第247話 美肌魔法を開発してしまった
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暫くは特にやるべき業務は無いので、稽古をしたり、お兄様の鎧のパーツを作ったり、りんごの苗木を増やしたり、りんごのパウンドケーキなどを作ったりしていたのだが、夕食の時に、お父様から視察同行の話があった。
「カイ、フィリス、年明けにプトラム分領に視察に行く話があるのだが、同行しないか?」
どうやら、港の更なる拡張を検討しているという話だし、お兄様が開発したフリーズドライ魔法を使って、魚の干物などを作れないか検討していきたいそうで、私やお兄様にも是非来て貰いたいらしい。あと、何故かお母様が剣呑な視線をお父様に投げかけていたのだが
「も、勿論エヴァにも同行して貰わないとな! 領主夫人として、あちらのご婦人達と交流して貰わねばならんからな」
とお父様が言ったので、お母様は我が意を得たりといった感じで微笑んでいた。そういえば、去年視察に行った時は、お母様は別件の用事があったため、一緒には行けなかったんだよね……ということは、それを踏まえたリベンジマッチ的な視察でもあるということかもしれないな。
折角プトラム分領にまた行かせて貰うので、養殖などについて今必要なのか、確認させて貰おう。それと、こちらでは残り塩と言われている、精塩を作る際に残る塩化マグネシウムなど、所謂にがりについては、今のところは豆腐くらいしか使い道が無いけれど、豆腐はそこまで食べられてはいないのよね……。
まあ、大豆はそのままの形で食べてもいいわけだから、豆腐は嗜好品に近い扱いだからね……。ということで、プトラムで扱いに困っている、残り塩の使い方を他に検討してみようかな。
化学的な用途なら色々使い道があるけれど、今の世の中には早すぎるから、別の用途か……。そうだ、美容に関することに使ってみようか?
この国だと、香油などを肌に刷り込んで、お湯に漬けた布を当てたりすることで肌の手入れを行っているけれど、前世では、サウナや温泉で塩を肌に塗って汗をかくことでツルツルの肌になったから、あれをやってみよう。プトラムは今、観光地としても売り出している所だし、丁度いいかもしれない。
あと、どうせなら魔法を使ってより効果的に美肌効果を得られないだろうか? 先日の王妃殿下の茶会の際にも、そのような話があったし、実現できるなら、話題になることは確実だ。
とりあえず、持っていた残り塩を異空間から取り出し、背後霊になっている地精霊に、残り塩を使って人間の肌を滑らかに出来るか聞いてみたら、出来ると言われたので、予想通り魔法で美肌効果を得ることは可能の様なので、試してみよう。
とは言っても、私はこの類の実験対象には少々不適格だし、ここは申し訳ないがメイドに頼んで実験台になって貰おう。私はインターホン魔道具で、私付のメイドである、クラリアを呼んだ。
「お嬢様、どうなされましたか?」
「実は魔法を試させて貰いたいのよ。成功すれば、肌を美しく出来ると思うのだけれど」
「……お嬢様、今、何と?」
「え、ええ。美肌効果のある魔法を試そうと、貴女を呼んだのだけれど」
「そ、そのような魔法が存在するのですか? 是非お願いします!」
……正直引くくらいに前のめりに同意されてしまったが、まあいいや。
まずは手の甲だけで試してみよう。クラリアの左手の甲に残り塩を乗せて薄く広げる。
「お嬢様、これは塩でしょうか?」
「ええ、残り塩と呼ばれているものよ。今から魔法を試してみるわ」
イメージは……塩が体に一体になるような感じかな……?
「な、何か手の甲が温かくなっています! 少し気持ちいいです」
この時点で一旦塩を払い、右手の甲と比べてみたが、あまり変わらなかった。もう少し何かをやってみようか。精霊にも意見を聞いてみよう。
「地精霊さん、この子の肌を綺麗にしたいのだけれど、貴方ならどのようにするのかしら?」
『そうだね……それをくっつけたり、塵を吸わせたり、震えさせるかな?』
なるほど……察するところ、塩と肌を一体化させたり、老廃物を吸着させたり、細かい振動を与えてみる、といった所か。よし、イメージは出来たので、再度やってみよう。
「クラリア、もう一度試させて下さいな」
「どうぞ!」
……やはりやる気に満ちているので引いてしまうのだが、まあ、気を取り直してやってみよう。まずは一体化させるようなイメージで……
「先程と同じような感じですね……」
次はここから、老廃物の吸着だ。肌の表面にある老廃物を吸着……吸着……。
「あっ! 何か少し刺激がします!」
「大丈夫? 痛くないかしら?」
「それほど痛くないので、大丈夫です!」
大丈夫そうなので、次に行ってみよう……次は、振動を加えつつ、より深く一体化、老廃物の吸着を進めて……。
「今度は何だか震えています! 大丈夫だと思います!」
暫く続けた後、魔法を解除した。さて、結果はどうかな……。
「まあ! 私の左手の甲が、こんなに艶々になっています!」
どうやら、成功したようだ。原理的には大丈夫だろうとは思っていたけれど、他人の体で実験したから、失敗するとまずいからね……成功して良かったよ。
「クラリア、協力してくれて有難う。これで残り塩の活用方法も……どうしました?」
「お、お嬢様! この魔法を、私に教えて頂けませんか?!」
「え、ええ……でも、この魔法は地魔法ですわよ? 火属性の貴女では使うことは出来ませんわ」
「はっ、そ、そうなのですか? ……残念です……。で、では、地属性の女中達に教えては頂けませんでしょうか?」
「それは構いませんわ。あと、プトラムの方でも活用して貰おうと思っているのよ。あちらでは、この残り塩の使い道が無くて、困っているようですから」
「それは勿体ない! まずは私どもで使わせて頂きますわ!」
まあ、そうなるよね……とりあえず、明日地属性のメイド達にこの魔法を教えるという話をして、クラリアには下がって貰った。
次の日の朝食時、この邸の女主人であるお母様に、地属性のメイド達に魔法を教えるので、談話室に集まって貰うという話をして、了解して貰ったのだけれど……教える準備をして談話室に行くと、お母様もいた。予定がある筈だったから呼ばなかったのだけれど、いいのかな?
「フィリス、女中に聞きましたが、美肌効果のある魔法を教えるという話ではありませんか。私も参加して良いでしょう?」
「お、お母様は、魔法を受ける側ですから、必ずしも、使える必要はございませんが……」
「知識として、知っておく必要があるのです。いいですね?」
有無を言わさぬ圧力に少々動揺したが、確かに知っておいて問題のあるものではない。
「……承知致しましたわ。では、始めさせて頂きます」
やはり美容の話は、女性を魔物に変えてしまうのだろうか……。
まずは、即興で描いた肌の断面のイラストを皆に見せ、塩の成分などを説明し、魔法の仕組みについて理解して貰った。その後、まずは私が魔法を使って見せ、次にメイド達同士でペアを組んでやって貰った。ちなみに、私が魔法を使った相手はお母様だが、お母様の手がいつも以上に美しくなったのを見たメイド達は、やる気が漲っていた。
「皆、暫くはこの魔法に習熟することを優先なさい。私が許します」
「奥様、有難うございます!」
……幸い、何名かはすぐにコツを掴み、他の者に教え始めたので、業務に大きな穴が開くことはないだろう。当座は私が持っている残り塩を放出しておけば、後はプトラムから仕入れてくれるだろうし、結果としては良かったのかな。ただ、軽い気持ちで美容に関する内容を試すのは、もうやめておこう……。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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