第274話 チョコレートを作ってみた
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業務が終わり、帰宅すると、私が注文したという品が届いているとクラリアから報告があった。領収書を確認すると、カカオ豆だったので、早速確認に行ったところ、大きな麻袋に入ったカカオ豆が置いてあった。
生産地でカカオポッドから豆部分を取り出し、パルプを取って発酵・乾燥させたものだ。これを工業的にチョコレートにするには、かなり複雑な工程と大掛かりな資材が必要だが、それはおいおい研究して貰うとして、手作業でもチョコレートにすることは可能なので、それを試すことにした。
休日となり、午前には通常の鍛錬を行ったが、午後は空いていたので、早速チョコレートを試作してみた。
前世で、かなりチョコレートが好きだった私は、買うだけではなく自作もやったことがある。湯煎で溶かして作るだけではなく、カカオ豆からチョコレートを作るキットなどを買って作ったのだ。ただし、バレンタインデーの時に、自分へのご褒美用として作っていたので、お母さんには呆れられたのだけれど。
その時は成功とは言えない出来だったのだけれど、とりあえずはその時の経験を活かして、道具を準備(無ければ作成)した。ボールやすり鉢、流し込む型などは元からあったものを、焙煎用の器具や氷を使った簡易冷蔵庫は、自作した。また、調理場でも使えるサイズの、手動でハンドルを回す製粉機があったので、使ってみることにした。
まずは豆を計量して、しっかり洗った後、水分を取って焙煎した。10分くらいやっていると、豆がはじける音がしたので焙煎を終了し、取り出して微風を当てて冷やした。かなりいい匂いがするが、ここからが長い。皮を剝いた豆を製粉機に入れて粉々にした。
10分程でかなりとろみが出て来たので、今度はすり鉢に移し、すり鉢ごと湯煎をしながらゴリゴリと摩り下ろした。砂糖を豆の半分くらいの量を入れて1時間ほど練り込んだが、あまり滑らかにならず、更に1時間くらいやって漸く滑らかになった。これを型に流し込み、簡易冷蔵庫で冷やした。冷蔵庫に使う氷は当然魔法で作った。
一応完成したチョコレートの試作品を、夕食の際に一緒に出して貰ったが、まだ苦く、しかも舌触りがザラザラとしていた。砂糖は以前より多めに入れたつもりだったが、牛乳又は粉乳などを入れた方がいいかもしれない。
また、製粉の要領を考えた方が良いという結論だった。流石にあれは大変だからね……。いっそのこと、湯煎した状態で細かく製粉出来る器材を作って貰うか。お湯自体は、お兄様が開発した熱湯魔法があるから、すぐ準備出来る。
それと、カカオバターを単独で取り出せるようにした方がいいかもしれない。確か工業的にチョコレートを作る際は、途中でカカオバターを追加していた筈だ。脂分だし、案外火魔法あたりで分離出来るかもしれないから、試しにやってみよう。製粉機を作れる王都在住の職人を教えて貰い、その日は休んだ。
次の日、通常の業務だったので、必要な所は終わらせ、午後に休みを取って紹介された職人を訪ねた。
「こ、このような所に導師様が、一体何用でしょうか?」
「実はこのような製粉機が欲しいのだけれど、作ることは可能でしょうか?」
こちらの要望を伝えたところ、可能ではあるようだ。
「既存の物を少々加工すれば可能ですので、今週中にはお持ち出来ると思います」
「では、宜しく頼みますわ」
特製の製粉機を依頼して家に戻ったが、夕食まで少々時間があったので、カカオバターの抽出の実験をしてみよう。
とりあえず、焙煎して皮を剥いた豆を粉々に砕いて、改めて熱してみよう。確かカカオバターは35度以上で融け始める筈なので……よし、ここで油を分離! おおっ、何か油脂っぽいのが分離した!
……さて、これが本当にカカオバターなのかを確かめるため、少し舐めてみると……確かに脂っぽい。恐らくはカカオバターだろう。そして、残りの方はカカオパウダーになるから、これでココアを作ってみようか。
更に粉々にして、コップに入れて、水と牛乳と砂糖を入れて、熱湯魔法を使って熱してみた。少しずつ味見をして、いい感じになったので、調理場から離れて貰っていた料理人達にも意見を聞いてみた。
「お嬢様、この香りと味は、これまでに無い素晴らしい飲み物です。特に冬には適しているのではないかと考えます。……是非私どもにも、この飲み物の作り方を教えて頂けませんでしょうか?」
非常に好評だったので、カカオ豆をいくらか渡して、作り方を教えた。火属性の者もいるから、カカオバターの抽出も出来る筈だ。抽出したカカオバターについては、保存しておいて貰おう。
今日は重力魔法活用会議に参加した。今回については、空動車の状況以外にも、他の分科会、重量物運搬、高所・低所移動、作業補助分科会にも進展が見られたとのことで、結構盛り上がった。重量物運搬については、重空動車の技術を利用し、ダンプカーっぽいものを試作したようだ。
高所・低所移動については、小舟が浮かんだようなものを試作したという話で、階層ごとに床に着地し、階層移動の際は上に何もない所まで移動して上下移動する、という運用をするそうだ。
作業補助については、特に開墾の際に労力を使う樹木や巨岩の移動について、従来の地魔法と併用して、効率的な運用を案出したそうで、地魔法士の負担を大きく減らすことも出来るとのことだった。
その他、重力魔法の普及についても話があった。これについては、オスクダリウス殿下からも発言があり、魔法学校の学生にも重力魔法を使えるようになった者が増えているそうだ。そういった学生達の体験談や、魔技士の状況も加味して、重力魔法に関する教本が作成されているとのことだった。このまま順調に発展して欲しいものだ……。
省の定例会議があった。特に今回については、王太子殿下達の視察の中段がそろそろ終了し、王都に戻られるという話と、来週は宰相交代に伴い、現宰相閣下であるタレスドルク・セントラカレン様が離任されるということで、各省の課長以上については見送りをするという話だった。魔法省では、このメンバーで見送るわけだ。私も色々お世話になったし、感慨深いものがある。
ステア政府の長である宰相が、体制派のセントラカレン家から容認派のウェルスカレン家に替わることで、政府としての業務の流れ自体が変わることは殆ど無い。しかしながら、各領への対応について中央寄りなのか、各領に任せるのか、といった点が変わったり、取引先の商会が変化したり、この先政府が雇用する人材が容認派寄りになったりする、といったことはあるそうだ。勿論、財務大臣が現セントラカレン公爵であるマリクナルス様なので、政府全体が容認派寄りになるわけではないのだけれど……。
週末になり、発注していた特製の製粉機が届いたので、また休日を利用して、チョコレートの試作を行うことになった。今度は、概ね良い感じに進みそうなので、甘味研究所から出向してきた人を主体として、一緒に作ることになっている。ちなみに、ココアについてはいい感じで作れていて、カカオバターもそれなりに貯めることが出来たそうなので、今回はそれらも使ってみよう。
先日と同様、カカオ豆を焙煎し、皮を剥いた状態にした。ここから特製の製粉機を使って摩り下ろす。今回については力仕事を料理人に任せ、私は指示をしている。ある程度粉になったので、今度は砂糖やあらかじめ作っておいた粉乳を混ぜ、更に湯煎状態にした。
ハンドルを回す作業を続けて貰い、いい感じでとろっとまとまったので、型に流し込んで冷蔵庫に入れた。混ぜ込む作業が以前より短時間で終了したのでこれだけで成功と言えるが、今回はカカオバターを使ったチョコレートも作ってみる。
要領はほぼ同じだが、砂糖や粉乳を混ぜる時に、カカオバターも混ぜ、あと、湯煎の温度を少々高めにしないといけないところに注意した。やはりカカオバターを混ぜると、色も茶色になるし、滑らかになるのが早いかな。
これらは、夕食時に出して貰うとともに、他の料理人にも味見して貰った。
私の感想としては、以前より口当たりが滑らかになったことと、苦みが少なくなり、美味しくなったな、というものであり、前世のチョコレートを知っているため、それほど大した感想は出なかったのだが
「何だこの甘味は! 素晴らしく食欲をそそる香り! 舌に絡みつく、いや、舌が離すのを拒んでいるかのような、ああ、もっと食べたい! この甘さと苦さの絶妙な組み合わせ! この世にこんな美味があるとは! お嬢様、私は貴女様の元で働いているという幸福を、いま、この身に感じております!」
料理人達は皆、感動に打ち震えていた。更に、メイド達に余ったチョコレートを食べて貰ったのだが
「……お嬢様! このような素晴らしい甘味を! 有難うございます! ああ、舌がとろけそう……」
と、仕事を中断させてしまった。流石はチョコレートだ……。
ということで、製法を紙にまとめるとともに、製粉機を更に作って貰って、甘味研究所に情報提供しよう。きっと更に洗練させてくれるだろうし、他のお菓子にも応用してくれるだろう。楽しみだ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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