第257話 巡回助言終了、その他の研究も進めた
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休日は鍛錬や空動車の車体作成に費やした。さて、業務を進めて行こう。
今週については、残り2伯領の巡回助言を行う予定だ。その他、田んぼや空動車関連など、回るところは色々あるので、なかなか忙しい。
今日はオクトウェス領の巡回助言だ。ここはカルスト地形だったり、大洞窟があったりと、結構特性がある。大洞窟内の魔物調査も行う筈だから、通常の助言を手際よく行わないとね……。
オクトウェスについても、ディクセントほどではないにしろ、昨年は水不足だったらしい。なので、数か所ある貯水湖の水で凌いでいたそうで、そういった意味では従前からの備えが役に立ったということだが……。
まあ、今年はディクセントの方を源流とする川の水量がかなり多いので、水不足の心配はなさそうだが、そういった意味で、今回は川の堤防や貯水湖の堤などをしっかり確認する必要があるだろう。
……堤防に数か所亀裂があったので、よく調べておいて良かったよ……。
また、オクトウェスでは、地属性の精霊術士候補が1名見つかった。
最後に大洞窟内の調査を行ったが、今回は魔狼が11体いた。前回は5体だった筈だから……どうやら定期的な駆除がうまくいっていないらしい。松明などの明かりがあっても洞窟内は暗いから、魔物の脅威度が跳ね上がるし、深いところまで調査するのは難しくなるだろうからね……。
ということで、今後の対策の一つとして、光魔法に関して魔法研究所と連携して覚えて貰うよう情報提供させて貰った。今回については、昨年同様、私の方で駆除させて貰おう。昨年は無理だったが、感覚共有後の属性エネルギー操作力が上がったから、レーザーでも倒せる筈だ。
なので、今回は火精霊と感覚共有して大洞窟まで飛んで行き、現地で地精霊を捕まえて案内して貰い、魔物を見つけ次第レーザーで倒して行った。魔物を駆除した後、行政官にそのことを告げると、安心してくれた様だ。まあ、早く光魔法を覚えて、比較的安全に退治が出来るようになればいいね……。
後はヘキサディス領の巡回助言を行った。今回リゼルトアラは別の領の巡回助言に行っているため、ヘキサディス伯爵達は残念そうだったが、予算の関係でこうなっているから仕方がないのよね……。
巡回助言自体は問題無く終わったが、現在ヘキサディス領は、畜産研究所と協力して養蚕業の研究を行おうと検討しているようで、私に助言を求めて来た。こちらにも入って来ているアブドームからの移民に確認したところ、アブドームとも気候があまり変わらないそうだし、桑についても、現在桑畑を作っているそうだ。
私も畜産研究所内に幾つか桑畑を作ったが、桑は成長が早いからね……。時間が空いたので、近傍の桑畑に行って植えた桑を生長させると、行政官達は驚いたようだが、喜んでくれた。
シーラ村の田んぼの様子を見に行ったが、少し芽が出ていた。地精霊からも、元気に育っていると言われた。ただし、少し虫食いのように芽が出ていない箇所があったので作業員達に聞いてみた所、鳥が飛んできて播いた種を食べてしまったところがあるらしい。今後は鳥対策も必要だな……。
前世の鳥よけについては原理を知らないし、こちらの世界では鳥対策をどのようにしているのか、疑問に思ったので、農作業をやっている人達に聞いてみた。
「鳥対策ですか? 具体的なものはございませんが、風魔法を使うと、鳥達が暫くやって来ないという噂です。まあ、魔法士がいないので真偽は定かではありませんが」
ふーむ、鳥は風が弱点なのかな? 風精霊に聞いてみよう。
『とりさんたち、ぼくたちをこわがっていて、ちかづくとにげちゃうことがおおいよ』
なるほど。鳥を追い払いたいというイメージが風魔法という形で現れてはいるが、実はその際に、風精霊が鳥の所に現れていて、鳥は風精霊を怖がっているから、逃げ出すわけだ。まあ、風精霊に逆らって、鳥が空を飛べるわけがないから、本能的に恐れているのだろうか?
なら、風精霊を使って鳥よけを作るといいかもね。かかしとか凧とか、作ればいいのかな? 待てよ、そもそも鳥は風精霊の姿が見えるのか? まあ、風精霊と意思疎通が出来るということは、見えているのかもしれないが……聞いてみよう。
『ほとんどはきぶんしかわかんなくてはなせないけど、たまにはなしできるとりさんもいる』
見えてはいるようだが、知能の程度? で殆どは感情のみ、たまに意思疎通が出来るということか。では、風精霊がいると認識させれば鳥よけになるかもしれない。何か検討してみるか……。
今日は漸く長いワンボックス型の空動車の車体が出来たので、研究チームに渡しに行った。前回話したチーム長に、車体を見せた所
「おお! これが……確かに金属よりも軽く……そして、丈夫そうですな!」
触ったり軽く叩いたりしながら、驚いている。今回は私以外にもやり方次第で作れるように、カーボンナノチューブとグラファイトの複合素材を使用した。
というのは、魔法銀などとの複合素材を作るには、同時に2属性を操作しなければならないが、流石に原子レベルの操作を複数の人間で意思を合わせるのは、実際に見えないと不可能だろう。魔法という形で、ふわっとしたイメージを精霊に伝えて作るのであれば、単一属性で行うしかない。
炭素は火属性だから当然火属性一択で、鉄なども火属性で操作できるが、重たくなるから除外した結果、炭素のみで作れるこれになったのだ。
「金属より、少々燃え易いですが、火を近づけなければ問題無いと思いますわ」
「まあ、木などもそうですからな。どちらにしろ、これは黒いので、高貴な方々が使用できるよう、塗装して使用させて頂きます。それと……この素材は我々にも作れるものなのでしょうか?」
「魔法で作ることになりますが……不可能ではないと思いますわ」
事前に準備していた、炭素の構造や魔法のイメージなどの説明書きを、チーム長に渡した。
「ふむ……これは魔技士である我々は専門外ですが、商務省を通じて、然るべき所で研究して貰いましょう。もしこの素材を導師様以外の者でも作ることが出来れば、箱型空動車の実用化は十分可能ですぞ!」
ということで、カーボンナノチューブとグラファイトの複合素材の研究は商務省に任せて、ワンボックス型の空動車を実際に作ることになった。私については同じ車体をあと3つ用意する代わりに、完成したワンボックス型空動車の試験協力者の一人になった。要は使わせて貰えるわけだ。そのくらいの役得がないとね。
あと、商務省の方にも顔を出しておくことになったので、チーム長と一緒に担当部署である工業課に向かった。工業課長に話をすると
「木の様に軽く、金属よりも丈夫な素材……そのようなものが本当に作れるのでしょうか……?」
と、かなり疑問視していたので、試しに作っていた掌サイズの塊を出して見せた。
「何と! 確かに軽い! そして……堅いですな!」
触ったりテーブルにぶつけてみたりして、驚いていたが……研究に乗り気になってくれたようだ。
「導師様……ちなみにこれは、どのようにして作るのでしょうか?」
「こちらをご覧下さい。基本的には、石炭から作りますわ」
「……成程……このようなことが……うーむ……」
作り方の説明書きを工業課長に渡したところ、内容を読んで検討していたが、暫くすると、一人の職員を呼んだ。
「導師様、この者は『鍛冶技術の研究』の担当者の一人なのですが、材料や製造物の形状、構造への造詣が深く、燃料である石炭の知識もあり、火属性でもありますので、この素材を担当するのにうってつけです。そしてこの素材ですが、作り方を確立できれば、空動車だけではなく、様々な分野で使うことが可能です。今思い付いただけで……建築材や船舶の材料、風車の部品の材料、防具の素材などに使えるかもしれませんな」
「そうですか……では、宜しくお願いしますわ」
「は、はい! こ、このような光栄なことは、ございません!」
突然呼び出された職員は、緊張していたようだが、私が説明書きの補足説明をし出すと、色々質問して来てこちらが困る程だった。その際に、グラファイト部分を鉄などの火属性の物質に変えても何かしらの新しい素材が作れたり、細く成型することで強靭な繊維が作れたりするなどの可能性を伝えておいた。技術に関する情熱が高そうな人のようなので、任せても大丈夫だろう。実用化できるといいなあ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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