第281話 収穫祭の宴の場で色々話した
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今日は収穫祭2日目、例年通り、武術大会を観に行こう……だけど、今年はシンスグリム子爵も殿堂入りしてしまったから出場しないし、だれが優勝するのだろう……?
……うーむ、今年はどこかの冒険者が優勝してしまった……。決勝戦では近衛騎士隊長が対戦相手だったのだけれど、基本的な実力は近衛騎士隊長の方が上のようだったが、冒険者の変則的な戦い方に翻弄されてしまった形だ。相性が悪かったのだろう。しかし、個人的には、もっと白熱した試合が観たかったな……。
収穫祭3日目、この日は午前中に叙爵の儀などがあるが、知り合いもいないし行く必要は無い。のんびりと過ごし、午後からは宴に備えて準備をした。夕方には、登城して宴に参加した。
いつもの様に、陛下の開催のお言葉で宴は始まり、挨拶回りをこなしていったが、やはり色々な人から話し掛けられた。領主家や魔法省、軍関係の方々に加え、今回は農務省や建設省の方々からも結構話し掛けられた。まあ、最近そっち関係の仕事も多いからね……。あと、他国の大使もこんな感じで話し掛けて来る。
「今回、初めてこの国の武術大会を拝見させて頂きました」
「まあ。大使様は帝国の大会で優勝なさったと伺っておりますが、そのような達人の目から見て、我が国の大会は、どうでしたか?」
「正直、今年であれば、私なら簡単に優勝出来たでしょう。ただ、去年は騎士団副団長が出場していたと伺いました。彼であれば、私も油断すれば危ないでしょうね」
「騎士団の関係者達が聞いたら、激昂しそうなお言葉ですが……大言ではございませんわね」
「……それが判る貴女だから、正直に申したのですよ。全く、もっと実力のある方が出場されれば、楽しめるでしょうな……」
帝国大使の第2皇子が、意味深な目で私を見つめ、去って行った。
その後、妖精族の国、ウォールレフテ国大使のパットテルルロース様が話し掛けて来た。
「フィリストリア殿、このような場で何ですが、実はお話がございまして」
「まあ。どのようなお話でしょうか」
「実は我が国の大祭が、11月にございまして……それに招待させて頂きたいのです」
ウォールレフテ国は、11年毎に祭りを行い、建国を祝うとともに、大樹に感謝を捧げるそうだ。妖精族は寿命が長いから、建国祝いも1年毎にはやらないらしい。あと、妖精族にとって「11」は神聖な数字らしい。
それは、妖精族の起源……国家という概念も無かった太古の昔、精霊を見ることが出来る者達が、精霊と共に平和に暮らそうと大樹の元に集まり、暮らし始めて環境に適応したのが妖精族の始まりだが、その際、最初に集まったのが、11組の男女だったという話で、それから妖精族は「11」を神聖な数字と考えているそうだ。
「予定を確認し、回答させて頂きますが……可能な限り、参加の方向で、進めさせて頂きますわ」
「我々一同、貴女の参加を心待ちにしておりますので、宜しくお願いします」
今のところは何も予定は入ってないし、今から業務調整しておけば、問題無いだろう……。
漸く一息付けそうなので、お菓子のある所に行ってみたところ、今回はサウスエッド風のお菓子だけではなく、アルカドール領の甘味研究所のレシピで作ったと思われるお菓子が何品か並んでいた。
試しにパウンドケーキを食べてみると……美味しい。中に入っている細かくしたドライフルーツが良いアクセントになっているな……。そして、ショートケーキもあったので食べてみたが……こちらはイマイチか……多分素材の差かな……アルカドール領の牛乳は美味しいからね。
お菓子を食べていると、王太子妃殿下がやって来たので、礼をした。
「フィリストリア、今回は、アルカドール領の甘味も幾つか作ってみたのよ?」
「アルカドール領の者として、誠に光栄でございます」
「ただ、アルカドール領で頂いた甘味をこちらで作ってみても、中々同じ味にはならないのよ」
「恐らくそれは、牛乳や乳製品の違いではないでしょうか。アルカドール領の牛乳や乳製品の味は非常に濃厚ですから、乳糖泡などでは結構違いが出ますので」
「やはりそのようね……この乳糖泡台粉も、アルカドール領で頂いたものより、味が薄いと感じるもの」
「そうであれば、甘味研究所の製法から、配分を変えてみても良いのではないでしょうか」
「そうさせて頂くわ。料理人達に試して貰いましょう。ところで、各領を視察して思ったのだけれど、この国にも、甘味が根付き始めているわ。砂糖も、アルカドール領だけでなく、幾つかの領で甜菜が作られるようになっているし、今後は、更に促進させたいのよ。何か良い考えはないかしら」
「では……品評会でも開催しては如何でしょうか? 全国から選りすぐりの料理人達を王都に集め、収穫祭などに連接して開催すれば、人も集まり易いと思います」
「……そうね! それは良い考えだわ! フィリストリア、有難う!」
王太子妃殿下は去って行った。品評会が本当に開催されるかは分からないが、砂糖の需要が更に高まるのは、うちにとって良い事だからね……。
その後も何人かと話しているうちに、収穫祭の宴は終了した。
今週は、メグルナリアが25才の誕生日を迎え、精霊課から退職する。地属性の精霊術士や、リゼルトアラなど、親しくしていた人達は退職記念の贈り物などを準備したらしい。
とは言っても、悲しい別れではなく、職務を全うしての退職だし、デカントラル領の次期領主との結婚も控えているからね……幼馴染だっけ? 先日トンネル工事に行った時には会わなかったけど、聞くところによると、結婚前の調整があって、そちらに行っていたそうだ。まあ、特に問題なさそうだ。
メグルナリアの退職日となった。本人や精霊課長などは、退職の申告や、書類の手続きなど、色々やっているらしいが、私は最後の見送りだけ参加だ。
見送りの時間になり、ニストラム秘書官が私を呼びに来た。魔法省の庁舎玄関に行くと、既に精霊課の皆が集まっており、花道の様な態勢を作っていた。暫くすると、メグルナリアが魔法省の制服ではなく、普段着で庁舎から出て来た。そのまま花道の間を歩いて行く。
精霊課の皆は、メグルナリアが目の前を通ると、祝福や感謝の言葉を述べて行く。サーナフィアなどは、かなり寂しそうに別れの言葉を言っていた。花道の終点には、精霊課長と私、迎えに来ているお父さんのボルドバーム子爵がいて、馬車がある。
私としては、当初は面倒を掛けさせられたものの、その後はしっかり仕事をしてくれたわけだし、あと、領主夫人になる地属性の精霊術士ということで、親近感も湧いた。
「メグルナリアさん、来年にはご婚姻され、いずれかは領主夫人となられるわけですが……私の祖母も地の精霊術士でしたわ。領主夫人として、精霊術士の力で領政を助け、領民に慕われたと伺っております。願わくば、貴女にもそのような領主夫人になって頂きたいですわ」
「導師様、彼と婚姻できますのは、貴女のご指導のおかげですわ、有難うございました。貴女のお祖母様を見習い、今後も励もうと思いますわ」
そう言ってメグルナリアはボルドバーム子爵に連れられ、馬車に乗って領に帰って行った。是非幸せになって貰いたいものだ。
その後は月末まで特に大きな出来事は無く、全体会議も現況の報告が主体で終わった。その他、時間が出来たので、収穫した米を使って、もち米を作ってみた。来年はもち米も植えてみよう……。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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※ 造語
乳糖泡:生クリーム 乳糖泡台粉:ショートケーキ




