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第287話 ワターライカ沖海戦 2 ウェルスーラ国海軍総司令官視点

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。


※ 戦闘の描写があります。

「何だと! ロイドステアの沖に突如として島が誕生しただと?」


儂はあまりにも荒唐無稽な話に、思わず政府の職員に強い口調で聞き返してしまった。しかし彼は、陛下が儂を招致されたことを伝えに来ただけだ。儂は彼に謝罪し、直ちに陛下の元に向かった。


儂は陛下より、ロイドステア国沖に新たに誕生した島を確保せよ、との命を賜った。


詳細は、拝命後に国防省と外務省の担当者から説明があり、どうやら以前から警戒されていた海底火山が噴火した影響で大きな島が誕生したそうで、ロイドステア国駐在大使からの緊急連絡によって状況を把握した政府は、検討した結果、ロイドステアに先んじて新島を領有し、我が国の勢力拡大を図ることを陛下に奏上して裁可を頂き、我々の出番となったわけだ。




儂が海軍総司令官となってから、外洋での商船の護衛などは頻繁に行って来たが、他国との戦闘は殆ど無かった。我が国の海上兵力は世界一であり、海軍は通称「無敵艦隊」と呼ばれ、自他共に認める精強さを誇っている。我が軍の旗が見えたならば、海賊共は雲隠れし、商船の乗員は平伏するのだ。ロイドステア如きが我が軍の相手になろう筈もない。


しかし、あの国には、人知を超える凄まじい力を持つ精霊導師なる存在がいる。今回島を誕生させたのもその精霊導師だという話で、流石の無敵艦隊もそのような非常識な存在とは戦えぬと思ったのだが……。


此度に限っては精霊導師が参戦した場合、外交的に嵌めて対ロイドステア包囲網を作れる状況であり、あの国も世界各国を敵に回す愚を犯そうとは思わないだろうから、精霊導師の参戦はあり得ないとのことだった。それならば何の障害も無く王命を完遂出来る、その時はそう思っていた。




海軍は商船護衛艦隊以外で3個艦隊120隻を保有しているが、国防の為に1個艦隊を残し、2個艦隊80隻で目標の海域に進出することになった。本来ならば残存兵力は1個隊10隻でも良い位だが、ロイドステアの同盟国であり、近隣国のサウスエッドには、あの忌々しい魔導師がいる。


海上兵力の調査の為、政府が密かに海賊崩れ共を雇ってサウスエッド近海で暴れさせたが、奴の魔法で全滅させられたそうだ。このため、1個艦隊を牽制として残すことになったのだ。まあ、2個艦隊もあれば、ロイドステアなど余裕だろうがな。


何せ我が軍は、最精鋭の海兵達が最高の軍艦を操っているのだ。しかも軍艦には、我が国が誇る技術者達が開発した、水魔法で水圧を発生させることにより稼働する投石機が何台も搭載されている。しかもこれは、専用の鉄球も投射可能なのだ。


本来は陸上において地魔法で稼働する投石機だが、地魔法は海上では使えぬ故、水魔法を用いて稼働する方式に変更したのだ。これにより、矢や魔法の届かぬ遠方への強力無比な攻撃が可能となるのだ。ロイドステアの海兵団は、精霊術士を利用することで、巧みな操艦を行うと聞いているが、奴らなど投石機で打ち砕いてくれるわ!




着々と進んだ準備が完了し、多くの国民の見送りを受けて、我々は出発した。儂が指揮する無敵艦隊は、約20日の航海を経て、目標の海域へ到達する予定だ。喩え凪であっても乗艦している魔法兵達により風を発生させ、常に時速20キート以上の船速で進むのだ。悪天候なども物ともせず、航海を続けた。


途中補給のため、ノスフェトゥス国の港に立ち寄ったが、この国は仮想敵国ではあるものの、近年国力が低下しているため我が艦隊の敵ではない。それに数年前、ロイドステアに攻め込んで返り討ちに遭ったからか、港の酒場に飲みに行った兵達の中には、ロイドステアをやっつけてくれ、と言って来る者が少なからずいたそうだ。気持ちは解るが、我々はノスフェトゥス国の為に戦うのではない。陛下の為、祖国の為に戦うのだ。




英気を養った我が艦隊は、更に数日航海を続け、いよいよ新しい島が誕生したという海域に近付いた。気合を入れて、命令書にあった位置を目指し進んだのだが……少し妙な事があった。


天候を読むのに長けた部下が、明日は強い風を伴った雨だと予想したにも関わらず、本日は風が吹かない穏やかな晴天となった。まあ、慣れない海であれば、予測が外れることもあるだろうし、操艦上特に問題があるわけでもない。それに、件の島を発見し易いのだから良い事だ、と観測員に遠方を監視させていた。


すると、変な物が南の空から沢山飛んで来た、という報告があった。それらが何なのか最初は判らず訝しんでいると、それらが目前に迫り、漸く我々にも理解出来た。


「敵襲―――――!!」


何と、奴らは空を飛ぶ謎の乗り物に乗って、我が艦隊を襲撃に来たのだ! 初めての事に混乱しつつも弓矢や魔法によって攻撃した。しかし、空中の敵には容易に躱され、逆に風魔法で帆を攻撃され、艦隊が停止することになった。我が軍自慢の投石機も、あの乗り物には狙いを定めることすら叶わなかった。


その後、何故か奴らは攻撃を止め、来た方角に引き返した。それを見て儂は、奴らの攻撃力が精々、我々の進行を一時的に止める程度に過ぎないため、戻ったのだろうと判断した。艦にはそれぞれ予備の帆が積んである。儂は直ちに破れた帆の取り換えを命じた。


恐らく奴らの戻った方角に向かえば、島がある。わざわざ方角を教えに来てくれたようなものだ……と思っていたところ、再度奴らがやって来た。今度は接近される前に攻撃すべく、弓兵と魔法兵を前方に配置した。


ところが今度は、移動速度が遅いものの、矢や魔法の届かない高度で接近して来た。仕方なしに弓兵と魔法兵を待機させるが、あれでは奴らもこちらへは攻撃出来んだろう……む? よく見ると、奴らは何かをぶら下げていた。艦隊の上空にやって来た奴らは、次々とその何かを落として行った。


「退避―――!」


それらは艦上に落下し、粉々に砕け散り、内容物らしき液体が周囲に飛散した。これは攻撃……なのか?


だが、我が艦には目立った損壊は無い様だ。被害の状況を確認しようと落下点に近付こうとしたところ、異臭がした。そして、上空から、小さい何かが落ちて来たように見えた。


その時突然、激しい炎が発生し、艦上で爆発が起こって吹き飛ばされた儂は海に落ち、気を失った。




目を覚ました時、儂はどこかの寝所にいた。怪我は恐らく神官が治癒してくれたのだろう。儂が目を覚ましたのを知り、誰かがやって来た。第2艦隊第3隊の艦長の一人だった。艦長は儂に現状を報告してくれた。


空飛ぶ乗り物の襲撃後、ロイドステアの海兵団18隻が接近し、一兵でも島に上陸しようとした場合は攻撃を再開する、直ちに海域を離脱されたい、と海兵団長が伝声の魔法を使って残存兵達に勧告した為、先任艦長であった彼の判断により、残存した2艦で生存者を救出した後、帰還しているところだった。


儂については、爆発のために海に落ちた、艦の積荷に引っ掛かって海に浮いていた所を発見されたそうだ。殆どの艦は、あの謎の攻撃により撃沈したのだ。激しい怒りに苛まれるも、怒りの矛先も無く、儂はただ、歯ぎしりをすることしか出来なかった。




暫くして、残存した兵達の様子が気になり、艦内を歩いて確認した。どの兵も、出発した時とは異なり、暗い顔をしている。操艦の動作自体は既に体に染みついているためか、間違うことは無いが、全く覇気が無く、ただ、動いているだけだった。そして、儂もその一人だった。


儂は総司令官としての責任を思い出した。艦隊を率いているのは儂なのだ。務めを果たさなければならない。自身を叱咤し、残存2艦を指揮しつつ兵達を鼓舞して、何とか王都の港に帰り着いた。


だが、出発時の大々的な見送りとは異なり、出迎えは静かであった。殆どは、海の藻屑となった兵達の家族だった。命からがら海域を離脱した我々が遺品などを持っている筈も無く、儂は遺族達に謝罪することしか出来なかった。




そして、敗軍の将としての最大の責務である、陛下への復命を行った。


「戦果を報せよ」


「ロイドステア軍の、空を移動する乗り物から襲撃を受け、出撃した2個艦隊80隻は大半が撃沈され、帰還したのは2艦のみでございます。陛下より預かりし兵を徒に死なせた挙句、賜った命を全うできず、お詫びの言葉もございません」


「……追って沙汰を下す。謹慎せよ」


陛下の声は震えており、激怒されていたのは明らかだった。最早儂の姿を目に映す事すら厭われたのか、詳細のご下問すらもなく復命は終了し、儂は自邸に蟄居することしか出来なかった。




蟄居中、多くの知人が訪ねて来たが、恐らく儂は、死を賜ることになるのだろう。どう取り繕っても、数万の兵を死なせ、敗北したのだ。生き恥を晒す気など起ころう筈も無い。知人達には今生の別れと、残された家族や兵達を宜しく頼む、と告げることしか出来なかった。


また、国防省において戦の研究を行っている者が儂を訪ねて来た。儂の様な失態を、今後誰も起こす事の無いよう、質問には判る限り正確に答えた。また、儂はあの時一体何が起こったのか、その研究者に尋ねた。儂も当然他の者の話を聞いてはいたが、理解が追い付いていなかったからだ。




まず、あの乗り物は、最近ロイドステア軍に配備され始めた、空動車というものらしい。政府の諜報部門も、駐留大使などから情報を入手出来てはいたものの、現物を見ていないためどう捉えて良いか解らず、魔法で浮遊して移動する、馬の代わりとなる乗り物、という程度にしか把握していなかったそうだ。


つまり、出発前に我々への情報提供が無かったのは、政府が陸上の乗り物であると誤認識していたため、という訳だが、空動車の攻撃に為す術もなく敗北した儂に、事前に情報を貰えなかったことへの強い怒りが沸き上がるのは、仕方の無い事だった。事前に知っていたとしても対策を取れたか怪しいのに、情報不足を敗戦の理由にしようと、無意識に思ってしまったのだろう。


儂の様子を見た研究者が、語りを止めてしまったことに気付き、儂は自身を戒めて話の続きを求めた。


ロイドステアの戦法は、まず各艦の機動力の根源たる帆の部分を攻撃して機動を制限した上で、上空から、恐らく引火性が強い油を落として火計を行ったのであろう、ということだった。


更に、この油による火の勢いは恐ろしい程に強く、周囲の大量の海水をもって水魔法により消火しようとしたが、鎮火どころか燃え広がる有様で、当初から消火を諦め、直ちに海に飛び込んだ者か、儂の様に爆発で吹き飛ばされた者のうち、運が良かった者だけが生き延びることが出来たそうだ。


なお、生存した2艦は、奴らが落とした火種らしき物体の落下位置が油から逸れていたため着火せず、その間に海水を使った水魔法により油を艦上から流したため、助かった様だ。




研究者の話を聞いて、従来の戦とは余りに異なる様相であったことを知り、あれは歴史が変わった瞬間であり、儂らの時代は終わったのだ、と理解せざるを得なかった。


儂はその時、ずっと心の中に蟠っていた疑問を、研究者にぶつけた。


「あの状況で……我々はどう対応すれば勝てたのだ? 儂は、何を、間違えたのだ?!」


研究者から、回答が返って来ることは無かった。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


※ 船速

  時速20キートは、10ノット弱

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