第260話 お兄様に贈った鎧は、想定以上の性能だった
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レイテアの婚姻式及び祝宴は恙なく終了し、私達は王都邸に戻った後、転移門で転移して、お父様達を領まで送った。いつもならそのまま帰るところだが、今回は何やら内密の話があるらしく、お祖父様も含めた5人が、談話室に集まった。
「皆、疲れている所悪いが、家としての方針を定めておきたい事項が出来たため、集まって貰った……とは言っても、フィリスは状況を把握していないだろうから、一度説明しておこう」
「……お父様、一体何の件なのでしょうか?」
「フィリス、心配する内容ではない。基本的には良い事なのだ。ただ……良すぎるのが問題なのだ」
そう言ってお父様はお兄様に目配せした。お兄様は、何故か談話室に置いてあった魔力量を測定する魔道具で、自身の魔力量を測り出した。
「現在の私の魔力量は約1万2千。魔法学校卒業から比べると、概ね1000ほど上昇しています」
へえ……そんなに上がったんだ……と、一瞬呑気に考えていたが、良く考えると、私みたいな体質だとその位上がるのはよくある事なのだが、お兄様はそうではない。一体何があった?
「気付いたか。通常、魔力量は素質や鍛錬の状況によって多少は異なるが、概ね体の成長に合わせて20才くらいまでは上昇し、40才頃から徐々に衰えて行く。カイについては10才から15才までの5年間で約3000上昇したのだ。ところが、この1か月で約1000も上昇している。異常な事態だと言わざるを得ない」
「それは……原因は判っているのでしょうか?」
「ああ、恐らくだが……原因は、お前の作った鎧だ」
「えっ! 私がお兄様に贈った鎧が原因なのですか?!」
お兄様の異変の原因が、私が作って贈った鎧だと言われて、罪悪感が沸き上がる。
「違うんだフィリス、君は何も悪くないし、むしろ私にとっては良い事なんだ! あれを着ると力がいつも以上に沸くし、魔力も上がったように感じたから、せっかくだしと思って毎日あれを着て鍛錬していたんだ。そして、魔力量がもの凄く上昇していたんだ。ただ、それだけなんだ!」
「話を戻す。そこで、鎧を着た状態でカイの魔力量を計測してみると、魔力量が丁度倍くらいに上がっていた。勿論着ていない状態では元に戻るのだが。つまり、あの鎧を着ると、一時的に魔力量が倍程度に増加し、そのため、身体強化的な効果や、魔力増幅に似た効果を得ることが出来る。そして、その状態で鍛錬すると、体がその状態に順応していくため、飛躍的に魔力量が増加していくのではないか、というのが私の推論だ」
「……そのような効果があるとは……思ってもおりませんでした……申し訳ございません」
「いや、先程も言ったが悪い事では無く、良すぎて困る事なのだ。あの鎧は軽く、防護性能も格段にある。その上魔力量を一時的に倍化し、更には鍛錬により元の魔力量も格段に向上するなど、最早国宝に指定される位の逸品だ。そのようなものをフィリスが作ることが出来ると知られた際の、周囲の反応が全く読めん」
「そうじゃ。魔力量の多さは貴族としての力の指標じゃからの。この話を知れば誰もがあの鎧を欲しがるじゃろうし、鎧を得た者へのあらゆる働き掛けが行われ、下手をすれば争いに発展するじゃろう」
確かに……そのような凄い性能を持つとは知らなかったが、良い話であるにもかかわらず、あの鎧の性能を秘密にしなければならないのは当然だ。カーボンナノチューブを使った複合素材の技術自体は商務省に教えたけど、今回は魔力に関係するものなので、恐らくは魔法銀との複合素材にしかない性質の筈だから、基本的に私にしか作れない。一応、火と地の複数属性者なら出来ないことは無いかもしれないけど……今の所、あの第二皇子しかいないが、彼があれを作ることは無いと思う。
しかし……実はレイテアへのプレゼント、悩んだけど鎧にしなくて良かったよ。結局魔法銀製の細身の剣(勿論、刃の入ったもの)にしたのだけれど、祝宴の際にも佩いてくれていたし、喜んでくれたので良かったけれど。
「確かにその通りですわね。恐ろしい事です」
「あと……あの鎧は、やはりフィリスにしか作れないものなのか?」
「あれは、火属性である炭と、地属性である魔法銀を、非常に微細な状態で混交させなければいけませんので、理論的には私か、火と地の複数属性者にしか作れない品ですが、製法を習得するのは精霊導師でないと非常に難しいと思いますわ。また、あの技術を応用した技術を教えてはおりますが、あの鎧を作れるものではございませんし、製法に辿り着くことも無い筈です」
「やはりそうか。お前も、休む間もなく鎧を作らされる生活は嫌だろう。故に、あの鎧を家族以外の者に渡したり、性能を知られる行いも禁止する。フィリス、良いか?」
「承知致しました」
「ところで父上、私については、あの鎧を着た上での鍛錬を続けても良いでしょうか」
「……情報漏洩を考えた場合は、止めた方が望ましいが……知らなければ荒唐無稽な話にしか聞こえないというのも事実。それに、力を得られると知りつつもそれを行わないなど、勿体ないではないか」
「では、引き続きあの鎧を着て、日々鍛錬を行わせて頂きます!」
「お兄様……あの鎧はいざという時の為にと作ったものですわよ? もし通常の鍛錬で使われるというのであれば、装飾などを除いた、鍛錬用の鎧をご用意致しますわ」
「フィリス……有難う!」
「むっ、フィリス、鍛錬用というのであれば、私の分も用意して貰いたいのだが?」
「お父様、承知致しましたわ」
「クリスったら……物凄く羨ましそうにカイの鎧を見ていたものね……」
「え、エヴァ、それは今言わないでくれ!」
お母様の言葉で、それまでの真剣な雰囲気は薄れ、笑いが部屋に満ちた。ということで鍛錬用の鎧を2つ作らないとね……。
ということで平日、通常業務となったが、各領巡回助言も終了したのでのんびりと書類業務を行い、その他田んぼの確認を行ったり、魔法研究所に行ったりした。魔法研究所では、光魔法の習得状況を確認したり、魔力増幅の研究を行っている人達に、魔力波について教えたりもした。空いた時間には二人の鍛錬用鎧を作っていた。まあ、来週中には出来るかな?
その他、今週は月末なので、政府全体会議が行われたのだが、私に関係する内容が2件、情報共有された。
1件目は、サザーメリド国の王朝が交代したそうだ。それに伴い「ラルプシウス」という国名になったらしい。現在国外に退避している大使が戻って、今後の国交回復などについて調整するそうだが……後で精霊女王様に、今後の対応を確認しておくか……。
2件目は、アブドーム国のことだ。現在、カイコの研究を畜産研究所と連携して行っているのだけれど、あちらは原産国だからか、我が国よりも順調に進んでおり、先日絹糸が国王陛下に献上されたらしい。私は巡回助言中だったので立ち会ってはいなかったが、陛下と王妃殿下は、絹糸の美しさに感嘆の声を上げていたそうだ。
そして、アブドーム国は有力商会を通じ、近隣各国に絹の情報を流しているらしい。現在、国を挙げて養蚕の体制を整えているそうで、絹糸の生産は勿論のこと、絹織物についても研究しているから、今後は絹のドレスなども流行する可能性が高い。そうなると、財政も回復して来るだろうし、人口流出も止まるかもしれないね……。
会議が終ったので、精霊女王様に念話で確認してみた。
『女王様、フィリストリアです。お時間宜しいでしょうか』
『話せ』
『実は、先日サザーメリド国の体制が変わりまして、新たにラルプシウスという国となったのですが、今後の対応について、お伺いしたいのです』
『ああ、あの国か。関わるのも面倒じゃし、此度はあれで終いじゃ。他の国も、精霊を蔑ろにするということが、どのような結果を引き起こすか、理解したじゃろう』
『あの一件では、私の事を気に掛けて下さり、有難うございました。用件は以上です』
『ふ、お主も壮健でな』
念話は終了した。ラルプシウス国とは、とりあえず普通に国交を結んでも良さそうだ。あと、何だかんだと、女王様は私のことを気に掛けてくれているようだし、感謝だ。
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