第253話 お兄様の成人を祝う宴が行われた
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精霊術士集中鍛錬の方は精霊課長達に任せ、私については通常の業務を行っている。あまり一つの業務に関わり過ぎるのは、何かあった時のことを考えると、あまり宜しくないからね……。それに、お兄様の成人祝いなど、色々用事もあったこともある。そういえば、20日にはセレナが魔法学校に入学したんだよね。月末には一度茶会でも開いておこうかな。
それと、一つ警戒すべき情報が入って来た。どうやら、帝国の第2皇子が、3月の西公交代の時期に合わせて、大使としてロイドステアに赴任するらしい。当然異例の事なので、ステア政府としても色々対応しなければならないらしく、特に外務省が大騒ぎらしい。神託の件があるから、私に求婚したりすることなどは無いだろうけれど、何らかの働き掛けが行われる可能性はあるから、十分気を付けよう。
今日については、農務省関係の仕事……というか、米の栽培の件で、シーラ村に赴くことになった。田んぼの作業員も集まり、そろそろ田植えの準備をするからだ。馬車で片道1時間だから、移動にもそこまで手間がかからないし、いい場所を確保して貰ったよ……。
農業課の担当者達やテルフィと一緒にシーラ村に向かい、田んぼの場所まで移動した。暫くすると、誰かが呼んだのか、作業員らしき人達が集まって来たので、作業の話をするために、皆の前に立った。
「皆、集まったようですわね。私は精霊導師のフィリストリア・アルカドールです。これから皆に作って貰う『米』の作業について、大まかに説明しますわ」
まず全般的に、人工的に湿地帯を作って栽培するという話をして、田植えまでの作業について、春耕や施肥、用水路の使い方などについて説明を行った。この辺りは、資料を作っているので、農作業の責任者に渡しておこう。
「導師様、わざわざ説明して頂き、有難うございます。これから作業分担などについて、我々の中で打ち合わせをさせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか」
「では、頼みましたよ」
こういう所は、私がいちいち指示を出すと作業員達が動きづらい筈なので、責任者に任せて私は下がった。責任者は、私が渡した資料を見つつ、当面の分担を決めて、作業を始めた。暫くの間は色々試しながら作業を行うことになっているから、とりあえずは慣れていって欲しいものだ。
私は作業を見たり、農具について農業課の人に聞いたりした。聞いた限りでは、収穫までは現行の農具で問題無さそうだが、収穫以降は、脱穀から精米にかけて、現行の農具では手間がかかりそうだということが判ったので、農具も改良案を出すことにしよう。
いろいろ視察をさせて貰い、私達は王都に戻った。
今日はお兄様の誕生日、そして成人を祝う宴が行われるので、私は休みを取って朝から本邸に帰った。王都に行ってからそんなに経っていないので、お父様達には軽く挨拶だけして、昼から始まる宴の準備を始めた。ドレスも当然、準備してある。
昼となり、会場である大広間には、セイクル市の主要な役職の人達が集まった。基本的には成人のみ参加だが、お兄様と一緒に魔法学校を卒業した貴族子女も参加している。私は今の所殆ど接点は無いが、今後は話していくこともあるだろうから、後で話の輪には入っておこうかな。とりあえずはお祖父様の所に行っておこう……。
暫くすると、お父様とお母様、そしてお兄様が入場した。3人は壇上に上がり
「皆、今日は息子の成人を祝うため集まってくれて礼を言う。我が息子、カイダリードは本日成人を迎えた。今後は本格的に領政を手伝わせる故、皆も宜しく頼む」
「皆、私の為に集まってくれて有難う。今後は次期領主として、皆の力を借りることとなる。まだ若輩ではあるが、いずれは父の様に立派な領主となることをここに誓おう」
お父様とお兄様がそう言うと、会場は拍手で満ち溢れた。その後は、お父様の開始の発声で、宴が始まった。参加者達は皆、お兄様の所にお祝いの言葉を伝えた後、お祖父様と私の所にも挨拶にやって来た。まあ、私も微妙な立場だからね……。
その後は皆、会場の各所に散らばり、会話や食事を始めた。ただ、今日の主役であるお兄様は、同年代の貴族子女に囲まれていた。まあ、今後はあの人達がお兄様の部下やその奥さんになって行くのだし、良く知っておいた方がいいよね……と思っていたら、お兄様が私の方を見て、近付いて来た。
「フィリス、一曲踊って貰えないか?」
どうやらダンスのお誘いらしい。確かに、水面下で婚約の調整をしている現状だと、私が最初に踊るのが一番問題無いからね。では、久しぶりにお相手致しましょう。
ダンス用の演奏が始まったので、それに合わせて私達はダンスを始めた。最近は踊っていなかったがお兄様は以前よりダンスが上手になっている。背も私より頭半分くらい高いから丁度いい。それに、お兄様も楽しく踊っているようなので、私としても楽しく踊らせて貰った。
曲が終り、私達のダンスは終了したが、今日の主役であるお兄様は、その後も他のご令嬢にダンスに誘われて踊っていた。まあ、そういう立場だしね。
ちなみに私は、お父様やお祖父様とダンスを踊った後は、同年代の人達の話の輪に入って話をしていた。話を聞く限り、お兄様は魔法学校での成績も優秀だし、真面目に領政にも取り組み始めているので、皆に大変期待されているらしい。ただし、婚約者の話がまだ水面下なので、大半の人達に聞かれたのに何も言えなかったのが困り物だった。
盛況の中、宴が終了し、皆が帰って行った。そして暫く休んだ後、家族だけの誕生会が始まる。
「では、カイの15才の誕生日、そして、成人を祝おう」
お父様の言葉で、家族がそれぞれお兄様にお祝いを言う。お兄様は
「父上、母上、祖父君、フィリス、有難うございます」
と、宴の時より嬉しそうに、お礼を言ってくれた。それから夕食が始まった。今日はアルカドール牛ステーキや、お兄様が好きなコロッケなどが出て来ているが、私もショートケーキをデザートにリクエストした。前世の様な、年齢分のろうそくを立てたバースデーケーキではないけど、雰囲気だけでも、ね。
夕食の後は、プレゼントを渡すイベントだ。とは言っても今回は、渡す物は伝統的に決まっている。お父様の合図で、家令のハルワナードが、一式を台車に乗せて食堂に入って来た。
「カイ、これらは私達からの贈り物だ。剣は私からだ」
「槍は、儂からじゃ」
「私からは、上衣を贈らせて貰うわ」
「お兄様、私は鎧を贈らせて頂きますわ」
お兄様は席を立ち、台車の近くに行って、剣を手に取って、言った。
「……このような立派なものを……私は、これらの装備を持つに相応しい者となります!」
どうやら、非常に喜んでくれたようだ。その後も剣や槍を持ってみたり、サーコートを羽織ってみたりして、喜んでいたのだが、鎧を取ったところで、お兄様が私に尋ねて来た。
「フィリス? この鎧……物凄く軽いのだけれど……」
まあ、他の鎧と比べたら全然重さが違うから、不思議に思うよね……説明しておこう。
「お兄様、それは金属より軽く丈夫な素材で作った鎧ですわ。精霊導師としての力を使って作りましたのよ。通常の鎧より丈夫に出来ていることは確認済みですので、ご安心下さい」
「ということは、これはフィリス自身が作ってくれたものなのかい?」
「ええ。ただ、組み立て自体は職人にお任せ致しましたが」
「……この鎧、今着させて貰って宜しいでしょうか?」
「構わんよ。他の装備も着けて来ておくれ」
お父様の許可が出たので、お兄様が一旦席を離れた。私達はお兄様が戻って来るのを待った。
暫くすると、お兄様が鎧とサーコートを着て、剣を佩いて槍を持って食堂に入って来た。
「うむ、良く似合っている」
「まあ、立派な騎士になったわね」
「凛々しいのう」
「素敵ですわ、お兄様」
等々、皆がお兄様を誉めていたが、お兄様は照れている……わけではなく、何だか興奮しているようだ。
「皆様、改めまして、このような素晴らしい品々を有難うございます。特にフィリス、何だかこの鎧、着ると力が湧いてくるんだ。まるで身体強化した時みたいだよ」
何やら言い回しに不穏なものを感じないではなかったが、喜んでくれるなら、作った甲斐があったよ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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