第282話 早く空動車が普及して欲しいものだ
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9月に入った。第1週については、精霊課が魔法兵団との協同訓練を行っている。今回は、それなりに数が揃い始めた空動車を、設定した状況の場で運用してみるようだ。
精霊術士は空動車の運用自体には殆ど影響しないが、前線で精霊を使った簡単な情報収集を行う時などは、精霊術士を後部座席に乗せて運搬する、といったことも行うらしい。
精霊は、人間の価値観による判断が必要な情報収集はそれほど得意ではないが、人が集まっているとか、旗の柄はこんな感じだった、程度なら判るので、使いようによってはそれなりの情報を収集出来るんだよね……。遠方の情報や、夜間・荒天における情報なども収集できるから、通常の偵察活動と合わせると、非常に効果的だということだった。
これまでは、精霊術士によって精霊との意思疎通にばらつきがあったので、そういった運用は出来なかったようだが、今の精霊術士は魔法強化を習得して、精霊との意思疎通の能力が高まったから、信頼性が向上しているらしい。
活躍の場が増えるのは良い事だとは思うが、危険な任務が増えるのは考え物だとも思う。本当は、戦争などが起こらないのが一番良いのだけれど、そういうわけにはいかないのが悲しい所だ……。
協同訓練については、たまに精霊と感覚共有して見に行ったりしたが、精霊術士達も、魔法兵団との協同に、それなりに慣れて来ている様子だったので、こちらは精霊課長達に任せて、私についてはシーラ村に視察に行っていた。
というのは、あれからマーク叔父様や農業課の担当者達と話し合った結果、来年はシーラ村で本格的に稲作を行おうということになったのだ。農作業を行う人達は、マーク叔父様が大々的に雇用してシーラ村に住まわせ、改良した農具などは、農業課で準備するとともに、今年の作業要領を踏まえて田んぼでの作業要領を実地で研究していくそうだ。
で、私は、田んぼを大量に増やすとともに、農作業員や研究者達の仮宿舎なども作ることになった。
地積の関係から、当初私が作った100クール四方の地積の田んぼや水路などを1個の単位区画として、同様の区画を15個作ることになり、その近傍に仮宿舎などを建設したりしたので、4回王都とシーラ村を往復することになったが、来年は良い感じでごはんが食べられそうだ。ついでなので、来年は、この前の種籾だけでなく、先日作ったもち米も作って貰おうっと。
なお、私が作業を行った際、農業課や作物研究所の人達、テトラーデ領の行政官達が見学しており、私がどういったものをどのように作ったか、つぶさに観察していたので、今後は私が作るまでも無く、各所で田んぼを作っていくかもしれないね……。
第2週においては、重力魔法活用会議が開催された。今回は、各分科会の進捗状況や、今後の動きなどが話の主題だった。ワゴン型の空動車については、車体の素材を開発中、という話だったが、カーボンナノチューブ系素材を魔法で作成することに成功すれば、何とかなるだろう。その他の分科会も、それなりに進捗しているようだった。
この会議は、現在の形式による開催は終了し、来年から特別補佐官を宰相府に置き、その統制で行っていくそうだ。そして、その特別補佐官には、何とオスクダリウス殿下が就任する予定だそうだ。確かに、殿下は今年魔法学校を卒業するし、重力魔法関係の仕事をやりたいと言っていたからね……。ということで、本人からも挨拶があった。
「まだ就任前だが、折角この場に関係者が居合わせているのだから、発言させて貰おう。今後、我が国は重力魔法を活用することで、生活が変化していくだろう。例えば空動車を使えば、今より格段に速く、遠方まで移動出来るし、これまで障害となっていた河川や断崖などについても無視することが出来る。その他にも、生活を便利にする魔道具が増える筈だ。しかしながら、これまでの慣習や利権など、様々な思惑により、折角の国家の発展の機会が阻害されるかもしれない。私は、そのようなことを可能な限り無くし、着実に我が国に重力魔法や魔道具を根付かせたい。皆も、協力して貰いたい」
とのことだった。勿論私も、協力させて貰いますよ。
ちなみに今回は、王太子妃殿下も会議の場にいた。休憩中に目が合ったので、お話を聞きに行ってみた。
「ごきげんよう、フィリストリア」
「王太子妃殿下、ご機嫌麗しゅう。ところでこちらには何故お越しになられたのでしょうか?」
「ふふ。実は私も最近、重力魔法を学んでいるのよ。それで、参考になると思ってこちらにも顔を出したのよ」
「王太子妃殿下自ら、国の発展のため勉強なさるのは、素晴らしいことですわ」
「貴女にそう言って貰えると嬉しいわ。特に空動車を自分で操ってみたいのよね……すごく気持ち良いと思うの」
「そういった明確な目標がございますと、上達も早いでしょうし、宜しいかと存じます」
「有難う。教本の内容に判らない所があったら、教えて頂戴ね」
「承知致しました」
堅いお話も必要だけれど、一人一人のこういった目標を叶えて行くことも、大事なのよね……。
また、省定例会議に参加したが、こちらでは気になる情報が挙げられた。
昨年から海兵団が、精霊術士の協力の元に情報収集を行っている海底火山だが、最近活発化しているらしい。水の精霊術士達の話では、周辺の海底がかなり隆起しているそうだ。
海底火山については、大体サウルトーデ領から南東に300キート程の沖にあるそうで、王都については何も変化は無いが、サウルトーデ領の沿岸付近では、頻繁に地震が起こっていて、領民も不安がっているそうだ。
元々、海底火山のある海域は、比較的浅瀬であり、船は座礁するかもしれないことから、近づくのも危険になっているそうで、水の精霊術士が乗船して誘導しないとその海域に入るのは難しいらしい。大規模な噴火が近いかもしれないから、国軍はいつでも沿岸などに出動できるよう、警戒しているそうだ。私についても、いつでも出動できるように準備しておこう。
第3週は、特に大きな動きは無かったが、お父様から手紙が届いた。内容は、来年から国防大臣に就任するというものだった。以前聞いた話が現実になるということか……。おめでとう、と言って良いのだろうか? 更に忙しくなるわけだからね……。まあ、折角だし、何か就任祝いを考えておこうかな。
お父様は、11月の予算審議の頃を目途に、一度王都に来るという話だ。この際は、いつもの転移門ではなく、貴族的な風習に基づき、馬車で移動するらしい。各領を通過する際に、領主達とも色々話をするそうだし、そうならざるを得ないといったところか。
移動に15日くらいかかるらしいから、結構な長旅だが、空動車が普及すればもう少し早くなるかな……。
第4週は、御前会議が行われた。今回は特に、海底火山が活発化したことに伴い、予想される影響や現在の対応が報告されていた。
海底火山の近傍、特にサウルトーデ領沿岸などは、津波の可能性があることから、漁などが禁止され、海に異変が起こった場合は、ためらわずに高い所に避難するよう領民に呼び掛けているということだ。
また、王都にいる騎士団の2個騎士隊や、サウルトーデ領に一番近い国軍の部隊、ペンタデウス領の国王直轄地であるフルホークに駐屯している第4歩兵隊についても、非常呼集を掛ければすぐにでも出発態勢を整えることが出来るそうだ。なるほど……。
それと、王太子殿下が視察の成果について話された。今回は、早速トンネルを使用することで、流通を良くすることに、改めて強い思いを持たれたということだった。そう仰って頂けると、作った甲斐があったよ。
また、海底火山の活発化に鑑み、今回はたまたま道が発達している沿岸地域なので、対処が比較的容易だが、道の通っていない地域だと対処が難しかったであろうとも仰られ、道路の整備や、空動車などの新技術の導入により、更に国を発展させていこうというお考えの様だ。
ということは、精霊課については来年以降の道路工事の支援が増えるかもね。まあ、人員は増えているし、魔法強化により、道路工事の効率が上がっているから、それも踏まえての話なのだろうけれど。
そういった話もあったためか、休日についても、鍛錬を行ったりした以外は、どこに出かけるでもなく王都邸にいて、本などを読んでいたが、どこか落ち着かない気分だった。
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※ 単位
1クール≒0.9m 1キート≒0.9km




