第268話 王太子夫妻の視察に備えた
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休日は久しぶりにのんびり鍛錬などを行いつつ過ごし、4月末の週となった。既に王太子殿下達の各領視察は始まっており、順調に進んでいるようだ。来週にはアルカドール領の視察になるので、その前後に休みを取って視察対応を手伝う予定だ。なので、こちらの業務は早めに確認させて貰っている。
田んぼの視察や光魔法指導などについても併せて進めているうちに、政府全体会議の日となった。魔法省については恒常業務の範囲内での報告であったが、他省では、先日調整があったトンネル工事についての話が出た。
今の所、5月下旬にカウンタール領とディクセント領の間のトンネル工事を行う予定だそうだ。この辺りは、私の業務予定を見て、ニストラム秘書官と建設省が話し合って決めたらしい。当然私だけでなく、該当地点の警備なども必要だから、その配置なども考慮されている。今回については領軍の一部が配置されるそうだ。
また、緊急ではあったが私がネクディクト国に赴いた件については、ネクディクト国に大きな貸しとなったようだが、当面は通商の活性化を図って行くだけのようだ。まあ、魔力循環不全症関連の行動は、カラートアミ教とも協力して行っているという前提があるし、恩着せがましく色々要求すると、他の国から反発される可能性が高い。今後も仲良くしましょう、程度にしておこうというのが、外務省の判断だ。
先日手紙を送った商会から連絡が届いた。カカオ豆の購入は可能のようだが、当面はそれほど多く購入することは出来ないようだ。まあ、こちらもチョコレートを作るための研究をしなければならないから、今大量に購入しても余らせてしまうだけだ。
とりあえずは今買えるだけ買わせて貰うという内容の手紙を出した。今後、チョコレートを作れるようになってから、領の方で作って貰う方向で進めるとして、大量にカカオ豆を仕入れるためには、この商会にも、チョコレートをサンプルで渡した方がいいかな……。
月末の休日となった。今日については、一旦領に顔を出して、視察対応の状況を確認することになっている。朝から転移門を使って領へ帰ったところ、やって来たメイド長のキーファナから、談話室の方に皆が集まっていると聞いたので、談話室に向かった。
「お父様、お母様、お兄様、ごきげんよう。只今帰りましたわ」
「おお、フィリス。元気そうだな。お前がそろそろ帰る頃だろうと思って、集まっていた所だ」
それから、お父様達から視察対応の状況を聞かせて貰った。ちなみにコルドリップ先生達、行政官も何人か来ていた。休日対応有難うございます……。
「では、私については、基本的に王太子殿下達を空動車で送迎すれば宜しいのですね」
「ああ。それと、林檎についても準備して貰いたい。あれから料理人達が林檎を使用した甘味を作れるよう努力していたからな。お前が作り置きしてくれていた林檎で、中々良い甘味が出来た」
「では本日、林檎畑の方で作らせて頂きますわ。王太子妃殿下が、我が領の甘味を非常に楽しみにされておりましたし。それと、王太子殿下が興味を持たれている事業ですが……」
「ああ。事前に連絡してくれて助かった。コルドリップ行政官が資料を纏めてくれたから対応も容易だ」
お父様はそう言って、コルドリップ先生が作ってくれた資料を見せてくれた。なるほど……領の現状はこのような感じなのか……。
その他、視察の細部時程などを話し合い、会議は終了してコルドリップ先生達は帰ったが、その他、家族だけで近況などについて話し合った。私については、帝国の第2皇子が大使として赴任した件や、ネクディクト国での話をしたところ、お母様から
「フィリスは目を離すと、やっぱり色々と騒動に巻き込まれるわね」
と言われてしまったが、流石にしょうがないと思う。
それと、お兄様だけでなくお父様も、あの鎧を着て鍛錬を行っているそうだ。ただ、お兄様は月に約1000魔力量が上昇するが、お父様は100くらいしか上昇しないそうだ。これは恐らく、年齢のためだろうということだった。そもそも、魔力量が上昇するのは通常であれば20才くらいまでなので、34才のお父様の魔力量が上がること自体が異常なのだけれど。
それから昼食を取った後、空動車でりんご畑まで行って、良さげな樹を使ってりんごの実を作った。お菓子用なので主に紅玉を作ったが、念の為王林も作った。それらを研究所まで届けて、あと、うちの料理人達にも渡しておいた。
そう言えば、以前建築に協力した温室が既に出来ていて、現在品種改良したいちごを作っているそうで、こちらも当日のお菓子に使うそうだ。何を作るかは、当日までの楽しみにしておこう……。
夕食を頂いている時に、ウェルスカレン家が視察の1週間くらい後にこちらを訪れるという話になった。観光という面も勿論あるが、そこで婚約の話を進めるようだ。ただ、その話になった時、お兄様の表情が、いつもの優しい微笑みから、乾いた笑いになっていたので、あまり乗り気ではないのかもしれないが……これについては私が口を挟める話ではないので、気にはしつつも何も出来ずに王都に戻った。
5月になった。今日は恒例の合同洗礼式があるため、朝から大聖堂の方に移動した。ただし、空動車で移動したところ、こちらでは慣れていないためか、とても驚かれた。まあ、今後はどんどん使って、慣らしていこう。
いつもの様に感覚共有を使って精霊視を持つ少女がいるかどうかを確認したところ、地属性の子が1名いた。魔法省に移動して精霊課長に伝え、今後の調整を行って貰った。
その日の午後は、魔法研究所で光魔法の習得について助言した。何名かは概ね習得したので、今度は火精霊と風精霊に姿を見せて貰って、研究員達に良く見て貰い、レーザーと防御壁のイメージを掴んで貰った。今回は成功しなかったが、やっているうちに慣れて来るだろう。
次の日は、田んぼの方に視察に行った。米の生育を地精霊に確認して貰ったが、問題無いようだ。しかしながら、今後は収穫に向けて、鳥対策を行っていかねばならない。そこで、風精霊に頼んで、雀などの鳥と意思疎通を図って貰った。
『この辺りに話が出来る鳥は……あ、いたいた』
風精霊はどこかに飛んで行ったが、暫くすると、一羽の雀と一緒に私の所に戻って来た。その雀は、私に怯えているようにも見えるが……良く見ると、その雀の瞳は、片方が緑色、もう片方が茶色っぽい色をしていた。
そう言えば、以前精霊女王様の所で聞いた話だが……転生については、次も人間の生を得るかどうかは判らないらしい。つまり、動物や鳥に転生する場合もあるそうだ。恐らく、目の前の雀は転生者? なのだろう。
人としての意識がどれだけあるかは判らないが、前世があったため、風精霊と意思の疎通が出来た、ということではないかと思う。まあ、直接では私と意思の疎通は図れないのだけれども。
鳥側の意見を確認したいのは、風精霊をどのように認識しているかだ。転生雀はともかく、通常の鳥は風精霊に相当畏れを抱いており、かかしの様なものでも作っておけば、近寄って来ないのではないかと推測しているが、それならば、鳥から見て風精霊はどのように見えているかが判れば作りやすいというわけだ。
「風精霊さん、その鳥に、貴方の姿がどう見えているか、聞いて下さいな」
『分かった。…………、…………、ふーん、そうなんだ。愛し子、僕らは鳥たちに、こんな感じで見えているそうだよ?』
風精霊に教えて貰ったところ、緑色の玉がふわふわ浮かんでいる様に見えるそうだ。早速その話をこちらの作業員達に伝え、風精霊かかし? の試作品を作って貰うことにした。
ということで、当座必要な業務を済ませて、私はアルカドール領の視察対応に参加するため、1週間ほど休みを取った。
王太子殿下と妃殿下がアルカドール領にいるのは正味3日だが、その2日前には文官達が領行政舎に来て、領政の全般を確認し、王太子殿下が到着した際に、概要を報告するのだ。ここで問題無ければ、特に気になった所の確認を行ったり、夜には宴などが催されることになる。
2日目と3日目は領主側が特に見て欲しい所を王太子夫妻に案内するのだ。ここで、領の特産などをアピールして気に入って貰えれば、次期国王陛下・王妃殿下がお気に召した品として売り出せるから、各領主は色々考慮して予定を組むらしい。うちには紹介したい物や事業は沢山あるが、抜かりなく案内できるよう計画しているのだ。
さて、転移門でアルカドール領に帰ろうか。
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