第286話 ワターライカ沖海戦 1
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ワターライカ島における当面の作業を終え、暫くは通常の業務を行っていた所だったが、緊急会議が行われることになった。
内容は、ワターライカ島の領有について、関与する主要な国々に通告した結果に関する件だ。
他大陸の国家については自然災害の対応の枠内ということでカラートアミ教に協力して貰って書状を届け、ユートリア大陸内の国家については、事前に各国駐在大使に魔道具による緊急連絡を行った上で、早馬や艦船などで使者を送ったそうだが、それでもウェルスーラ国のように遠い所だと10日近くはかかったらしい。
帝国を始めとした他大陸の国々については、ロイドステア国がワターライカ島を領有することに対して反対することは無かったそうだ。仮に反対しても、我が国の実効支配を阻止する手段が無いため、反対する意味も無い、という考えらしい。
しかし、このユートリア大陸にある国のうち2か国、ウェルスーラ国とノスフェトゥス国が反対したそうで、書状を渡す際に同席した駐在大使により送られてきた緊急連絡の内容では、ノスフェトゥス国は感情的に反対していただけだったらしく、そこまで問題視されるものではなかったのだが、ウェルスーラ国については自分達も早急に調査をさせて貰う、と外務大臣が発言したそうだ。
つまり、ワターライカ島に軍を派遣し占領するという意志の表れであったため、今回の緊急会議が開かれることになったわけだ。
そこで、私については、まずカラートアミ教の転移門を使用させて貰ってウェルスーラ国駐在大使を呼びに行くことになった。一応、書状送達の範疇という事で転移門使用の許可は出たそうで、外務省からも職員が同行して空動車で大聖堂に向かい、神域を経由して、ウェルスーラ国王都の大聖堂に到着した。
ここで、外務省の職員は駐在大使を迎えに行くため出かけたので、私と護衛のテルフィは大聖堂に待機したのだが、神官達は、私に対して、かなりぎこちない……というか、腫れ物に触るような感じで接して来る。
特におかしなことはしていない筈だが……最近は外国での活動も増えたし、神使疑惑? などもあって扱い辛い存在であるということかもしれない。何にしろ、ここで揉め事は起こせないし、こちらでおとなしく待機しておこう。
とは言え、感覚共有してここの様子を見る程度なら問題無いと思うので、ウェルスーラ国においても沢山寄って来ていた精霊達のうち、一体の風精霊と感覚共有して、駐在大使が大聖堂に来るまでの間、こちらの王都を確認させて貰うことにした。
ウェルスーラ国は、海運による他国との交易で栄えている国だと聞いている。当然、海上の軍事力も強大であり、ユートリア大陸内で唯一「海軍」がある国だそうだ。そんな国がうちの国の沖にある島に軍艦を派遣すると言ったのだから、うちとしては当然緊急対策案件となるわけだ。何かの足しになるかもしれないので、色々見回ってみよう。
まず、上空に上がってみたところ、大聖堂から少し離れた所に王城がある。それと、ここの王都は海に面しているようで、10kmほど離れた所に港が見える。とりあえずは港に行ってみよう。
広い道路沿いに様子を見ながら飛んで行ったが、人の往来は多い様だ。港の方は荷物の積み下ろしをしたり、上下船を行っていたり、とにかく騒がしかった。所々で話も聞いてみたが、商談が多く、内容は良く判らなかった。
その他、何となく見回っていると、商船や漁船とは雰囲気の違う船が並んでいる区画があった。見ると、統制されたような動きで荷物を積んでいる、服装が同じ人達が周りにいたので、もしやと思って近くに寄ってみると、やはり、ウェルスーラ国海軍だったようだ。
ウェルスーラ国海軍の軍艦は、見た感じ、ロイドステアの海兵団が保有している船より大きい。前世の船で喩えると、ロイドステアはキャラック船っぽいが、ウェルスーラはガレオン船に似ている感じがする。
帆船であることには変わりないが、どう見てもウェルスーラの方が強そうだ。兵装などにもよるだろうが、船の性能では勝てそうにない気がする。
しかも、船の数が凄い。ざっと数えてみたが、100隻以上あるのは確認出来た。確か海兵団は20隻も保有していなかった筈。彼我の戦力差を目の当たりにして、改めて危機感を覚えた。
その近辺で何か情報は無いかと思い、偉そうな人を探して聞き耳を立てたところ、やはり出港の準備中だったようで、出港は明日、80隻の船団でロイドステア沖に向かうという話を聞いた。他にも情報は無いか確認しようとしたが、部屋に入って来たテルフィから、駐在大使が大聖堂に到着したと報告があったので、感覚共有を終了して、駐在大使達と一緒に、ロイドステアまで戻った。
昼過ぎから、対策会議が始まった。
まずは認識の統一として、ウェルスーラ国は元々、海軍力を背景としてユートリア大陸内での自国の勢力を拡大しようと目論んでおり、今回の出兵はその一環であろうという話や、駐在大使の収集した情報や私が見聞きした内容などから、ウェルスーラ国海軍が、80隻の軍艦をもって明日王都の港を出発し、ワターライカ島に向かうという内容が共有された。
天候にもよるが、恐らく20日もあれば、ユートリア大陸の反対側にある、ロイドステア東沖海域には進出可能ということだ。この際、途中で補給を行うことになる筈だが、北回りで進めば、今回共に反対したノスフェトゥス国が補給に協力するだろう、という見込みだ。
ウェルスーラ国海軍の動きが、我が国の書状を受領してからの対応にしては異常に早い、との指摘があったが、恐らく王都にいるウェルスーラ国大使が、ワターライカ島誕生の時点で緊急連絡を行ったのではないかという結論だった。
また、ウェルスーラ国海軍の軍艦は、自国を防衛するため、商船護衛艦を除き約40隻が残留しているだろうという話が出た。これは、会議に参加していたサウスエッド国大使の発言だ。
大使には、ロイドステア国とサウスエッド国は同盟を結んでおり、仮想敵国がウェルスーラ国だったため参加して貰っているのだが、サウスエッド国はウェルスーラ国の軍艦の総数を概ね把握しているそうだ。
なお、防衛のためだけなら40隻も残す必要は無いらしいが、サウスエッド国対応のためではないか、ということだった。サウスエッド国の海上兵力はロイドステア国と大差ないそうだが、宮廷魔導師長の存在を警戒しているらしい。確か以前、海賊を一掃したらしいからね……。そういった意味では同盟がきちんと機能しているのだな、とその話を聞いて感心した。
とは言え、それでも80隻の大艦隊が侵攻して来るのだ。話し合いが出来ればまだ良いが、聞くところでは、海の上はかなりの無法地帯らしく、遭遇したらすぐに戦闘が始まることも珍しくはないそうだ。
それは国軍同士でも変わりはなく、むしろ今回の場合だと、ワターライカ島の実効支配を可能とする戦力を保有していることを示すため、国軍同士であれば海戦になるのは避けられないという話だ。
海戦が嫌なら出て来なければ良い、という事になるが、その場合、我が国にかなりの損害が発生する。特に、交易への影響は計り知れない。何とか撃退したいところだが、海兵団は、ロイドステア近海での戦闘を想定して整備されているらしく、無敵艦隊とも言われているウェルスーラ国海軍を相手に東沖海域で戦闘を行えば、海兵団に勝ち目は無い。別の何かが必要だ。このため
「……精霊導師殿に参戦して頂ければ、ウェルスーラ国海軍など、物の数ではございますまい」
と、国防大臣からの発言があったのだが
「残念ながら、此度の戦において精霊導師殿が参戦した場合、戦の勝利自体は確実だろうが、その後我が国が窮地に追い込まれる可能性が高まる」
と、それに応じる形で外務大臣が発言した。
「此度は、海底火山への対処であったとは言え、突如巨島を誕生させたという事実がある。これは、精霊導師殿がいれば、いつでも他国に侵攻可能な拠点を作ることが可能である、ということでもあり、領海を持つ国にとっては潜在的ではあるが大変な脅威だ。我が国は、侵略戦争を否定しているが、それでもこの脅威を理由として、対ロイドステア包囲網が形成される恐れがある。ここで国軍ではなく、精霊導師殿がウェルスーラ国海軍を撃退してしまった場合、脅威の根源である精霊導師殿を排除しようと考える国々に口実を与えてしまい、対ロイドステア包囲網が現実化することになるだろう」
つまり、私の参戦は、長期的に見てロイドステア国のためにならない、ということだ。同様の話を帰国の際に駐在大使から聞いたため、内心参戦の覚悟を決めていた私は、別の手段を考えざるを得ない、と思い直したのだ。
それから、国防大臣と外務大臣との間で論争が起こり、また、会議に参加していた海兵団長からの現場の意見なども上がった。大会議場が騒がしくなる中、私は現状で実行可能な対策を考えていた。
正直な所、私が参戦することなく、現状の戦力で、ウェルスーラ国海軍を撃退する方法はある。しかし、これを本当に発言して良いのかと、悩んでいた。
私の発言が、誰かを戦場に送ってしまうということになるのだから。
その中には恐らく知人もいるだろう。自身が安全な場所にいる中、彼らに命を投げ出せと言う資格が、私にあるのだろうか。そして、敵味方関係無く戦場で発生する多数の死傷者のことを考え、会議の話を聞きつつも、私は考案した作戦を発言した場合の責任に押しつぶされそうになっていた。
そのような中、陛下が発言された。
「皆、静まれ。確かに今は国家危急の時だ。だが、敵はあくまで国家であり、自然災害ではない。何とでもなるものよ。そして、結果がどうなろうとも、会議での決定は余に責任がある。気負わず会議を進めよ」
陛下のそのお言葉で、大会議場は静まり返り、私も心の痞えが取れた感じがした。
私は、覚悟を決めて発言した。
「皆様、現状を打破する策が、私にございます」
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