第025話 精霊女王に招かれた 1
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勉強や鍛錬、たまに茶会などをやっているうちに、夏になり、私は7才の誕生日を迎えた。先日の兄様の時とは違うので、通常通りの家族だけのパーティーがあり、自室に戻ってきたところ、1体の風精霊が待っていた。ただ、いつも気まぐれに寄って来る者とは違い、何というか……執事っぽい?
『フィリストリア様、我が主の命に従い、お招きに上がりました』
「申し訳ございませんが、主、とは、どなた様のことでしょうか?私、招待状を頂いておりませんの」
『これは失礼をいたしました。我が主、精霊女王様が、貴女様を館にお招きしております』
は?精霊女王?精霊の長と言われる方が、私に何用?……とりあえず落ち着いて聞いてみよう。
「精霊女王様が、私を……ですか。どのようなご用向きですの?」
『貴女様にお会いしたいと伺っておりますが、詳細は主に確認をお願いします』
「それでは、両親に伺いを立てますので、今宵はお引き取り下さいませ」
『それはなりませぬ。主は、今、貴方様とお話がしたいそうですので』
……流石女王様、我儘系なお方らしい。正直、抗える存在ではないのは理解できる。従うしかないか。
「せめて、書置きだけでもさせて下さいませ。家族に心配を掛けたくないのです」
『それくらいなら構いません。では早速お書き願います』
ということで「精霊女王様に招かれましたので、お話を伺って参ります。心配なさらないで下さい」と簡単に書置きした。執事風精霊が私の肩に乗ると、突然風景が変わった。あれ?私は自室にいた筈?!
『精霊界に転移いたしました。主の館はこちらです』
転移とか先に説明しろよ!……とりあえず落ち着こう。取り乱しても何も変わらない。既に得体の知れない精霊界という場所にいるわけだから……受け入れるしかない……女王様の館へ向かいますかね。
執事風精霊の後をついて行くと、暫くして、建物が見えた。火精霊が2体いるけど……あれは門番か何かだろうか?執事風精霊は何も言わずに入っていく。事前に通達が為されていたのだろうか、私も素通りだった。
建物内には、これまで感じたことのない気配が漂っていた。そのまま通路を歩いていると、扉の前に地精霊が2体いた。そしてその扉は他の扉とは違い、豪勢だった。扉の前で、執事風精霊が立ち止まった。ここに女王様がいるわけね……。
『入れ』
突然女性らしき声が頭に響いた。気を張っていたつもりだが、目が覚めたような驚きを受けた。全ての注意を向けざるを得ない、この存在感。時間の流れすら、判らなくなる感覚。
地精霊達が扉を開けた。扉の先に、女性の形をした何かがいた。執事風精霊が私を先導し、中に入った。
私は、かろうじて前に進み、跪いた。
『我は精霊の長。精霊女王と呼ばれておる。お主がフィリストリアか?』
「精霊女王様……お初にお目にかかります。フィリストリア・アルカドールでございます」
名乗るだけで精神が削られる。他の事を考える余力がない。
『話がしたい。面を上げよ』
顔を上げ、精霊女王の方を向く。美しい女性の外見だが、全体的に白い。瞳だけが黄金色に輝いている。
「女王様、私に何をお尋ねになりたいのでしょうか」
『フィリストリア、我はお主を見定めたいのだ。加護を与えるに相応しいかを、な』
「加護、と仰いますと、女王様の加護ということで、宜しいのでしょうか」
『その通り。知らぬか』
……えーっと……確か精霊女王の加護って……まさか?
「もしや、300年ほど前に、エスメターナ・カレンステア様が賜ったというものでしょうか」
『そうじゃ。人間では2人目になるの』
つまり、私を、あの、精霊導師に任命しようとしているのか?何でそんなことに!
「……理由を、お聞かせ願えますか」
『同胞がうるさくての。お主の魔力が高いため、気になって仕方がないそうじゃ。……説明せい』
女王様は、執事風精霊に説明役を振った。
『では、ものぐさな主に代わり、私が説明いたします……。フィリストリア様、誓約の樹のことはご存知でしょうか?』
誓約の樹……確か妖精族の国にある、世界最大の樹で、精霊術の根源とされる存在。
「はい。その昔、精霊女王様の誓約を宿した樹のことでございますね」
『その通りでございます。あの誓約により、人は精霊を直接使役をすることが許可されました。ただし、精霊を使役できるのは、基本的に、現在妖精族と呼ばれる種族のみです。他の種族は、精霊と意思疎通は出来ても、使役はできません。精々、願いを聞くことくらいです。ここまでは宜しいでしょうか』
「はい、理解しております」
『ここで、魔法という存在を思い出して下さい。魔法は、精霊を間接的に使役する方法と言って差し支えありません。ところが、精霊が見える者が魔法を使うと、直接的なのか間接的なのか、区別がつかなくなるのです。魔力の小さい存在であれば、精霊側も無視できるのですが、貴女様のように、魔力がとても大きい方が魔法を使うと、むしろ積極的に従ってしまうのです。このため、精霊達は、自分が誓約に反しているのでは、と、不安になってしまうのです。ここ数年、貴女様が魔法を使うたび、苦情がこちらに来ておりました』
私は精霊達を不安にさせていたそうだ。流石に言われないと判らんよそんなの。
「……お話は理解しました。それで……それが女王様の加護とどのような関係があるのでしょうか」
『精霊が特定の人を認め、力を貸すことを「加護」と申します。先ほど、精霊を直接使役できる存在は、基本的に妖精族だけ、と申しましたが、誓約の内容は「自然と平和を愛する者と共に生き、その力となる」でした。妖精族はその成り立ちから、女王様に「自然と平和を愛する」種族と認められているから、我々精霊を使役できるのですが、この際妖精族は、同属性の精霊から「加護」を受けているのです。そして貴女様が、自然と平和を愛する者であると女王様に認められたならば、精霊達は堂々と貴女様に従うことができるのです。女王様の加護は、その証であり、問題を円満に解決する手段となるのです』
「状況が理解できましたわ。ご説明有難うございました」
理解はできたが、確認したいことがある。気力を振り絞って私は尋ねた。
「ところで女王様。私の側に選択権はございませんの?」
『一応ある、が、お主次第よ』
「実は、私の所属する国では、女王様の加護を賜った者は「精霊導師」と呼ばれ、高い地位についてしまうのです。及ぼす影響が大きすぎるため、私の判断だけで済ませることは、本来望ましいことではないのです」
『なるほど、高い地位に伴う責任を考えねばな。良かろう、しばし時をやる。加護を望むなら、誓約を守るとお主の最も大切なものに誓え。望まぬなら、それまでか、の』
そう言うと、女王様はどこかへ転移した。その途端、私は威圧感から解放された。
「暫く別室で休みながら、加護の件について考えて下さい。考えがまとまりましたら、お呼び下さい」
執事風精霊はそう言って、私を別室に連れて行ってくれた。台と椅子があり、座るとメイドのような水精霊がやって来て、飲み物を出してくれた。地球では、冥界の食べ物を食べると帰れなくなるとかいう話があったので、念のため水精霊に聞いたが、そんな話はない、と言われたので飲んで落ち着いた。
さて、精霊女王の問いに、どのように答えたら良いだろうか。恐らくこの回答は、私の一生を左右するだろう。慎重に考えねば。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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(石は移動しました)




