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第265話 隣国王子の魔力循環不全症治療 1

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

書類を確認したり、たまに田んぼに行ったり魔法研究所に顔を出したりしていたのだが、宰相補佐官の一人が執務室にやって来た。


「導師様、至急宰相閣下の所にお越し下さい」


「承知致しました。どのようなご用件でしょうか?」


「申し訳ございませんが、あちらでお話しさせて頂きます」


どうやら内密にしたい話の様だ。宰相補佐官に連れられて宰相府に移動し、宰相閣下の執務室に入った……が、宰相閣下、外務大臣の他に誰かいた。あれは確か……ネクディクト国の大使だったかな?


「宰相閣下、精霊導師フィリストリア・アルカドール、参りました」


「うむ、突然で申し訳ないが、こちらで話を聞いて貰いたい」


とりあえず談話用の席に移動し、着席したところ、ネクディクト国大使が挨拶し、話が始まった。


「精霊導師殿、是非我が国のために、力を貸して頂きたい!」


どうやら、ネクディクト国の第1王子……とは言っても王子は1人だけらしいが、魔力循環不全症に罹ったそうで、このままでは長くは生きられないという状態らしい。このため、魔力循環不全症を治すことが出来る私の力が必要ということで、緊急ではあるが、要請することとなったそうだ。


救える命は救いたい……とは思うものの、国家間の関係的にはどうなのだろう? 外務大臣の方をちらりと見ると


「我が国としても、友好国であるネクディクト国の要請であれば、対応する用意はあるが……貴国において、導師殿の安全は確保できるのか、まずはそこを確認させて頂きたい」


以前サザーメリド国……今はラルプシウス国だっけ? あの一件故の発言だろう……私とて、それなりに身の安全を確保する手段はあるし、今なら空動車も持っているから、いざとなれば逃げることも出来るが、それでも聞いておかねばならない事項だ。


「も、勿論です! 精霊導師殿に助力を要請しておきながら、我が国でもし何かが起これば、精霊が我が国から去ってしまいます! 我が国の威信を掛け、精霊導師殿の安全は確保させて頂きます」


あの国の顛末をしっかり理解しているようだ。まあ、少々怯えているようだが、嘘をついている感じも無いし、今回は私に対して何らかの画策が行われることはないような気がする。宰相閣下と外務大臣も同様に感じたのか、それ以降は要請に応じる方向で話が進んでいった。


王子の命に関わることなので、一刻も早く対処する必要があり、明日出発することになった。今回はカラートアミ教の転移門を使わせて貰い、我が国の大聖堂から、神域を経由してネクディクト国王都の大聖堂まで転移し、あちらの馬車で王城に移動する。行くのは私、魔法研究所のキュレーニル研究員、私の専属護衛のテルフィと護衛の近衛騎士10名だ。


今回は王子の健康に関する話であり、下手をすると王位継承権などの話に発展する可能性があるから、可能な限り内密に行動する。このため謁見や歓迎の宴なども無く、滞在の間は治療する時以外は部屋で待機することになった。まあ、部屋の中で稽古をやったり、感覚共有で外を見回ることも出来るし、暇になることは無いだろう。




会談が終了し、魔法省に戻ってから、業務調整をしたり、ネクディクト国について資料を確認したりした。ネクディクト国は我が国の西に隣接する国で、このユートリア大陸においては中南部に位置し、国土の広さは大陸中7番目で小さめだが、大陸内の主要な流通経路が集約しているとともに、大陸の東西両海に接しているため、その特性を生かして商業が盛んな国だ。


当然、我が国とネクディクト国との間の交易も多く、それに加えて近年我が国とサウスエッド国は同盟を結び、交流が盛んになっているが、二国の間にあるのがネクディクト国であるため、友好関係を保っておく必要があるのだ。




次の日になり、導師服を着て集合場所の大聖堂まで移動した。全員集合し、ネクディクト国大使の部下らしき人の案内で、ネクディクト国王都の大聖堂まで転移し、馬車で王城まで移動した。


王城到着後は、侍従らしき人の案内で離宮に移動した。ここで騎士達とは一旦別れ、私、キュレーニル研究員、テルフィの3人で、離宮の一室に移動した。どうやらここに王子がいるらしい。


部屋の前でテルフィが待機して、二人で部屋に入ると、ベッドに寝ている小さな男の子がいて、ベッドの近くには、恐らく国王と王妃、侍女と侍医らしき人がいた。私達は国王の前で跪き、挨拶をした。


「ネクディクト国王陛下、御尊顔賜り誠に恐悦至極でございます。私はロイドステア国で精霊導師に任じられております、フィリストリア・アルカドールと申します。此度は、微力ながら最善を尽くさせて頂きます」


「おお、精霊導師よ、聞いておるぞ、これまで魔力循環不全症患者を何十人も治療したそうだな。その力を、早速我が息子にも貸して欲しい」


「仰せのままに。では、御前失礼ながら施術を開始させて頂きます」


私達は立ち上がり、王子の所に移動した。ここで、侍医から現在の様子を聞きながら、キュレーニル研究員が計測用魔道具を王子に取り付けていった。王子は眠っていて、微熱があり、ここ暫くは殆ど目を覚ましていないらしい。


王子は3才で、2週間ほど前に原因不明の高熱となったが、必死の看護もあり、熱が下がり始めて一命はとりとめたものの、微熱が継続して意識も殆ど回復せず、改めて診察したところ、重度の魔力循環不全症の症状と一致したとのことだった。


そして、この侍医は、キュレーニル研究員が書いた論文を読んでいたらしく、また、私の魔力循環不全症に関する活動も聞いていたため、国王に私を招聘するよう提言したそうだ。


「導師様、王子殿下の計測結果ですが……やはり、重度の魔力循環不全症です。末端に殆ど魔力がありません。このままでは、下手をすると四肢が壊死しかねません」


魔力は血流にも影響を与えるため、重度の魔力循環不全症患者は、四肢が壊死することもあるのだ。当然そんなことになれば、幼い子供の体は耐えられないだろうし、奇跡的に生き残っても、王族や貴族としては、社会的に死んだも同然だ。


「直ちに施術を行います。引き続き計測をお願いします」


私は早速王子を仰向けにして、丹田の付近に右手を当て、いつものように魔力を同調させた。確かにこれは……循環させるのに気合が要りそうだ……いつもより慎重に、かつ繊細に魔力操作を行い、王子の体の隅々まで、徐々に魔力を循環させていく。


「末端の魔力循環が始まりました!」


皆の注目を浴びながら、引き続き施術を行っていく。自分の目でも王子の体をよく確認し、魔力に淀みがあれば、左手を当てて魔力を流し、同調を深めたりもした。30分くらい経った頃


「概ね健常者と同等になりました!」


とキュレーニル研究員からの報告があったので、ゆっくりと同調を切った。


「侍医殿、一先ず施術は終了ですわ。王子殿下の体調の確認をお願いします」


侍医はキュレーニル研究員が計測用魔道具を取り外してから、診察を行った。


「熱が下がりつつあります。また、血行が復調しつつあります。暫くご様子の確認が必要ですが、施術は成功したと考えて良いでしょう。王子殿下も、じきに目を覚まされると思われます」


「おお! 精霊導師よ、礼を言うぞ」


「国王陛下、お言葉を賜り恐悦至極でございます。ただし、まだ完治したわけではございません。暫くは1日1回、同様の施術を行い、王子殿下ご自身の力で、魔力循環を行えるまで回復して頂かねばなりません」


「成程……では、精霊導師は予定通り、この離宮に滞在して、息子の回復まで施術を行って貰おう」


「承知致しました」


それから私達は王子の部屋を出て、侍女に部屋まで案内された。基本的にここに住んで、1日1回施術を行う時だけ王子の部屋に行くことになる。キュレーニル研究員は別室、テルフィは私の部屋の隣にある控室、同行してきた近衛騎士達は、交代で私の部屋の前に立ち、警護を行うそうだ。今回は多分大丈夫だろうが、念の為精霊達にも、周辺の様子を見て貰うことにした。


今日施術した感じだと、1週間もあれば回復すると思うけど……まあとりあえずテルフィを呼んで、少し稽古に付き合って貰おうかな。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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