第245話 お兄様の成人祝いの製作に取り掛かった
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昼過ぎに甘味研究所から帰って来たが、お菓子を食べ過ぎたので昼食はパスして、早速りんごの品種改良に取り掛かった。りんごのイメージは結構強く残っていたので、試行錯誤はしたものの、夕方までにはいい感じの品種が出来た。後はこれらの苗をたくさん作っておこう。
夕食が終わり、少々時間が空いたので、11月頃から少しずつ研究していたことを形にしていこう。内容は、お兄様の成人祝いに関することだ。
我が家は代々の嫡男の成人祝いに、その代の領主とその家族達が、剣や槍などの武器と鎧を贈ることを伝統としているらしい。お兄様は次期侯爵として、いずれは国境警備の任を陛下から仰せ付かることになるから、さもありなんというところなのだが……。
武器については使えるものを贈るらしいが、鎧については非常に重い全身鎧を贈っているらしく、正直な所、戦場で装着するとそれだけで疲れる代物であるため、お父様やお祖父様の話では、貰った時以外は置物と化しているそうだ。
そういえばトロスの役の時もお父様はその鎧を着ていなかったな……。まあ、あの時は急いで移動する必要があったし、そもそもああいった鎧は基本的に野戦の際に馬上で戦う時のもののようだけれど、籠城戦だったから、馬は後方に移動させていたしね……。
お父様達の鎧は、基本的に鉄製で、更に魔法銀でコーティングしていて、とても重いという話だから、身体強化を使っても好んで装着して動きたいとは思えないのだろうけど……一生物なのに勿体ないし、トロスの役の際も、お父様は結構矢で攻撃を受けていた。
あの時は、護衛達が楯で矢を防いでくれていたから助かったのだけれども、そういったことを考えると、基本的には鎧を着用出来るに越したことはないわけで、ならば自作してみようと思い立ったのだ。
なので、精霊概論の講義の頃にお父様とお母様に会った際、色々調整したのだが、私が材料を準備して鎧の各パーツを作り、職人に組み立てて貰えば、それなりに軽量化出来るだろうという構想のもと、お父様が剣を、お祖父様が槍を、私が鎧を、お母様が鎧の上に羽織るコートを贈ろうという話にさせて貰った。
ただし、当初の構想は、全てを魔法銀で作れば比較的軽いし丈夫だから……というものだったのだが、別件で空動車の車体の作成を考えていたこともあり、炭素繊維を利用してみようかと考えたのだ。
炭素繊維と言っても色々あるが、感覚的に出来そうだと思ったのが、基本的に炭素だけで作れるカーボンナノチューブだ。丈夫だし、熱などにも強い筈だ。で、金属との複合材料を作ると、地球での話を思い出した限りだと、軽くて堅い物質になるのではないかと思ったのだが……実験してみて駄目だったら、総魔法銀製のものにしよう。
ということで、最初は本当にカーボンナノチューブを作れるのか、実験を繰り返していったのだが、精霊導師としての力が上がっていたからだと思うが、案外簡単に作ることが出来た。
まずは石炭を用意する。石炭は火属性なので、手を火精霊と同化して操作することにより、不純物を除いて純粋な炭素の塊にできるのだ。地球での作成要領は全く無視できるので、あちらの化学者が見ていたら文句を付けたくなるようなやり方だな……。この際、少し火属性のエネルギーを加えると、操作を行い易くなるようだ。
その後は、炭素原子をグラフェンシートにして巻くようなイメージを強く持って操作すると、肉眼では分からないが、恐らくはカーボンナノチューブらしき物質が出来た、というわけだ。カーボンナノチューブは単層と複層があるし、中に何かを入れることで様々な特性が出るけれど、今回は金属との複合素材のために作っているので、とりあえずは様々な金属との複合素材を作ってみた。
複合素材として作れたのが鉄、銅、魔法銀。一応金も作ってみたが、重いから鎧には向かないだろう。ただし、複合素材を作るにあたり、鉄は元々火属性も含んでいるから操作が容易だったのだが、銅と魔法銀は、地属性のみだったので、火と地の精霊と同化して操作した。これが結構難しかったのでかなり時間を使ったが、何とか複合素材っぽいものを作ることが出来た。
ちなみに、カーボンナノチューブの芯にもそれぞれの金属を入れ込むと、なじみ易いらしい。芯に金属を入れて複合素材にすると、ナイフなどで傷をつけようとしてもなかなか傷が付かないから、恐らくはこの方が良い筈だろうと結論付けた。
……といった経緯があって先日何とか完成したこれらの3つの複合素材を板状にして、明日にでも、堅さなどを護衛達に確かめて貰おうと思い、準備した。
早朝鍛錬の際、護衛達に頼んで槌や剣で攻撃して貰ったところ……
「お嬢様、この変な板は、何で出来ているのでしょうか? どれもまともに刃が入りませんぜ」
「この赤い奴が一番壊しやすいですかね……黒い奴と白い奴は、ちょっと難しいですね」
ということで、今度は斧で攻撃して貰うと、流石に両方とも傷がついた。そこから更に攻撃すると、鉄との複合素材が先に壊れた。魔法銀との複合素材は、かなりの耐久性を持つようだ。
次は熱を加えた後の耐久性を確かめてみようか。別のサンプルを出し、薪に火をつけて暫く炙った後に、攻撃して貰う。
「おっ、結構攻撃が効くようになりましたね。でも、この白い奴は、まだ結構堅いですね……」
ふむ……魔法銀との複合素材は、熱にもそれなりに強いようだ。その他、元々の金属も試しに殴って貰ったりしたが、すぐに変形したので、やはり複合素材の方が堅いことが判った。これらの結果から判断すると、多少作るのに手間がかかるが、魔法銀との複合素材で、鎧を作ることに決めた。
まあ、元々の素材も軽くて堅いから、当初の目的である「できるだけ軽い鎧」という観点からも丁度良いし、見栄えも魔法銀とあまり変わらないから、問題無いだろう。
鎧の各パーツについては、お父様の鎧を参考にさせて貰うことになっているので、朝食後、お父様の部屋に行って借りて来た。ただし、各パーツを作るにあたり、分解しなければならないので、大丈夫か聞いたところ
「ああ、手入れするために定期的に分解しているから、特に問題ない」
とのことだった。手入れ自体は使用人の一人が担当しているから、その者に分解して貰うように言われたので、自室に持ち帰って、その使用人に分解して貰った。今回は異空間に収納して部屋に運んだから楽だったが、確かにこれは重そうだな……。一度各パーツの重さを調べてみたが、全部合わせると約40ログ、前世の単位で考えると、体感だが40kgくらいはある。これは確かに、着て動き続けるのは難しいわ……。
幸い、それぞれのパーツはそこまで複雑な構造ではないようなので、空き時間を使って作成すれば、年内には揃えられるだろう。ちなみに今日は、午後にはお母様主催の茶会があり、そちらに参加しなければならないから、鎧の件はここまでにして、準備をしないといけないな……。
ということで、クラリア達に茶会の為の準備をして貰った。ドレスについては先日の王妃殿下の茶会の際にも使用したものを着た。まあ、通常は同じドレスを短期間で使いまわすのは宜しくないが、茶会参加者のうち、王妃殿下の茶会に参加した人がいないから大丈夫だ。
昨年も同趣旨の茶会を行っているが、今回は魔法学校に通っているルカもいる。その辺りの話題も準備しつつ、やはり気合の入っているお母様と一緒に、茶会の会場に入場した。
「まあ、フィリストリア様は、昨年よりも更にお美しくなられたようですわね」
「フィリストリア様のご活躍は、アルカドール領でも聞こえておりますわ。領の者として、誠に誇らしいですわ」
等々、ご婦人方からは言われたが、まあその辺りは軽く流して、王都の流行や、私以外のアルカドール領出身者の活躍なども話をしたので、結構盛り上がったが、時間となったので令嬢達の席に移動した。
「皆様、ごきげんよう。先日お会いした方もおりますが、お久しぶりの方々もおりますわね。色々お話を聞かせて下さいな」
簡単に挨拶をして、セレナやネリス、リーズの近況などを中心に話をした。
セレナは来年から魔法学校に入学するから、その準備を行っているそうだ。特に氷魔法は、かなり上達したらしい。
ネリスは光魔法の習得自体は問題無かったらしいが、それ以外にも、恐らく私に関する活動をしていたようだが……何度か発言をごまかしていたのが気になった。まあ、敵意があるわけではないからそっとしておこう。
あと、リーズの体についてはもう問題が無いようで、ほぼ健常者と同様の生活が出来るようになったそうだ。本当に良かったよ。なので、騎士学校に入学すべく、剣術の鍛錬を頑張っているということだった。その様子を嬉々として話すリーズを見て、セレナは苦笑していたが、健康になったこと自体が有難いので、そのお転婆ぶりには目をつぶっているような感じだった。
こちらでも、王都の状況などを話しているうちに時間となったので、ルカとネリスには、光魔法について教えることがあるので、こちらに来て貰うよう約束をしてから、茶会を終了した。
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