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第275話 変わりゆく中で、ほろ苦さを味わった

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

王太子夫妻が戻られた。やはり前回同様盛大に出迎えが行われた。お二人とも普通に微笑まれているけれど、実際は非常にお疲れなのだろうな……。




私については、通常の業務を行いつつ、田んぼの視察に行ったりした。もうすぐ収穫できそうな感じなので、改良した農具の設置などについて、現地と調整した。


また、鳥除けの効果についても、小鳥が寄って来なくなったことを確認した。今後、鳥による被害が多い所で使って貰うことにしよう。




宰相閣下が交代される日となった。引継ぎ及び交代式については、陛下以下、少数で行われたので内容を知らないが、恙なく行われたようだ。


そして、宰相府の大会議場にて、各省の課長以上が集められ、新宰相閣下の所信表明が行われた。方針や重点事項としては、各領政を盛り立て、その成果を中央に還元していく、というものであった。まあ、容認派の方が就任される、というのはそういうことだからね……。


その後は宰相府庁舎前に集合し、前宰相閣下を見送った。各大臣の所で軽く挨拶をされ、最後に宰相補佐官達に挨拶をされた後、迎えの馬車に乗って、ステア政府庁舎区域を退出された。


これからの生活は、基本的にセントラカレン領内に居住されるようだが、夫人と一緒に旅行などにも行かれるそうだ。アルカドール領にもそのうち来られるだろうか。




週末になり、追加発注した製粉機も届いたので、帰宅後転移門でアルカドール領に一時帰省した。この際、テルフィやクラリアの他、数名の料理人も連れて行った。帰省することは連絡していたので、特に驚かれることもなく、こちらで夕食を一緒に取った。


「何やら新しい甘味の製法を伝えに来たそうだな」


「はい、お父様。お休みの所申し訳ないとは思うのですが、明日は甘味研究所の方に伺わせて頂きますわ」


「お前が行くのであれば、喩え休日だろうと全員で出迎えるだろうな。それと、丁度良いので伝えるが、カイとチェルシアーナ嬢の婚約が決定した。先月、こちらに来て頂いたおかげで、話が進んでくれたよ」


「まあ、これでアルカドール家も安泰ですわね。お兄様も、ご婚約おめでとうございます」


「……あ、ああ、有難う、フィリス……」


「チェルシアーナ様が成人されるまでにはまだ時間がありますが、フィリスの方からも交流を深めて貰いたいわね」


「はい、お母様」


お兄様の反応が少々微妙な所はあったが、和やかに話は進んで行った。




その日の夜、自室で寛いでいると、お兄様が訪ねて来た。


「お兄様、どうなされたのでしょうか?」


「フィリス、少し話をしていいかな」


「ええ、どうぞ」


部屋の中に招いてソファに座って貰った。深刻な雰囲気だったので、暫く様子を見た。そういえば、以前よりかなり魔力量が上がっている気がする。毎日あの鎧を着て鍛錬を行っているのだろう。


「お兄様は、相当魔力量が向上されましたわね。やはり毎日鍛錬をされているのでしょうか?」


「ああ。フィリスから貰った鎧を着て、毎日鍛錬を行っているんだ。自分の魔力量が日に日に上がって行くのが楽しくてね。本当に、あの鎧を作ってくれて有難う」


「どういたしまして。それで、どうされたのですか?」


水を向けてみると、お兄様は意を決したのか、悩み事を話してくれた。


「婚約が決まってしまったことで……何かが変わってしまうのが、不安なんだ」


なるほど、そんなことを考えていたのか……私は、お兄様の隣に座り、手を握って話し掛けた。


「確かに変わるものもあるでしょう。でも、私達の関係は、変わりませんわ」


「フィリス……」


「お兄様が家族を愛して下さること、私達がお兄様を愛することは、変わりませんわ」


そう言うと、お兄様は私を引き寄せ、抱きしめて来た。お兄様は、少し震えている。


「ごめん……少しだけ……このままいさせて欲しい……」


「ええ、お兄様。……私は、お兄様を、愛しておりますわ」


「私も……私は、フィリスが好きだ……」




暫くそのまま、お兄様の背中を撫でていると、落ち着いたのか、離してくれた。


「妹にこんな相談をするなんて、みっともない所を見せてしまったね」


「完璧な人間なんておりませんわ。私も日々失敗しておりますもの」


「そうだね。そういえば小さい頃……」


その後は思い出話に興じていた。なお、お兄様は、私の昔の失敗談をかなり詳しく覚えていた。忘れて欲しい。




次の日、お兄様は普段通りだった。


私も朝の鍛錬に付き合ったが、あの鎧を着た上で身体強化を行うと、中々迫力があった。邸の警備に就いていない護衛達も鍛錬に付き合っているが、あのお兄様の動きについていける者は、殆どいなかった。相手の意識を感じて動けるようにならないと、対応は難しいだろうね……。


汗を流して朝食を取り、予定していた甘味研究所に向かった。ちなみに、王都から連れて来た料理人だけでなく、本邸からも料理人がついて来た。チョコレートの話をしたところ、非常に興味を持ったらしい。


「お嬢様、新しい甘味の製法を伝授して下さるとのことで、研究所一同、有難き幸せに思います」


「今回の甘味は、美味しいだけでなく、飴の様に幅広く応用できるものですから、是非研究して頂戴」


そうして、チョコレートの説明をして、作り方を教えた。実際の作業は王都から来た料理人に行って貰い、私はその都度説明をしていった。チョコレートは、温度管理が重要だしね……。今度温度計でも作った方がいいかもしれないな……。


型に入れて冷やしている間に、最近の様子などを聞いてみた。色々な所からレシピを売って欲しいと言われており、事務側の人員を増加したそうだ。


また、領内の主要な貴族家から、こちらに修行に来た者が何人かいるそうだ。レシピを読んで作るだけでは物足りなくなり、本格的に修行したいということだった。両分領太守家やカルセイ町長の所の料理人達が私に挨拶をしてくれた。


今後も増えて行くことが予想されるため、研究所には学校の機能も追加するらしい。甘味の普及のため、領からも助成金が出ており、一般の料理店で働く者でも、商工組合の紹介状があれば受け入れるらしい。




軽く昼食を頂いた後、チョコレートを試食して貰った。


「こ、これは……! 甘さとほろ苦さが滑らかに重なり、舌が歓喜に震えている! ……はっ! 私はいつのまにか涙を……初めて甘味を食した時以来の感動です!」


という研究所長の感想を筆頭に皆喜んでくれ、チョコレートの研究と、併せてカカオ豆の発注を行ってくれることになった。2台持って来た製粉機については、甘味研究所と本邸の方に置いた。


夕食時、取り置きしておいたチョコレートをデザートに出したところ


「むっ! この香りと味は……素晴らしい! このような甘味があるとは……」


「まあ! なんて芳醇な味わい……茶会にも合いそうね……楽しみだわ」


「これ、美味しいよ! これまで甘味はそれほど食べたいとは思わなかったのだけど、このほろ苦さがいい! 病みつきになりそうだ」


等々、非常に好評でした。特に、単に甘いだけではないため、男性陣にも受けが良かったようだ。そういえばチョコレートは、酒にも合うのよね……。そろそろ精霊酒も販売できると思うから、ウイスキーボンボンの作り方とかも、情報提供しておこう……。


こうして、甘味研究所にチョコレートの作り方を教えて、王都に戻って来た。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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