第284話 新しい島をワターライカ島と名付けた
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さて、王都へ戻ろう……と思ったが、転移して来たので、方角が判らなかったため、風精霊に案内して貰うことにした。
ついでに、別の風精霊に島の概略の位置や形を調べて貰い、後で教えて貰おうかな。……と、近くにいた風精霊達に魔力を渡して頼んだので、急いで戻ろう。
3時間程全速力で移動し、王都が見えて来た。速度を落としつつ、宰相府のある庁舎の庭に降りた。そして、宰相閣下の所に向かったのだが、その途中で
「おおっ、導師様、今お帰りになられたのでしょうか?」
と、宰相補佐官の一人から声を掛けられた。
「ええ、只今戻りました。とりあえず噴火は収めることが出来ましたので、報告に参った次第ですわ」
「現在、大会議場で対策会議が開かれているのです。そちらに向かって頂けないでしょうか?」
「まあ、教えて頂き、有難うございます」
その宰相補佐官に案内され、大会議場に入ると、陛下や宰相閣下、主要な大臣をはじめ、国軍総司令官や関係する省の課長達がおり、陛下に現状を報告していたようだ。当然、皆が私に注目した。
「おお、精霊導師殿、現状を陛下に報告して貰いたい」
「宰相閣下、承知致しました」
私は陛下の前に移動し、跪いた。
「精霊導師よ、状況を報告せよ」
「海底火山の噴火は終息致しました。宰相閣下に許可を頂き、大精霊達に召喚された私は、大精霊達と協力して、噴火の原因である、海底より深い場所に溜まった岩漿を全て引き抜きました。結果、あの海域に島が誕生致しました」
「何と……まさしく人知を超えた行いよの。して、今後の被害は」
「岩漿を引き抜く際に地震が発生し、それにより津波が起こりましたが、水の大精霊により鎮静化されております。また、現在あの付近の海流は乱れておりますが、数日のうちに調整されることでしょう」
「おお……。精霊導師よ、誠に大儀であった」
陛下への報告は終了した。宰相補佐官に案内されて、席に座った。
「皆の者、精霊導師殿の報告を聞いたであろう。先程の内容から、大幅に状況を修正した上で、今後の会議を進める」
宰相閣下がそのように皆に告げ、会議が再開された。主に被害が出ているのは、サウルトーデ領、イストルカレン領、テトラーデ領、ペンタデウス領の沿岸部で、特にサウルトーデ領は、幾つかの漁村に大きな被害が出ている可能性が高いそうだ。
現在沿岸部を中心に、魔法兵団に配備されている空動車を使って被害状況を確認に向かっており、また、騎士団の一部はサウルトーデ領に出発したそうだ。それと、最初の噴火の際に発生した火山灰が降ったらしく、噴火が継続すれば農作物などへの影響があるだろうと心配されていたそうだが、噴火が終息したので、その対策は議題には上がらなかった。
総じて、現在発生している津波被害の詳細を掌握し、復旧するという話になった。また、私に対しても、質問があった。
「精霊導師殿、先程、島が誕生したという話だったが、場所や大きさは把握されているだろうか?」
「国防大臣殿、現在、精霊に依頼して確認しております。判明次第報告させて頂きますわ」
と回答し、別件の議題を進めて貰っているうちに、島の調査を依頼した風精霊がやって来た。宰相補佐官の一人に紙を持って来て貰い、風精霊に聞いて、大まかな距離や大きさなどを確認した。
「皆様、島の様子が把握出来ましたわ。島の中心がサウルトーデ領沖南東、概ね400キート先にあり、そこから概ね楕円形に広がっております。東西に約200キート、南北に約150キートですわ」
私がそのように報告すると、各所で驚きの声が上がる。ちょっとした伯爵領くらいの広さがあったからだ。そんな大きな島を、大精霊達の協力があったからとは言え、たったの数時間で誕生させてしまったわけだ。自分でも正直引いてしまうが……まあ、仕方がない。
「何と……そのような島を誕生させてしまうとは……ちなみに精霊導師殿? 他に方法は無かったのだろうか?」
「建設大臣殿、大精霊達からは幾つか対策を提示されたのですが、これが確実に被害を最小限に抑えるものでしたので、実行した次第ですわ」
と、提示された対策を説明すると、質問した建設大臣を始め、皆納得したようだ。そして、津波の被害がそれなりに抑えられたためか、新たに誕生した島への処置に話題が移って行った。
「しかし……そのような巨島であれば、早急に我が国の領土とせねばなりませんな。陛下、主要国及びカラートアミ教に対し、陛下の名の元に通告させて頂きたく存じます」
「外務大臣、正鵠である。委細は任せた」
「承知致しました」
「陛下、当面の間はその島を直轄地として、調査及び開発を実施したく存じます。特に、開発を滞りなく行うためには、精霊導師殿の力が必須となるでしょう」
「宰相、差配は任せた。精霊導師よ、問題無いか」
「陛下の御心のままに。併せて報告致します。現在、島が早期に人の住める地となるよう、地精霊に依頼して環境を整えております」
現在地精霊達にやって貰っているのが、大まかに整地すること、高い山を1つ作ること、地表面付近にある重金属を1か所に集めること、海岸線を崖のようにすること、島の周囲の岩礁を均すこと、東西に港となりうる湾を作ること、地下水の受け皿になりそうな空間や地盤を地中に作る事だ。
本当はもっと色々頼んでおけば良かったのかもしれないが、気が付いたら適宜整えて行けば良いし、それに植生は自分達で増やさないといけないからね……。
「精霊導師殿、港湾の建設を最優先にして頂きたい。この島は、海上の要衝となりうる。津波被害の復旧が終わったならば、海兵団の一部に移駐して貰わねばならないだろう」
「建設大臣殿、承知致しましたわ。建設省にも、お力添えを頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
「勿論だ。現地の地形が判り次第、港湾の設計に取り掛かろう」
等々、最初の重苦しい雰囲気ではなく、希望のある明るい雰囲気で話が進んで行った。その中で
「ところで、この島の命名を、如何致しましょうか?」
と、外務大臣が言った。どうやら外交手続き上、名前が必要らしい。
「陛下、新規に発見した島については、発見者に命名権を与えることになっております」
「……では、精霊導師よ、命名せよ」
と、ここで突然私に命名が振られてしまった。名前どうしようかな……。
「命名の栄誉を頂けるとは……幸甚の極みに存じます……では『ワターライカ島』と名付けては如何でしょうか」
「ふむ、確か……古の言葉だったか」
「その通りでございます。『ワターライカ』とは『新たな出会い』を意味しております」
ちなみに、以前博物館で買った本に古い言葉が色々紹介されており、この「ワターライカ」という言葉も、それで覚えたのだ。特に、前世の名字に響きが似ているし、意味も当たらずとも遠からずだから、印象に残っていたのだ。とっさに出てしまったが、今回のシチュエーションにもぴったりだから、丁度良かった。
「良かろう。この新島は我が国の領土『ワターライカ島』とする」
新たな領土の誕生を陛下が宣言し、会議場は拍手で包まれた。
その後、当座は津波被害の復旧を行いつつ、ワターライカ島の領土化を進めることになり、私については、津波被害がそこまで深刻なものでなかったこともあり、被害復旧を国軍に任せて、ワターライカ島への対応を行うことになった。
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