第270話 視察対応の成功を皆で祝った
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王太子殿下・妃殿下の視察対応は大成功に終わった。まあ、うちは基本的に真面目に領政を行っているから不正などやっていないし、産業振興を頑張っているから、その辺りをしっかり紹介できれば大丈夫だったんだよね……。
今後も各領の商会を通じた取引や、観光客を増やせるよう、色々アピール出来たと思うので良かったと思う。ネックはアルカドール領が北端の領で移動に時間が掛かるということだが、主要な領道もかなり整備しているし、プトラムの港を拡張しているから、対応は可能だと思う。
ちなみに最近は、港経由の領内移動のニーズに対応するため、主要都市間の定期便を増加したり、宿を増やしたりするのは勿論のこと、貴族用の貸し馬車の増加なども行っている。貴族が観光に来ると、トラブルも起こり易いけどお金を使ってくれるので潤うんだよね……。
ということで色々考えて案内したわけだが、空動車は非常に役に立った。何せ、通常なら領内のものをセイクル市に取り寄せて準備をしないといけなかったし、現物を見るわけではないからどうしても実感に乏しくなる。
私が操縦すれば、最速で時速200kmくらいまでは出せるから、離れた所でも気軽に行けたので、お父様からは褒められた。勿論、視察本番で見慣れない空動車がいきなり飛んで来る状況は避けないといけないから、予行として事前にお父様達を乗せてプトラムとドミナスには飛んで行ったし、念の為トンネルの入口にも行っていたので、本番では現地もとまどうことは無かったが、流石に予行の時は皆混乱していたね……予行をしておいて良かったよ。
それと、王太子妃殿下にはお菓子や美肌魔法も試して貰ったから、今後一層問い合わせが殺到するだろうということで、対応部署も行政舎には作ってある。前世でいう所の観光案内所のようになっているし、要望に合わせた所にも連絡出来るから、比較的スムーズに対応出来るだろう。
お菓子だと、特に好評だったのは歓迎の宴の際に出したアップルパイやいちごショートケーキ、昼食の時に出したアイスクリーム、それと最後の夜に出したレアチーズケーキかな。確かにどれも非常に美味しくて、レシピを売ることにはなったのだけれど、アルカドール領は牛乳も他とは一味違うから、こちらで食べたものが再現出来るかは分からない、とは言っておいた。
ちなみに美肌魔法は、アルカドール邸で働く地属性のメイドについては必須の魔法となり、お母様も毎日の様に使っていて、二児の母とは思えないほど、化粧が殆ど不要なレベルで肌が綺麗になっているし、その上余計なたるみや脂肪も減少しているらしい。そのうち美魔女扱いされないか心配なくらいだ。しかしその辺りは敢えて言わずに、プトラム周辺の特産的な扱いにして紹介したから、観光にも結び付く筈だ。まあ、塩をかなり使うから、現地生産出来る場所が望ましいのだけれど。
ドミナスは、水晶像で知名度が上がったが、それ以降も石英ガラスの注文も増加していて、街の規模を芸術家街、職人街に分けて拡張しているところらしい。それと、水晶像の品評会「精霊杯」を来年また行うが、かなり規模が大きくなるそうで、他領からも貴族家の問い合わせが結構来ていて、一大イベントになるかもしれない、という話だ。
市街地に隣接させて仮設家屋を作ると言っていたので、来年どのようになっているか楽しみだ。ただ、ドミナスは最近少々問題……とまでは行かないが、水晶関連が脚光を浴び過ぎて、鉄鉱山関連に人材が行かないらしい。折角の鉱山が寂れてしまうことが無いよう、何かいい案が無いか、考えてもいいかもね……。
王太子殿下達がワンスノーサ領へ向かった日の夜、ささやかながら慰労会が開かれた。アルカドール一家の他、行政官やセイクル市の執政官など主要な人達を呼んでいる。
「皆の力により、王太子殿下・妃殿下の視察対応を成功させることが出来た。感謝する」
お父様が簡単に挨拶し、慰労会が始まった。こういった会は無礼講で行うそうで、通常は皆がお父様などに挨拶に行くところを省略し、食事をしたり歓談したりしている。でないと、何のための慰労なのかという話になるからね……。酒も気楽に飲まれていて、ビールなどの他、精霊酒も出している。
お父様とコルドリップ先生が話していたので、混ざってみた。
「お父様、お疲れ様でした。コルドリップ行政官も、監査員対応など、御苦労様でした」
「ああ、お前も非常に良くやってくれた。それに、コルドリップ行政官が綿密に監査員対応を行ってくれたおかげで、王太子殿下への報告が順調に行われた。私が補足することも殆ど無かったからな」
「お褒め下さり有難うございます。しかし、今回の視察はお嬢様のおかげで非常に広範囲に移動が出来ましたからな。王太子殿下達も、驚かれていたのでは?」
「プトラムに向かう際には、驚きを隠せていなかったな。現地での視察の内容も相俟って、良い評価を得られたと思う。それに、王太子妃殿下も現地視察は大変喜ばれていたから、今後は更に忙しくなるだろうな」
「美肌魔法を使った時は、突然王太子妃殿下の印象が変わられたため、王太子殿下も困惑されていましたわね。それでも『少し目を離した間に、何故それほど美しくなったのだ』と、お褒めになる辺りは、素晴らしいと思いますわ」
「そうだな。誉めるべき所で誉める、上に立つ者はそうあるべきだ」
その他、幾つか話をして、その場を離れた。……お祖父様とお兄様が話しているので、混ざってみた。
「お祖父様、お兄様、お疲れ様でした」
「ああ、フィリス、今回も活躍したようじゃな。色々話を聞くが、儂も鼻が高いよ」
「今回の視察の内容は、フィリスが手掛けて来た事業が実を結んだものですからね」
「お褒め下さり有難うございます。ただ、お兄様が今手掛けている幾つかの事業も、監査員の報告では、今後発展するであろうと言われておりましたわ」
「着実に成果を上げておるのう。優秀な孫達がいるのは嬉しいものじゃ」
その後、お祖父様が近くにいた行政官を捕まえて、孫自慢をしようとしていたので逃げ出して……お母様が、行政官夫人達とお菓子をつまみながらお話をしていたので、混ざってみた。
「お母様、お疲れ様でした。皆様も、ご苦労様でした」
「ええ。フィリスも御苦労様。フィリス達のおかげで、アルカドール領には美味しい甘味があると、評判になりつつあるそうよ」
「フィリストリア様、私など、最近は王都周辺の知人達から、どのような甘味があるのかと色々尋ねられておりますのよ」
「アルカドール領の甘味は、精霊から得た知識を元として、独自の発展をしておりますからね。王都はサウスエッド風の甘味が多いのですが、王太子妃殿下にもご視察頂けましたから、今後はこちらの甘味も取り入れて頂けると思いますわ」
「牛以外にも色々紹介出来るのは良いですわね。知人達のうち、何人かはアルカドール領を観光したいと申しておりますわ。特に先日、エヴァンジェラ様のご様子をお話ししましたところ、手紙の上でも判るくらいに積極的になっておりましたわ」
どうやら、美肌魔法の件らしい。まあ、継続しないとここまで美しくはならないだろうけど、しっかり手入れを行えば、目の前のご婦人の様に、それなりに効果は保てるからね……。
なお、地味だが非常に忙しかったのが、セイクル市執政官、パティのお父さん達だ。訓練場に騎士隊が駐屯していたので、食料などを届けたりしていたそうだ。ちなみにこの際、お兄様が普及中のフリーズドライ魔法で処理した食べ物などを紹介したりして、好評を博したそうだ。
このような感じで、改めて視察対応の成功を皆で共有して、楽しい宴にさせて貰った。
次の日は、休暇の最終日ということで、まだアルカドール領にいた。りんご畑の生育状況など、確認したいことが幾つかあったことと、もうすぐ片栗粉の製造工場が出来るのだけれど、デンプンの材料にする品種があってもいいと思ったので、じゃがいもの品種改良をやっておこうと思い立ったのだ。
お兄様にも聞いてみたが、効率的に片栗粉が作れるのは有難いと言われたので、早速作ることにした。今回はとにかくデンプン多めで……とお願いしたら、結構比重がありそうなじゃがいもが出来た。デンプンが多いと重くなる筈なので、この方向で良いのだろう。
試しに煮てみると、すぐに煮崩れしたので、やはりデンプンが多い気はする。ということで、領行政舎に行って、片栗粉製造工場の担当者に、このじゃがいもを預けた。
その帰りにりんご畑に寄ってみたが、基本的には問題無さそう……というか、地精霊達が力を貸してくれているそうで、非常に順調に育っていた。地精霊達、有難う。
それと、甘味研究所に寄って、外国で面白い材料を見つけたので、実験してみて問題無ければ情報提供する、という話をしておいた。要はカカオ豆のことだ。いきなり持って来られてもびっくりするだろうしね……。
夕食後、転移門を使用して王都に戻った。まあ、近いうちにまた来ると思うけれど。
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