第276話 新しい魔道具研究への協力を始めた
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6月も第4週となり、そろそろ秋に近づいたところだ。7月には精霊概論の講義があるので、準備をしておこう。魔法強化の話などはアップデートが必要だしね……。そういえば、またお父様は授業参観……ではなく視察に来られるかもしれないな……。
テトラーデのマーク叔父様から手紙と小さい荷物が届いていた。
手紙によると、先日テトラーデに王太子夫妻が来られた際に、真珠貝の養殖や、海産物などを視察して貰って大変好評だったらしい。また、近いうちに真珠を王都で販売するそうで、サンプルを送ってくれたようだ。なかなか可愛らしいネックレスとイヤリングが入っていた。
真珠の養殖の利点の一つに、大きさや形を揃えることが出来るというものがあるが、いい感じで揃っている。一粒ごとの品質も、天然ものにも見劣りしないようだから、水晶などにも合いそうだし、ドミナスと協力すると面白い美術品を作れるかもしれない。お礼の手紙に書いておこう……。
今週は御前会議が行われるので、魔法省として報告する内容について事前の省会議で情報共有された。特に、魔法兵団との協同訓練の成果や重力魔法関連の話などが挙げられていた。
あと、これは現在精霊課に魔法学校から調整が入っている内容なのだが、各領巡回助言が終了し、精霊術士の運用に余裕が出来たため、精霊概論の時間だけではなく、収穫祭の時や大々的な実習などにも精霊術士を呼んで、魔法強化した状態での魔法の展示などを行ったりするという話があり、検討中の内容ということで報告して、反応を伺ってみるそうだ。
御前会議の日となり、いつもの様に陛下が臨場され、会議が始まった。
今回は、新宰相閣下の初会議ということで、緊張した雰囲気だったが、改めて紹介があった以外は特に大きな変化は無かった。魔法省関連の報告中、精霊術士の魔法学校への協力案件については、特に陛下達が懸念を示されることもなかったため、今後も話を進めても良さそうだ。
その他、国防省から報告された、二人乗り空動車の軍への配備状況や、海底火山の状況、建設省から報告されたトンネル工事の状況などが気になった所だ。それと、外務省から報告されていたが、魔力循環不全症治療に関して、カラートアミ教や治療した患者のいる国から感謝する旨の親書が届いており、今後の各種交渉にも有利に働くであろう、という話だった。
王太子夫妻の各領視察については、東部主体のコースが終了し、王太子殿下自らが視察の成果について概要を話された。
基本的に各領政に問題は無く、国王直轄地についても執政官は誠実に務めを果たしていたとのことだったが、一部気になった所については、領主に直接話したということだ。東公のことだろうか?
また、道路や輸送手段を始めとした、人や物の流通の整備を推進する方向であるのは変わらないが、幾つかの領で見られている事業について、政府が仲介し、開発した領の利益を確保した上で国全体へと波及させたいと仰っていた。アルカドール領だと、製塩法や蒸留酒の製法などだろうか。
あと、最後の中部主体のコースは、予定通り7月1週から始まるとのことだ。なかなか忙しない感じだが、8月の収穫祭には王都にいなければならない筈だから、スケジュール上仕方ないのだろう。
ちなみに、魔法大臣の領地であるエルステッド領から始まるので、御前会議が終了したら、暫く大臣が不在になるが、これも予定通りだ。
エルステッド領は国内一の大きさのテドラーケ湖を活かした農業、水運、観光などを主要な産業としているから、紹介のしどころがあるのだろうけれど……郷土料理を以前頂いたのだが、鮒ずしに似た感じの料理もあった。私は大丈夫だったのだけれど、人によっては臭いが受け付けないかもね……。
週末にセントラカレン家から手紙が来ていた。内容は、セントラカレン家嫡男であるエルムハイド様とレナ様の婚姻式が7月27日に行われるそうなので、その招待だった。業務上特に問題は無いし、お父様の名代という意味もあって招待されているので、参加させて貰おう。
月末の休日については、のんびり鍛錬などをして過ごさせて貰ったが……最近、また部分的に導師服が突っ張っている。体の一部分の身体強化の練度も上がっており、揺れは殆ど感じないし、決して太ったわけではないと思うが……今日の夜にでも、またサイズを変えておいて貰おう。
最近、家の料理人が研究成果と称して数日ごとにチョコレートをデザートにしているが、それは関係ない筈だ……多分。
7月に入り、王太子夫妻は視察に行かれた。私は書類業務を行う傍ら、精霊概論の講義の準備を行っていたのだが……ヴェルドレイク様が訪ねて来た。
「導師様、お忙しい中、お時間を頂き有難く存じます」
「セントラーク魔技士、問題ございませんよ。そういえば、お兄様のご婚姻おめでとうございます。私も婚姻式には参加させて頂きますわ」
「導師様にそう仰って頂けて兄も喜ぶでしょう。私としても、今後益々業務に邁進し、兄や実家を安心させたいと考えております」
「まあ、では、先日仰っていた、新しい魔道具の研究を始められますのね」
「その通りです。こちらをご覧下さい」
そう言ってヴェルドレイク様は、持っていた木の板を見せてくれた。銅線が輪の様に張られていて、1か所だけ細い線が沢山巻き付けられている部分があり、首飾りの様だ。これは……
「もしかしてこれは、雷の素が銅線を流れる時の性質を調べるためのものでしょうか?」
「ええ、その通りです。これを見ただけで理解されるとは、流石ですね」
ヴェルドレイク様が持って来たのは、簡単な電気回路、つまり電流の流れのための閉ループが作られていて、その中に負荷が接続されているというものだ。電源にあたる部分が無いのは、雷魔法で電源を作るからだろう。
「現段階で、どのような事が判明、または推論出来ましたの?」
「現段階では、全て推論です。基本的には水路の様なものだろうとは考えておりまして、流そうとする力や流れる量、流れ易さなどには関連性があると思い、実験を重ねております」
なるほど。では、今回については簡単な電気関係の法則を教えればいいかな。フィアースでの性質は異なる可能性もあるし、念の為風精霊にも聞いてみて、問題無ければ教えることにしよう。
「では、風精霊に、雷の素の法則性などについて尋ねてみますわ。風精霊さん?」
『何だい?』
「雷の性質について教えて欲しいのだけれど……」
それから私は、前世で聞いていた電気関係の法則や定理などがこちらの世界でも適用されるのか、風精霊に確認しながら、その結果をヴェルドレイク様に教えて行った。聞いた限りでは、地球とフィアースでは、電気の性質は変わらないようだ。
「成程! 抵抗で発生する熱量は、雷素を流そうとする力と流れた雷素量の乗算で求められるのですね」
「ええ。流れた雷素量というのは、先程言いましたが、単位時間当たりの流量に時間を乗算して求めて下さいませ」
「……導師様に法則性を確認出来て非常に助かりました。この器材を試作して色々試していたものの、誤差もありますし、目で見えない微小な存在ですから、判断が付かなかったのです。例えば流そうとする力、単位時間当たりの流量、流れ難さの関連性からして、本当に正しいのかどうか、証明するには更に多くの実測値をもって比較検討せねばいけなかったでしょう」
「何事も初めてのことなのですから、当然ですわ。差し当たって、先程風精霊から得た知識を体系化されては如何かしら? 名称や単位なども、仮置きでも良いのでお決めになった方が宜しいかと」
「是非そうさせて頂きます。その中で、新たに不明な点が出て来るでしょうから、その際にはまた伺わせて頂きます」
「承知致しました。またいらして下さいな」
ヴェルドレイク様は、満足げな雰囲気で退室した。
こうして、遂に電気・電子科学の研究が始まることになった。魔法がある分、発展の流れは地球とは異なる筈だけれど、共通する部分もあると思うし、文明の発展のために、積極的に協力していこう。
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※ 造語
雷素:雷(=電気)の素。電子。




