第249話 家族でプトラムに視察に行った
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新年になった。いつも通り朝は皆で新年を祝って食事を取る。年明けそばも出て来ているね。最近は、そばを打つ職人も生まれたそうで、うちについては、そちらからそばを仕入れているそうだ。うむ、コシがあって喉越しが面白い。今の所は太打ちのそばだけのようだけど、そのうち細打ちのそばも出て来るかな?
お父様とお母様は、昼から市の主要な人達との簡単な挨拶会に出かけ、私は昨年と同様、風精霊と感覚共有して、市内を見物に行った。昨年と違うのは、じゃがバターや回転焼きに似たお菓子が出ていたことだ。
じゃがバターは元々じゃがいも料理のサンプルで出していたから、さもありなんという所だけど、回転焼きの方は、アイデア出しのみだったので、実用化するだけでなく屋台で出せるようにするとは、やはり努力しているのだろうな……と思った。
2日から7日は、プトラム分領の視察だ。移動に往復4日、視察自体は2日で計6日だ。空動車が使えれば、片道数時間で到着出来るのだが、流石に4人乗りの空動車で護衛もつけずに移動するのは問題があるので、結局通常の馬車での移動になったのだ。
ワンボックス型の最大8人程度が乗車可能な空動車なら、こういった時にも使えるのだろうけれどね……。ついでだから10人くらい乗れそうなワンボックスのワゴン型を作って貰ってもいいかもしれないね……。
3日の夕方、分領太守邸に到着し、太守一家の歓迎を受けた。もうリーズが寝込むことは無く、しっかり剣術の鍛錬を積んでいるようだ。レイテアも、こちらにいる間は護衛の仕事に差し障りが無ければ、リーズの指導を行うことになった。
今回の私の目的は、視察というより港の拡張工事だ。港から少し出た所にある岩を取り除いて航路を安全にしたり、埠頭を更に整備して、船の発着数を増やすらしい。その辺りは現地で確認させて貰おう。
また、お兄様は、フリーズドライ魔法で魚を加工し、魚の流通量を更に増やす試みに助力するそうだ。なお、当初は漁船の大型化と言われたので、魚が取りつくされてしまうのでは、と危惧していたのだが、そもそもこの世界の船は帆船で小回りも効かないし、そこまで根こそぎ獲れるようなものでもないようだ。
しかしながら、夕食の場でアプトリウム子爵が言うには、漁師は体力が衰える40代に引退してしまうことも多いそうで、最近は塩やカマボコなどを作っているので働き口が増加しているけれども、更に働き口を増やしたいそうだ。そういう話なら、養殖が出来ればいいかもしれないね。
視察1日目だ。お父様とお母様は、分領行政舎に行き、現在の各種産業の状態を確認するとともに、塩製造工場や観光施設に顔を出すそうだ。そういえば昨日、お母様の肌の件で、アプトリウム子爵夫人の食いつきが凄かったな……。確かプトラムの山側にも温泉があった筈だし、高級宿で美肌魔法を取り扱えば、目玉になる可能性は高い。まあ、そちらはお父様達に任せよう。
お兄様と私は港に向かい、それぞれの目的地に案内された。私については、今日の所は港湾及び埠頭の更なる整備だ。汚れてもいいように、導師服でやって来ている。
「お嬢様、宜しくお願いします。最近は砂糖だけでなく、塩についても船で運ぶことが増えまして、それ自体は喜ばしい事ですが、船便がこれ以上増加すると、安全上問題となりますので、拡張したいのです」
「承りましたわ。では、こちらの絵図のこの部分から始めましょう」
私は右手を水精霊、左手を地精霊と同化させ、工事を進めて行った。私がやるのは大まかに形を作る所までで、仕上げは現地の人達で行うことになっている。まあ、力のいる工事は私が行う方が良いが、仕上げは実際に使う人達がやった方がいいだろうからね……。
昼食の時間となったので、休憩に入った。港湾管理事務所のような所で食事を頂いたのだが、丁度お兄様もやって来たので、一緒に食事をした。
お兄様の方は、午前中はフリーズドライ魔法や熱湯魔法を希望者に教えていたそうだ。ただ、熱湯魔法はともかく、フリーズドライ魔法は結構繊細な魔法なので、習得には時間がかかるだろうという話だった。
午後については、午前中の続きを行った。日没までには指定された場所の工事を終了し、お兄様と一緒に分領太守邸に戻った。
その日の夕食は、美肌魔法を試したらしい子爵夫人が
「早速地魔法士に魔法を習得させ、主要な宿に配置すれば、我が分領の観光業は更に発展しますわ!」
と、太鼓判を押していた。ちなみに子爵夫人も地属性なので、是非習得したいと言っていた。これなら残り塩が厄介者の様に扱われることも無くなるだろう。
視察2日目、今日は港湾から船で少し沖に出て、船の航行に邪魔になる岩や岩礁を取り除く工事だ。正直この工事は、ほぼ私にしか出来ないようで、工事担当者も半信半疑のようだった。海の上には地精霊は基本的にいないが、私の背後にいる地精霊は離れる様子は無い。なら、海の上で同化するのに問題はなさそうだ。
3か所の工事対象のうち、一番港に近い岩の近くまで船でやって来た。私は右手と両足を水精霊と、左手を地精霊と同化させて岩に近づき、とりあえず岩を魔力波で破壊して周囲を均した。30分程で終了し、船に戻ると、工事担当者が平伏していた。
「何と素晴らしい御業なのか! 有難や……」
と呟いていたので、もしかするとこの人も神使関連の話を聞いていたのかもしれないな……。
気を取り直して、あと2つの工事も終了し、昼過ぎに港に戻って来た。私の仕事は終わりなので、休憩した後は、お兄様の所に行ってみることにした。
現場に行ったところ、どうやら主要な魚をフリーズドライ魔法で加工し、どう使えるかを試していたようだ。近くに行ってみよう。
「ああ、フィリス、そちらは終わったようだね」
「ええ、お兄様。こちらにお邪魔させて頂いて宜しいかしら」
「勿論。丁度フィリスにも意見を聞きたかったんだよ」
見ると、サケやタラらしき魚にフリーズドライ魔法を使ったようだ。
「魚を冷凍乾燥魔法で加工してみたのだけれど、あまり取り扱いが容易ではないようでね……」
確か前世では、切り身にした状態でフリーズドライ加工して、鍋物などに使っていたと思うが……こちらは干物のイメージが強いのか、開きにしたものをフリーズドライ加工したようだ。
「これは干物ではございませんから、いっそ切り身にしたものを加工してみては? 恐らく鍋の具材に宜しいかと思いますわ」
「成程……一度やってみようか」
タラを切り身にして貰い、お兄様がフリーズドライ魔法をかけた後、切り身を使って鍋を作ってみた。
「おお、これならば保存食として販売も可能ではありませんか?」
どうやら好評のようだ。良かったよ。
「その他、焼いたりした後に冷凍乾燥魔法を使うと、現地において調理の手間が少なくなるかもしれませんわ」
「……その考えはありませんでした……」
まあ、フリーズドライは調理済みの物でも可能だからね……。
「御曹司様、お嬢様、魚の更なる活用にご助力頂き、誠に有難うございました」
「プトラムの更なる発展に寄与するのは、領主家の者として当然だが……礼は受け取らせて貰うよ」
「今後の益々の発展をお祈り致しますわ」
私達は港で働く人達に見送られ、分領太守邸に戻った。
その夜は、セレナやリーズが部屋にやって来て色々話した。セレナが魔法学校に入学することもあり、王都関連の話で盛り上がった。
次の日、太守一家に見送られ、セイクル市に向けて出発した。次の日の夕方、自宅に帰り着いたが……やっぱり、空動車を使いたいなぁ……。
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