第271話 カウンタール~ディクセント間のトンネル工事を行った
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
1週間ぶりに魔法省に出勤だ。仕事が溜まっていないか心配な面もあったが、書類自体はそこまで多くなかったので良かったよ。ただ……例のトンネルについての調整が入ったようだ。調整資料によると、カウンタール領とディクセント領の間のトンネルらしい。
で、王太子夫妻のカウンタール領視察は後段だから、それまでにはやっておきたいようで、早めに調整が入ったということらしい。私とも直接話したいということだったので、時間を調整した。午後になり、執務室に交通課長ともう一人の職員がやって来た。
「導師様、お忙しい中、お時間を頂き有難うございます」
「先日お話があった、隧道工事の件と伺っております。王太子殿下は、アルカドール領の視察の際に、自らご所望されて、隧道を視察されておりました。それ程までに重視されている事業ですから、可及的速やかに対応させて頂きますわ」
「そう仰って頂けると助かります。今回の細部計画ですが……」
交通課長が前置きをした後、担当者と思われる職員が細部の説明をした。どうやら双方の領のトンネル開通場所付近の村に領軍の一部を配置して警護し、私が工事を行うという流れのようだが……。
「中心都市まで転移門を使えるのは宜しいのですが、そこからは馬車で移動でしょうか? 空動車で移動させて頂きたいのですが……」
「空動車と仰いますと、最近軍への納入が始まった、2人乗りのものでしょうか?」
「いえ、私が先行的に使用させて貰っている10人乗りのものがございます。王太子殿下達の視察の際にも、利用致しましたわ」
「……成程。その方が確かに宜しいかもしれませんね。計画を修正致します」
そのような感じで話し合った結果、領軍の配置にかかる時間も考慮し、23日に現地に移動することになった。工事自体は2日で終わると思うから、順調に行けば、25日には王都に戻れるかな。
省の定例会議があった。精霊課は、各領巡回助言が全て終了した件と、それらの際に数名の精霊術士を確認出来た話をしていた。私については、今後建設省の事業であるトンネル工事に協力する話をした。それと、情報共有の場で、アルカドール領の視察の件を聞かれたが、問題無く対応出来たと答えておいた。
週末に、大聖堂の方から、神官が私の所にやって来た。月末に、例の魔力循環不全症の治療を行いたいとのことで、特に業務に支障は無かったから承諾した。今度は1日だけではなく、3日間の予定で行う。神域に宿泊することになるそうだ。これまで何度か行ったが、泊まるのは初めてだし、治療以外にもどこかへ行けたらいいなあ。
休日を鍛錬や読書などをして過ごし、第3週が始まった。恒常業務を行いつつ、田んぼの視察に行ってみた。以前作るよう依頼したものが出来たそうで、とりあえず使って様子を見ているらしい。
「導師様、あれが風精霊? を模したものです。仮に『鳥除け』と称しております」
見ると、かかしというより、前世で言うところの鳥除けグッズに近いもので、こぶし大の大きさの木の玉を緑色に塗って、紐で柵にぶら下げていた。効果はどうなんだろう?
「効果は確認出来ましたか?」
「まだ何とも言えませんが、今の所、鳥は近寄っていませんね」
ということで、鳥除け(仮)を暫く見ていると、何故か風精霊がやって来て、触り始めた。聞いてみると
『何かこれ、鳥達は僕らに見えるらしいんだけど、どう見ても違うよね』
と、少々不満の様であった。まあ、風精霊が興味を持って近寄ってくれるなら、それはそれで効果が出るだろうから、壊さない程度に、たまに遊んで欲しいと風精霊に頼んで、視察は終了した。
23日となった。カウンタール~ディクセント間のトンネル工事を行うため、私は王都のディクセント侯爵邸からディクセント領の中心都市に転移して、ディクセント侯爵に挨拶した後、トンネル入口付近の村に空動車で移動した。
この際、私やテルフィだけでなく、交通課の担当者や、ディクセント領からも侯爵嫡男のジルダロース様や行政官らしき人達も同乗して移動した。1時間程で到着したが、初めて乗った方々は、やはり皆驚いていた。その村には領軍の指揮所があって、領兵の配備状況をジルダロース様達と確認した。計画通り配備されていることを確認し、トンネル入口予定地へ向かった。
トンネル入口予定地は、そこから数分の距離で、領兵が警備しており、宿泊地も準備されていた。
「導師殿、工事の要領を、再度確認させて貰いたいのですが、宜しいでしょうか? 現地でないと判らない内容もありましたので」
「ジルダロース様、承知致しました。まず、精霊女王様の像をこのように配置し……」
関係者に説明しながら、以前行った様に、あらかじめ準備していた女王様の像を、地図と見比べて、トンネルを掘る方向に向くように設置して貰う。当然、下は均して、重力魔法も使い、水平になるように置いた。
「この像をカウンタール側から地精霊によって確認し、直線かつ水平に掘り進められるように致します。それから、精霊導師の力をもって掘り進めて参ります。今回は約20キートの隧道ですから、掘るだけであれば今日中には終了致しますわ。私はこちら側に到着致しますので、ジルダロース様はこちら側でお待ち下さい」
「……話を聞くだけですと、まるで想像することが出来ませんが……こちらで確認させて頂きます」
「では、私はカウンタール側に参りますわ」
そう言ってジルダロース様の前を辞し、カウンタール側に行く……ところだが、まずは風精霊に魔力を渡してお願いをした。というのは、ここからそのまま空動車で向かうと、山谷風が吹いたりするから危ないのだ。そこで、空動車で移動する間だけ、風を止めて貰った。空動車も万能ではないからね……。
カウンタール側の連絡員がこちらに来ていたので、空動車に同乗して貰い、カウンタール側の入口に向かった。無風の中、10分もかからず安全に入口地点まで到着出来た。そこには、カウンタールの領兵達と、ライスベルト様や行政官らしき人達もいた。私は空動車を収納してライスベルト様に挨拶をした後、工事の要領を説明した。
「成程……これと同じ像がディクセント側にも置かれていて、地精霊に位置を確認して貰うのですね」
「ええ。今から地精霊に頼んで、確認致しますわ」
近くには……岩の上で寝転んでいた地精霊がいたので、話し掛けて、女王様の像を見せて、山の向こうに同じ像があり、その像の目の位置の高さと同じ高さで、こちらまで真っ直ぐ戻って来て欲しいと依頼した。面倒くさそうにしていた地精霊は、魔力を与えると、元気に飛んで行った。
暫く待っていると、その位置から少し上の方から地精霊が戻って来た。入口を修正して、こちらにも念の為女王様の像を向かい合わせとなるように置いた。掘る方向のイメージは判った。トンネルの幅や高さはアルカドール~ビースレクナのものと同じだから……後は土砂をどうするか、かな。
「ライスベルト様、掘った際の土砂はどちらに捨てれば宜しいでしょうか?」
「基本的にはあちらにある谷の方に捨てて下さい。また、この辺りの道路工事も併せて行いますので、この辺りに幾分か土砂を置いて頂けると助かります」
「承知致しました。これから工事を始めますので、安全な場所まで移動して下さい」
皆が後方に下がったことを確認し、私は和合を始めた。
【我が魂の同胞たる地精霊よ。我と共に在れ】
6体の地精霊が現れ、私の体と一緒になって和合する。やはり掌握出来る距離は格段に上がっている。概ね16~7キート位だろうか。もう少し掌握出来れば一気にあちらまで掘れたのだけれど、やはり少しトンネル内に入らないといけないかな。まあ、予定通りだし、いいだろう。
そこから大量の土砂を抜き出すような感じで掘り進めて行った。20分くらいした所で、掌握した限界に到達したので、ここからはトンネル内に入って掘り進めよう。まあ、一度断ってから行くか。
「ライスベルト様、私はこれから隧道に入り、掘り進めますので、こちら側の管理を宜しくお願いします」
「……え、ええ……解りました。あまりに凄まじい力を目の当たりにして、我を忘れておりましたが……こちらの管理は引き続き行います。明日もこちらに来られるということで宜しいですね?」
「ええ。では工事を進めますわ」
そこからトンネル内に入り、中間地点の10キート程進んだところで、残りを掘り進めた。と言っても今度はディクセント側に土砂を捨てる。掌握した感じでは、打ち合わせ通り、土砂捨て場付近には人がいないので、遠慮無く捨てて行く。
数分でディクセント側まで掘り進められたので、そのままディクセント側の入口まで移動し、土砂崩れなどが起きないよう入口付近を岩化した後、和合を解いた。掌握範囲が広がっていることに加え、力の使い方が効率的になったからか、魔力はまだ結構残っている。これなら明日の工事も問題無く行えるだろう。
近くで様子を見ていたジルダロース様に声を掛ける。
「これは実際に見ても信じられない程の光景ですね……。この力が我が国の平和の為に使われることを感謝しなければ……ともかく、お疲れ様でした。今日はあの天幕で休んで頂き、明日には内部の岩化や通気口の確認などを行って頂けるということで、宜しいでしょうか」
「ええ、その通りですわ。では、本日は失礼させて頂きますわ」
その後は、割り当てられたテントで休ませて貰った。テルフィには申し訳ないが、警護をお願いした。
次の日、テルフィや交通課の担当者と空動車に乗ってトンネル内をゆっくり進みながら、左手を地精霊と同化させて、地面の整備、壁の岩化や通気口、溝などの作成を行っていく。
今は光魔法で照らしながら進んでいるが、将来的には光魔法の照明を空動車に付けたいな……など考えつつ所々で休みながら作業を続け、昼頃にはカウンタール側入口に到着した。ライスベルト様と合流し、トンネル内の点検や、入口周辺の補修を行って、今回の作業は終了した。
その後は空動車でカウンタール侯爵邸まで移動し、侯爵に挨拶した後、トンネル工事の終了を報告した。お礼を言われたが……今日はカウンタール邸に泊まって、明日帰ることになった。まあ、貴族はそういう価値観だからね……。
その日の夕食では、アルカドール領の視察が話題の中心となったが……侯爵は何かを考えているようだった。
次の日、侯爵やライスベルト様に見送られ、王都に戻った。交通課長に工事終了を伝え、魔法大臣に終了報告を行った後、不在間に来ていた書類などを読んだりして、その日は終了した。
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※ 距離の単位
1キート = 約0.9km




