第273話 カウンタール~ヘキサディス間のトンネル工事を行った
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6月に入った。精霊課の方は、魔法兵団との協同訓練が行われている。各領巡回助言も終わったため、殆ど全員の精霊術士が参加している。
入ったばかりでまだ魔法強化を使えない新人も、研修で参加しているようだ。私は、レーザーを含めて光魔法を習得した人が出たと聞いたので、魔法研究所に確認に行った。
「確かに、収束単色光線魔法も問題無く発動出来ておりますわね」
「導師様、これまで光魔法のご教授、有難うございました」
「皆様の努力に、敬意を表しますわ。今後は論文作成、魔法の普及など、お忙しいと思いますが、励んで下さいな」
ちなみに、魔法研究所には現在、入口のロビーに各属性の精霊の絵が飾ってある。火精霊と風精霊の存在の認識がレーザーや防壁の魔法に必要なので、姿を見せて貰って絵師に描かせたものだが、どうせならということで、水精霊と地精霊も描いて貰ったのだ。
それと、精霊を強く認識して魔法を使うと、魔法の威力が高まるという、真偽の判定がしづらい噂が流れたため、光魔法を習得するために見ている人はもとより、火属性以外の人も絵を見に来るようになった。まあ、精霊を尊重してくれる雰囲気になるのであれば、良かったと言えるだろう。
なお、魔力増幅……というより、その前段階の魔力波の習得については、まだまだといった状況だった。
書類業務を行ったり、たまに協同訓練の状況を感覚共有して見に行っているうちに、カウンタール~ヘキサディス間のトンネル工事を行う日となった。
事前の打ち合わせでは、要領自体は基本的に前回と同じで、場所が違うだけだ。今回は少し距離が短いようなので、これなら中に入るまでもなく貫通出来るかもしれない。
以前の工事からあまり日が経っていないが、交通課長が言うには、可能であれば、実際に王太子殿下に視察の際にトンネルを使って貰いたいという話だった。今から整備をすれば、ヘキサディス領からカウンタール領に行く際に使えるようになる可能性が高いらしい。
トンネルを使わない場合、遠回りになって移動日数が3日くらい余計にかかるため、丁度良いそうだ。王太子夫妻がすぐに通られるというならば、しっかりと抜けもれなくやらないとね……。
私は王都のカウンタール侯爵邸からカウンタール領の中心都市に転移して、カウンタール侯爵に挨拶した後、トンネル入口付近の村に、前回とほぼ同様の編成で移動した。変化したのはライスベルト様が同行したことくらいか。
到着後、周辺の状況を領兵に確認し、問題無いということだったので、トンネル入口予定地に移動した。前回同様、女王様の像を置いて、風精霊に暫く山谷風を止めて貰った後、案内係を空動車に乗せてヘキサディス側に行った。
ヘキサディス側では、伯爵自身がやって来ていた。確か嫡男、リゼルトアラのお兄さんがいて、領政を手伝っていた筈だけれど……まあ、王太子殿下達が通られるから、自身で確認したかったのかもしれない。
伯爵に、工事の要領などを説明した後、私を見かけて人懐っこくやって来た地精霊がいたので、挨拶をして、魔力を渡して仕事を頼むと、喜んで飛んで行った。暫くすると、少し離れた所からやって来たので入口の場所を変更した。伯爵に、要望などを聞いてみると
「近傍の道路に接続する道をこれから工事するので、可能であれば支援を頂きたい」
とのことだったので、併せて周辺の工事を行っておくことにした。
【我が魂の同胞たる地精霊よ。我と共に在れ】
地精霊と和合を行い、早速トンネルを掘り進めた。今回はやはり、トンネルに入らなくても反対側まで掌握が出来たので、トンネル自体は20分ほどで作ることが出来た。後は道路かな。
近傍の道路に接続させる位置は聞いていたので、その方向に真っ直ぐ進み、周囲を均しながら道路を作っていく。途中で森に突き当たったが、木を株ごと空いている場所に移動させていく。暫く進むと、道に出たので、そこで和合を終了した。伯爵からは
「おお、これなら王太子殿下が視察に来られる前に整備が完了するだろう! 導師殿、感謝する」
と、お礼を言われたが……まあ、元の入口付近なら問題無かったかもしれないけれど、位置を変更したから、森を切り開いて道を作る所要が出来てしまったからね。木が生えている所に道路を作るのは、魔法を使っても大変だから、支援は仕方ないだろう……。
その後、手を地精霊と同化させて、トンネル内の工事を進めつつ空動車で移動して、カウンタール側に向かった。到着した頃には既に夕方だったので、宿営地で休ませて貰った。
次の日、カウンタール側の様子を見てみると、こちらも周辺の整備を手伝った方が良さそうだったので、ライスベルト様に申し出ると
「是非お願いします。これから主要道に接続する小道の拡幅工事を行う所だったのです」
と言われてしまったので、手と地精霊を同化させて、整備の支援を行った。小道を拡幅しつつ進んで、広めの道路に接続出来た所で作業を終了し、ライスベルト様の所に戻った。
「これで余裕を持って王太子殿下を迎えられます。感謝致します」
とお礼を言われ、そこでライスベルト様とは別れてトンネル内を点検しながらヘキサディス側に進んで行った。トンネルを出て、近くにいた人にヘキサディス伯爵の場所を訪ね、案内して貰った。トンネルの宿営地でこの周辺やトンネル内の整備、警備要領などを話し合っていたようだ。
丁度良いということで、私と同行していた交通課の担当者からも意見を貰って、その場の会議は終了し、伯爵が現場の責任者に色々指示を出した後、空動車でヘキサディス伯爵邸に向かうことになった。
車の中で伯爵と話していると、ヘキサディス領が畜産研究所と共同で研究している養蚕の話になった。順調に育っているとのことで、王太子殿下の視察対応の目玉にする予定だそうだが、念の為事前にカイコの様子を精霊に確認して貰いたいとのことだった。時間もあったので、見学ついでに確認させて貰うことになった。
中心都市の郊外にある養蚕場に到着し、様子を見させて貰ったが、問題は無さそうだった。念の為、風精霊や地精霊に状態を確認して貰ったが、殆どの個体は元気にしており、病気などにも罹っていないとのことだった。
「伯爵、精霊が申すには、虫達は特に異状なく育っており、病気に罹っている個体もいないそうですわ」
「それは良かった。ところで、この虫の状態を確認するには、どの精霊に伺うことになるのだろうか?」
「風精霊か地精霊ならば、状態が確認できますわ」
「成程。今後は我が領の精霊術士に定期的に確認させた方が良いだろうな」
確かヘキサディス領には、地属性の精霊術士がいた筈なので、その人が確認するのだろう。リゼルトアラが帰省した時などにも、確認できるだろうしね。
その日、ヘキサディス伯爵邸に宿泊したが、夕食時には、今回のトンネル及び周辺の工事へのお礼を改めて言われた。それと、今後は領を挙げて養蚕業を行うそうで、桑畑なども各所に作ったり、絹織物の研究を行ったりしているらしい。
まあ、陛下や王妃殿下がアブドーム国から献上された絹糸や織物を、大層お気に召したという話が広まったからね……。元々アブドーム国は、織物の技術も高かったらしいから、すぐに織れるようになったそうだけれど、我が国はどうなのか……その辺りは、私が何か出来るわけでもないし、期待して待つしかないかな。
次の日、伯爵達に見送られ、王都に戻って交通課長に工事終了を伝え、魔法大臣に終了報告を行った後、不在間に来ていた書類などを読んだりした。また、協同訓練が最終日だったので、感覚共有をして訓練場に見に行った。
雷魔法や氷魔法を魔法強化の元で使用しているようで、特に集団で雷魔法を放つ様は、非常に迫力があった。久しぶりにリゼルトアラの高笑いを聞いたが、情景にぴったりで思わず笑ってしまった。
来週に重力魔法活用会議があるため、届いていた事前資料を読んだり、現在使用している空動車の感想などをアンケート用の紙に記入したりしているうちに、週末も過ぎて行った。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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