第285話 ワターライカ島の調査開発を開始した
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私はワターライカ島の領有化に関する業務を行うことになった。
その日は一旦休んで次の日に、宰相補佐官の一人と、建設省や国防省の職員数名を空動車に乗せ、ワターライカ島まで向かった。今回の目的は、情報収集をすることと当面の活動に必要な基盤を作ることなので、7日分の水や食料、その他必要な物資を準備している。
多くの人が空動車に乗るのは初めてだったらしく、最初は空中を進むことやそのスピードに驚いていたが、慣れてからは地上の様子を見ながら感動していたようだ。また、被害の大きかったサウルトーデ領の沿岸部を通った際には、その状況が良く判ったことで、改めて空動車の有為性を知った様だった。
車中で確認事項の細部を話しているうちに、ワターライカ島が見えて来た……のだが
「山が出来ておりますわ!」
昨日帰る際には、なだらかに広がっている楯状火山の形をしていたのに、東側に、目立つ山がそびえていた。目印になればと思って、高い山を希望したけれど、まさか1日でここまで高い山が出来るとは思わなかったよ……。
更に近付いてみると、どうやら手前の方、島の西端が結構大きな湾になっていたので、とりあえずその近くに降りた。
「これは……良好な港になりますな! 当面はここに拠点を作るのが妥当でしょう」
建設省の職員が言った。特に反対意見も無く、この付近に拠点を作ることになり、拠点の細部位置を決定した。その後、建設省の職員達は、ワターライカ島の大まかな測量を行うことになった。ここで、私も以前使っていた4人乗り空動車の試作品を異空間から取り出した。
今回の調査に用立てるため、特別に借りて来ていたのだが、建設省組のうち、地属性の人が操縦して測量に出発した。ちなみにこの人、重力魔法を習得し、何度か空動車を操縦したこともあったそうなので、恐らく大丈夫だろう。
私については、そこで拠点となる仮設庁舎を作った。まあ、形はシンプルだし、図面も見せて貰いながら作ったから問題は無いだろう。その他、国防省の職員の要望を聞きながら、簡易的な埠頭を作ったりした。
とりあえずは10隻分を作ったが、このくらいの埠頭なら、何百隻分作れるか判らない程大きい湾だし、海底も結構深いようだから、良い港になるだろう。改めて、地精霊達に感謝した。
適宜休憩を取りつつ作業を進めていると、建設省組が戻って来たので、宰相補佐官の統制で一旦集まり、作業の進捗や測量の結果の情報共有を行った。
「空動車は誠に便利ですな。上空に浮遊して地上を描くだけで、詳細な地形が把握出来るのですから」
そう言いながら、スケッチした紙を重ね合わせながら見せてくれた。風精霊から聞いた情報を合わせて考えると、今日だけで概ね全周の5分の1くらい把握出来たことになる。
「基本的には島の外縁は、どこも10クール程度の断崖となっており、艦船による大規模な上陸は難しいでしょう。従って、この湾は特に重要な地域となります故、仮設庁舎をここより移動させる必要は無いでしょう」
一応東側にも湾を作るよう依頼したから、あるとは思うのだけれど、こちら側はロイドステアに近い。私のイメージは、この港をロイドステアとの連絡用に使い、もう一方はこの島での流通や漁に利用する感じで考えている。この島が発展していったならば、港を増やすのも悪くないが、今のところは防衛優先だ。
「東に見えます山が現在この島唯一の著明な地物ですな。概略測量したところでは、海抜にして2000クール以上はある筈ですが……」
「ええ、あの山は現在も成長しておりますわ。地精霊達に確認した所、現在この島を全体的に均しているところだそうですわ。そちらが移動している時にも、溶岩が崩れて土砂の様に変化していくのを確認されたのではございませんか?」
「仰る通りです。地精霊達が活動していると事前に伺っておりましたが、最初は何が行われているのか理解出来ず、驚きました」
「それは仕方ない事です。精霊達の活動を御理解頂けたのであれば幸いですわ」
「精霊は見えずとも、実際に精霊達が活動している場を確認出来たのは、非常に貴重な体験でした」
「実際に見て頂いた様に、ワターライカ島については現在も変化しておりますわ。外周については概ね造形が終了し、現在は島の大地を均しているところのようです。この際、余った土を積み上げて固めているそうですわ。それがあの山ですので、最終的には更に高くなると思われます。遠方からも確認出来る著明な地物を……と考えて依頼したのですが、あれなら、航海などにおいても役立つ筈ですわ」
「確かにあの山ならば、ロイドステアから来る船からも良く見える目標となるでしょう」
「それは宜しいですわね。さて、今後の業務ですが……」
それから、現状を踏まえて今後の業務のすり合わせを行った。建設省組は、明日から3日かけて外周の状況を確認する。2日はこちらに戻らず、車中泊をするそうだ。まあ、魔物などはいないし、こちらに戻るのにも時間がかかるからね……。
宰相補佐官と国防省職員は、現在把握出来た情報を元に、今後の開発や警備に関する計画を考えるそうだ。私は精霊から情報を入手して計画策定を支援するとともに、この拠点付近の開発、特に、地下水源を作ることになった。
ワターライカ島は、突然誕生した島なので、本来水蒸気や雨などを取り込んで存在する筈の、地中の水分が非常に少ない。このため、私がある程度地下水系を作ってしまおうという話だ。
とりあえずは、この港周辺を優先して地下水系を作るための、海水が染みて来ないような岩盤や、水分を含ませる地層を地精霊に作って貰っているので、後は私が海水から塩分などを除いて流し込めばいいわけだ。
当面は井戸を作ることにより港周辺で使用することになるから、定期的に水を補充することになるだろうが、次第に雨水などにより、私が補充しなくても立派な水系が出来る筈だ。
ちなみにトイレについては、家や庁舎で使用しているような、魔道具が付いたものを持って来ていて、既に仮設庁舎に男女の分を設置済みだ。
これはどちらかというと前世の野外簡易トイレに近く、汚物をタンクに溜めて定期的に処分する方式だが、その際魔道具により水分を蒸発させるので、案外臭くならない。いずれは下水道も作った方が良いのだろうが……それは様子見かな。
次の日から、私は適宜精霊達から島の状況を確認して情報共有をするとともに、地下水系を作って行った。右手を水精霊、左手を地精霊と同化させ、海水を大量に引き込みつつ、塩分などを取り除いて、地下深くの地層に流し込んで行った。
最初の頃は仮設庁舎付近に井戸を作って流し込んでいたが、地精霊達の地下の作業の進展に伴い、場所を変更して穴を掘って流し込んだ。
そういった作業を3日間行っていたところ、建設省組が戻って来たので、再び会合を行うことになった。
「この島の全周を確認して参りました。概ねこのようになっております」
そう言って取り出された紙をつなぎ合わせて置くことで、島の形を把握することが出来た。やはり東西がやや長い楕円形となっている。現在地である西端付近の湾の反対側、東端付近にも大きな湾があり、やはりそこも良好な港になりそうだった。それ以外の外縁は、どこも断崖となっていたそうだ。
「成程。では、当面の開発や警備は、この東西の湾を主体とすれば良いでしょうな」
宰相補佐官が言った。それには全員が納得したが、建設省の職員が付け加えて言った。
「あと、あの山に関してですが……島の北東、概ねこの位置にあります。島内の道路を整備する際にはまず考慮せねばならないでしょう。また、島はあの山以外は概略平地と言って良い地形です。山から緩やかに海岸まで下っています。島内の道路については、省へ持ち帰って検討させて頂きますが、恐らく主要な道路は、外周沿いと、中央や山の裾を通り、両港を結ぶように作ることになるでしょう」
どうやらワターライカ島を統治するために、将来的には中央部分に行政舎などを持って行きたいようだ。まあ、東側の港もいい感じらしいから、両方の港を統治しやすいようにしようとしているのだろう。
その他、国防省の職員からも、発言があった。
「定期的に東西の港を船で行き来して、海岸に不審な点が無いか確認するよう計画させて頂きましょう。また、警備上の観点からは、この山に監視の拠点を設置したいですな」
今後は海賊などがやって来る可能性があるらしいので、その対策のようだ。空動車をこちらに持って来ることが出来れば、島内の巡察も行っていくらしい。
私としては、定期的にこちらに来て、地下水を貯めたり、植樹などを行っていきたいところだ。それに、ワターライカ島で栽培する農作物を検討しないとね。
現在住んでいる感じでは、周辺は海だし雨も降るから、湿気はかなりあるので、麦より米の方が適しているような気はするが……用水路も作って行かないとね……。
そういった事を話しながら残り3日の作業要領を決め、作業を行っていった。
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