第028話 精霊女王視点
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宜しくお願いします。
我は精霊を束ねる者、精霊女王。世界の理と共に在り、故に退屈しておる。
(…………)
『ユートリア02号、報告します』
『話せ』
『先月報告した、全属性の子は順調に成長しています。今では、結界の外に出ており、我々も視認可能になりました』
『ほう、それはまた。貴族の子なのじゃろ?』
『アルカドール侯爵の娘で、フィリスと呼ばれているようです』
『分かった。変化があれば報告せよ』
『了解しました。引き続き任務を継続します』
報告者からの念話は終了した。
生き残ったか。結界外にいるということは、魔法暴発の危険性が無いほど魔力操作に長けているということ。まだ無意識じゃろうに、よほどの才の持ち主か……。
(2か月後……)
『ユートリア02号、報告します』
『話せ』
『例の全属性の子が、意識を持ちました。我々の事も認識しております。通常の意思疎通は問題ありません。ただ、どうもこの世界のことを全く認識していないようなのです』
『妙じゃな』
『はい。転生者の筈ですのに、常識を全く知らぬかのような反応なのです。なお、嘘は吐いておりません』
『分かった。変化があれば報告せよ』
『了解しました。引き続き任務を継続します』
報告者からの念話は終了した。
精霊は人の嘘を見抜く。嘘でなければ転生時に記憶が欠損した?全属性の転生者は変わっておるの。
(4年ほど後……)
『ユートリア02号、報告します』
『話せ』
『フィリストリアの件ですが、魔法の使用の際に、通常の人間と想像が異なっているのです。世界の理を我々と同様に認識しているのかもしれません』
『ほう、それは興味深い』
『先日など、器に入れた水を直接氷にする想像が水精霊に伝わって来たそうです』
『何と……今後も不審な点があれば報告せよ』
『了解しました。引き続き任務を継続します』
報告者からの念話は終了した。
……神は一体何者を転生させたのじゃ?水を直接氷にする魔法を使った者などこれまでおらんぞ?全属性者は、本当に特殊な転生者なのかも知れぬ。
(3か月ほど後……)
『ユートリア02号、報告します』
『話せ』
『フィリストリアの件ですが、魔物を狩り始めました。住処の近くで、手当たり次第に戦っております』
『何じゃ。魔法の試し撃ちか?』
『いえ、それが……素手で魔物を倒しているのです』
『何?まだ4才じゃろ』
『身体強化をしているようですが……見た限り、相手の力を利用して倒す武術の様です』
『何と……今後も面白そうな事があれば報告せよ』
『……了解しました。引き続き任務を継続します』
報告者からの念話は終了した。
前世はどこぞの武術家か?しかも相当な手練れであろう。ならば、前世は男の可能性もあるな、たまにおるし。じゃが……これまでそういう報告は来ておらん。まあ、そこはどちらでも良いがの。
(2年ほど後……)
『女王様、例の全属性者の周辺にいる精霊から要望が届いております』
『何じゃ』
『魔力が高いため、魔法を使われると使役されている気がする。特例を認めて欲しい、とのことです』
『またか。まだあ奴は6才じゃろ。暫く待て』
『承知しました。ただ、彼の者の近傍は大変心地良いらしく、今後も要望は続くでしょう』
『まあそうじゃろ。下がれ』
『下がります』
やはり全属性者は、魔力の塊よの。もう少し様子を見るか。度々報告が来るが……今一つ要領を得ん。一度呼んで、興が乗れば加護をやるか。つまらぬ奴であれば……神に返す。
(それから暫くして……)
『女王様。フィリストリア様が本日7才の誕生日を迎えました。頃合いでは?』
『そうじゃな。要望も聞き飽きたし、今から連れて来い。見定める』
『かしこまりました』
さて、この日が来たか。どんな奴じゃろうの。遠視で見た限り、実に我好みの顔じゃったが。
……300年程前にも、エスメターナを呼んだな。あれは面白い奴じゃった。実の兄とは婚姻できんというに、何故あそこまで想えたのか。理を超えた意志が、退屈な我を楽しませたのじゃ。
考え事をしているうちに、フィリストリアがやって来たので、入らせた。
「精霊女王様……お初にお目にかかります。フィリストリア・アルカドールでございます」
ほう、我の全力の威圧に耐えるか。中々の意志力じゃ。それに……強張る顔もそそるの。
フィリストリアに、我が呼んだ理由を話すと、戸惑っておったが……細部を説明させると、選択肢を問うて来た。まあ、人間の暮らしは面倒じゃからの。多少時はやろう。
再び見えた時、先程とは異なり、我を、その先の未来を見据えた目をしておった。そして
「私は、自然と平和を愛することを、この魂に誓います」
と言いおった。嘘は見えぬ、こ奴の誓いは真実じゃ。誓いを破った場合にどうなるかも理解しておるわ。新たな生に在りても、自らを貫く。こ奴ならば、退屈せずに済みそうじゃ!加護をやろうではないか。
我は、その後もフィリストリアと話をした。話の中で、前世についても問うたところ、何と異世界の者であったというではないか。流石神の御業よ、我も思い至らぬわ。
フィリストリアを送った後、妖精王と話した。加護の内容は説明させたが、あ奴は人間じゃからな。そうそう、四龍のたてがみを毟って、服を仕立てるか。
それと、全ての同胞に、フィリストリアに我が加護を与えた事を達した。あ奴は我のものじゃ。無粋な真似は許さぬ。あ奴の魂に、興じようぞ。
……このような感覚は300年振りじゃ。人を、世界を、そして我を愛しく思うのは。魂など、我には不要と思うておったが、世界を変えていく為には、必要かもな……神よ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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(石は移動しました)