判らないが。


その後、集落の長であったイリナピピラーデさん演じる女性が女王様の加護を得たり、大樹周辺の集落から襲撃を受けそうになった時に、精霊達と力を合わせて撃退したりする話があったり、大樹と共に暮らす日々が続くうち、いつしか姿が変化し、寿命も伸びて行った話などが語られ、劇は終了した。



練習の成果か、非常に面白く、また、内容も大変勉強になった。こちらに来て良かったよ。


その後は席を訪ねて来る人達と色々話したが、やはり、劇に関する話題が多かった。そのような中、イリナピピラーデさんが、ヨルドナナラースさんに連れられて挨拶にやって来た。


「素晴らしい劇でしたわ。お疲れ様でした」


「愛し子様に喜んで頂けて、安心しました」


それから、イリナピピラーデさんと少し話をした。


「イリナピピラーデさんは、ロイドステア国にいらしたこともあったのですね」


「パットテルルロース様の下で働いておりましたが、この劇のためにこちらに帰って来たのですわ」


「では、この劇はかなり前から準備されていたのですね。任を全うされて、喜びもひとしおでしょう」


「ええ。そう言えば、愛し子様は王都のトラクト工芸品店を御存じでしょうか?」


以前パティ、サリエラ、ラクノアと一緒に行った店の名前だったかな。


「……確か、以前行ったことがありますわ……ああ、そう言えば、大樹の絵が飾ってありましたわ」


「えっ! そうなんですか? もう……あの絵は店に飾るために渡したわけではないのに」


「しかし、あの絵を見ていると、幸せな気分になりましたわ。店主殿も、同様に感じていたのでしょう」


「そのように言われますと、恥ずかしいですね……」


それからイリナピピラーデさんにトラクト工芸品店での話を聞いた。最初は大使館員として、ロイドステア国の実情の調査のために店を訪れたらしいのだが、店主達と話が合って、たまに店の手伝いをしたりするほどに仲が良くなったらしい。しかしながら、家の事情でこちらに帰ることになり、その際にあの絵を渡したそうだ。絵を見た時は飾られた経緯を不思議に思っていたのだが、謎が解けた気分だ。


その後も皆建国祭を楽しみ、夜遅くまで騒いでいたようだが、私は早めに切り上げて就寝させて貰った。




次の日、私達はロイドステア国に帰ったが、その際にイリナピピラーデさんも同行した。家業の一環であった劇の主役も務めたので、大使館員に復帰するそうだ。あの店主も、喜ぶことだろう。なお、今回もお土産として、大樹の枝や葉っぱなどを沢山貰った。有難いことだ。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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