第250話 休暇を終え、王都に戻った
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今日は朝から領行政舎に来ている。去年も行ったが、アルカドール領の巡回助言を行うのだ。とは言っても、もう要領は行政官達も知っているし、アルカドール領の状況は概ね把握しているから、最新の状況、例えば開墾した耕作地などの説明を受けた後は、特に準備に時間を割く事も無く、風精霊を呼び出し、各地に確認に行かせた。
逐次帰って来る風精霊達の話を聞き、魔力を渡して帰って貰うことを続け、昼過ぎには終了した。
今回は、開墾した耕作地の状態がまだ安定しておらず、肥料などによる調整が必要であるということ以外は大きな問題は無く、行政官達も安心したようであった。
領行政舎で昼食を頂いた後、りんごの苗木を渡すことになった。既にりんご畑予定地は決定しているそうで、コルドリップ先生達と一緒にセイクル市の郊外にある予定地に向かった。
「ここが林檎畑の予定地ですか。……確かに、幾らか林檎の木が植樹されているようですわね」
「はい、お嬢様。概ね標示された所に、近傍の森林から移してきた林檎の木を逐次植えております」
「では、その並びに合わせて苗木も植えた方が宜しいですわね」
「その通りです。こちらの標示以降に、苗木を植えて頂けないでしょうか」
「承りましたわ」
私は右手を地精霊、左手を水精霊と同化させ、標示位置に少し穴を作って異空間から苗木を出し、根元を埋めてから、苗木が大地となじむよう、地属性のエネルギーと水属性のエネルギーを調整した。地精霊に苗木の状態を確認して貰いつつ、どんどん植えて行った。
準備した苗木を全て植え終わったので、少し休憩しつつ、コルドリップ先生に今後の予定を確認した。
「今年は苗木を育てつつ、移動させてきた樹への接木を行います。来年以降、様子を見ながら収穫していくこととなるでしょう」
「私については、王太子殿下の視察に合わせてこちらに帰って来ますので、その際に一度様子を見させて下さい。現在は、地精霊からも良好な状態だと言われておりますが、生育に伴う変化事項もあるでしょうから」
「それは有難いことです。是非お願いします」
特に、今後りんごを栽培するのであれば、枝の剪定や花摘みなど、間引き作業への習熟が必要になる筈だが、地精霊から状態を確認しつつ行えば、問題無いだろうからね……。
今日は王都に戻る日だ。年末年始休暇は結構長かった筈だが、終わってみると少なく感じるなぁ……。と考えていても仕方が無いので、支度をして、皆が集合するのを待った。
今回、帰って来た時と状況が違うのは、お兄様が領に残ることと、セレナとレブネアが王都に行くことだ。ちなみに去年はそういった移動メンバーの変化以外にも、外見が少し変わってしまった人がいたが……今年は大丈夫かな……?
待っている間に、家族に挨拶をしていった。とはいっても、お父様やお兄様については、王都に用事があるそうなので、何度か王都に来るそうだが。
お父様については、まだ調整途中なので何とも言えないそうだが、大臣に就任する可能性もあるらしい。ステア政府の大臣については、任期が明確に定められていないので、何となく頃合いを見て替わっていくらしいのだが、今回宰相閣下や財務大臣が替わることで、他の大臣も何人かが「自分もそろそろ……」と言い出しているらしい。
勿論、適任者は限られるので、そういった話が出て来た場合は、必ず全ての適任者に下調整がやって来る。お父様は、これまでは領主の仕事が忙しいから……と断っていたらしいが、今後はお兄様にも仕事をやって貰うことになるから、そういった意味ではいい機会なのかもしれない。
お兄様は、魔力増幅について魔法研究所や魔法学校の職員に教えるという話があって、既に手紙で時期を調整しているということだ。こちらについては、領と王都の間は私が送迎することになるから、そのうち連絡してくれるだろう。
何名かはこちらに到着し、談話室で待機しているようなので、話しに行こう。
クロティナ、デラーナ、レミファ、ラステナ、レブネアは既に来ていて、新メンバーのレブネアを中心に話が盛り上がっていたようだ。ただし、私が談話室に入ると、皆話をやめて一斉に礼をした。
……まあ、立場が違うから仕方ないけど、疎外感を覚えるのは否めない。それはそれとして、皆の休みの間の生活を聞いてみた。
「うちはいつも通り、騒がしい家庭でしたが、それでも、気兼ねなく過ごせましたので良かったです」
「ええ。やはり家族との生活が一番ですわね。クロティナ、今後も精霊術士としての生活は気苦労があると思いますが、励んで下さいな」
「え、えーっと、なんかやっぱりみんなわーっとかぎゃーっとか言ってたり、父がお祝いでお酒を飲んで暴れて、母が怒ってたりしてました」
「デラーナ、楽しそうなご家族ですわね……今後とも健勝に過ごせるよう、励んで下さいな」
「……う、うちは、いつも通り、でしたけれど……、弟が生まれました」
「レミファ、弟さんが生まれたのね、おめでとう。離れて暮らすのは残念かもしれませんが、弟さんが自慢できるようなお姉さんになれる様、励んで下さいな」
「うちは、帰るなり『王都はどうだった?』とか皆に色々聞かれてうんざりですよ……まあ、家族に特に変わりは無かったから良かったんですが」
「家族に変わりが無いのが一番の便りですわね。ラステナ、皆、離れて暮らしている貴女を心配しているだけなのですから、今後も体に気を付けつつ、励んで下さいな」
「実は両親や知り合いからは、王都では色々怖いことがあると言われたのですが、先輩達から話を聞いて、少し安心しています」
「レブネア、色々不安に思う所はあるでしょうが、誰しも初めての経験はあるものですし、仲間もおりますので、不安に思ったり、困ったことがあればすぐに相談して下さいな」
色々話しているうちに、ルカ、セレナ、パティもやって来たので、挨拶を受けた。……今年はどうやら、お菓子の食べ過ぎで太るようなことは無かったらしい。良かった良かった。
皆が揃ったということで、出発するとクラリアに告げ、玄関口に移動した。荷物が多かった者は私が収納させて貰ったが……結構職場向けに土産を買っているのよね……。私も気軽にお菓子を渡せたりするならいいんだけど……貴族社会はなかなかうまく行かないんだよね……。
玄関口では、家族以下、屋敷の者が集まって、私を見送ってくれた。まあ、私の場合、直近ではお兄様の成人祝いの際には一旦帰って来るし、夏の視察の際には休暇を取って帰る予定なので、悲壮感などはかけらもなかったが。
王都に転移すると、やはり初めて王都にやって来たセレナとレブネアの反応が新鮮だったが、今後慣れて行って貰うとして、王都のそれぞれの住居に移動して貰った。セレナはルカ同様、王都に祖父母がいるので、そちらで生活すると聞いている。二人は迎えに来た馬車に乗って、移動していった。
精霊術士達は、うちの馬車に乗って移動して貰った。精霊術士候補者の連絡は王都にも届いており、年明けには宿舎の準備をしておく旨の手紙が精霊課長から来ていたので、レブネアは宿舎の説明を受けて、そのまま入居できる筈だ。
そういえば、料理人についても今回、数人配置換えをしている。アルカドールで開発されている新作の料理をこちらでも食べられるようにする、ということと、王都の料理の研究を目的として、昨年から始めているが、それに加えて私が何となく思い出した前世の料理のレシピなどもたまに教えているから、料理人達にとっては良い刺激となっているようだ。
なお、テルフィが今後は私の専属護衛として勤務することになるが、明日から1週間、レイテアが一緒に勤務して要領を申し送ることになっており、その後単独で勤務していくことになるわけだ。レイテアがそばにいてくれるのが、あと1週間しか無いと思うと非常に寂しいが、今後も王都に住むから会おうと思えばいつでも会えるからね……。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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