第244話 領は順調に発展しているようだ
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今日は久しぶりにリカルド達、本邸の護衛達と一緒に早朝の稽古を行った。当然、レイテアやテルフィも一緒だ。テルフィは、数日間本邸の護衛達に勤務要領を教えて貰うことになっており、稽古も白熱した。テルフィについては任せて問題無いだろう。
朝食後、領行政舎に向かった。精霊酒製造工場を更に増加する話や、ステア政府の作物研究所と連携して、新しい作物を栽培しようとしているという話があり、私にも協力して欲しいとお父様に言われたのだ。とりあえずはコルドリップ先生の所に顔を出してみよう。
「コルドリップ行政官、壮健のようで何よりですわ」
「おお、お嬢様、わざわざお越し下さるとは。こちらから参ろうと準備をしておったところです」
「まあ、それは光栄ですわね。父から話を伺いましたので、細部を調整させて下さいな」
コルドリップ先生は、会議室に関係者を集め、私の力が必要な仕事について説明してくれた。
「では、私は2か所の精霊酒製造工場の新設、それと、新しい果物の品種改良について助力させて頂きましょう」
「有難うございます! お嬢様が作物研究所で品種改良された、麦酒に適した大麦をこちらでも使えることになりまして、それならば更に酒造業を発展させようということで、従来の麦酒製造工場に加え、精霊酒製造工場についても増設することになったのです。また、同様に作物研究所と調整しまして、甘味に使用できそうな果物を幾つか栽培することになったのですが、併せて、アルカドール領ならではの果物も、研究してみようと考えた次第です」
「では、寒冷地向けの果物、ということでしょうか?」
「はい、その通りです。我が領やカウンタール領などに自生しており、今のところは成っている実を干して保存食などにしたり、最近では砂糖漬けにするなどしているのですが……現物はこちらになります」
そう言って、干した実や、図鑑のような本のページを開いて見せてくれた。これは……りんごかな? 確かに、りんごならいいかもしれないな。前世でも、りんごは青森産が有名だったからね……。
「苺なども夏季には栽培可能と思われますが、領としての特性を出すには弱いと思いまして、こちらの……林檎を品種改良してみてはどうかと考えたのですが……如何でしょうか?」
「素晴らしい考えだと思いますわ! やってみましょう。ただ……当初は既存の木に接木をして育てた方が宜しいですわね。ある程度の数を用意した方が、効果的かもしれませんわ」
「確かにその通りですな。では、近隣から林檎の木を集めて畑を作り、お嬢様が品種改良した苗木を接穂と致しましょう。丁度花が咲く時期に近づいておりますので、判別も容易ですから」
「では、そちらはお任せ致しますわ。それと、品種改良の方向性としては、甘味用と、通常の食用ということで宜しいかしら?」
「はい。甘味用は、酸味を強くして頂ければ……と。また、そのまま食せるものがあっても良いと思いますので、こちらは甘みが強い方が良いと考えております」
「承りましたわ。では、区別が容易なように、甘味用の皮は赤色、常食用の皮は黄色にでも致しましょうか」
とりあえず、紅玉と王林のイメージで考えてみた。やっぱり最初は扱い易いようにしないといけないからね……。将来的には更に品種改良が進んで、関係無くなると思うけど。
「成程、そうして頂けると、取り扱いが容易になります」
「そういえば、苺の栽培ですが……温室を作っては如何かしら? 冬は判りませんが、春から秋まで栽培が可能になると思いますわ」
「それも検討しているのですが……積雪に耐え得る丈夫な板硝子の入手が困難でして」
「最近ドミナス分領では、水晶像を作成する技術を利用して、丈夫な板硝子を作ることが可能になった筈ですから、そちらを検討されては如何かしら?」
「おお、それが本当でしたら、検討の価値は大いにありますな!」
「何処かに土地を見繕って頂けるのでしたら、私が試作致しましょう」
「それは助かります! 場所は直ちに検討致しますので、宜しくお願いします」
私がやる仕事についてはこのような感じで決まった。精霊酒製造工場の貯蔵庫については、3日後及び4日後に、建設場所へ向かうことになった。今回は空動車があるので、担当者も一緒に乗せて移動出来る。セイクル市からは片道で小一時間もあれば到着出来るので、日帰りで終わる仕事だ。
りんごの品種改良は、私が王都に戻るまでに苗木を準備する、ということになったので、差し迫った仕事ではないが、ぼちぼちやっていこう。温室は、セイクル市付近に土地を見繕い、決定次第連絡が来ることになった。
その他、領内の産業振興の状況について、詳しい所を聞いてみた。
まず、砂糖生産は絶好調で、かなりの利益を出しているそうだ。うちの領内での生産も順調だが、周辺の領にも品種改良した甜菜を栽培する許可を出し、それを安価で買い取る仕組みを作ったため、今後の需要増にも対応できるようだ。
工場も主要な町には作ったそうで、甜菜を収穫した後に集中して砂糖を製造することで、従業員を確保しているらしい。まあ、まだ年中砂糖を作れるだけの収穫量は無いからね……。
精霊酒については、まだ寝かせているものが殆どだが、私が熟成を早めたものが少量出荷されているらしい。こちらはまだ軌道に乗るのは先になりそうだが、王都で私がたまに配っているので、口コミで広がっているという話だ。
中には、製造法を調べに来る人達もいて、結構困っているようだが……教えてもいいかもしれないけど、初期費用が莫大になる上、そもそもうちも教えられるほどノウハウがあるわけではないからね……。
お菓子については、研究所の人達が頑張っていて、かなり種類も増え、味も良くなっているそうだ。また、領内だけでなく、塩や砂糖を取り扱う商会などを通じて、王都とはまた違ったお菓子があることが広まりつつあるそうで、レシピの販売も好調らしい。
ただし、レシピは基本的に高額なので、裕福な貴族や大商会などしか買うことは出来ないけれども。そのうち王太子妃殿下が何か言ってくるかもね……。
その他、新しい料理についても発展しつつあり、セイクル市内で海鮮料理が食べられるようになったり、そばやうどんについても肉や玉子、山菜などの具が入ったりしているそうだ。
それと、じゃがいもについては大規模に生産を進めているそうだ。というのは、片栗粉を工場で製造したり、酒を造ろうという試みが始まったからだ。勿論、男爵芋や奥方芋が受け入れられたというのも大きいだろう。そんな状況だから、多くの町村では開墾が盛んだし、交通網の整備も進められているそうだ。
従来からある北東街道はもとより、私が作ったトンネルから、プラブ村などを通ってセイクル市まで続く道、セイクル市と両分領までの道などは、今年かなり整備したらしい。おかげでビースレクナから塩の買い付けに来る隊商にも好評のようだ。
ドミナス分領は、水晶関係で発展しているようだ。水晶に色を付けることに成功した職人が何人かいるらしいし、重力魔法を取り入れることで、従来は作れなかった像を作ろうと研究しているそうだ。精霊杯は隔年で行うらしいが、次の精霊杯に向けて更なる技術の向上を図っているそうだから、楽しみだ。あと、今後はガラス関係の発注も増えるかもね。
プトラム分領は、塩の製造が好調で、領内やビースレクナ領だけでなく、様々な領から商会が買い付けに来ているようだ。特に精塩の売れ行きが良く、セイクル市の多くの料理店では、使う塩を精塩に変えたおかげで味が良くなったそうで、市民も喜んでいるそうだ。そういえば、家の食事も前より美味しくなったような……? 精塩のおかげかどうかは判らないけれども。
海鮮料理やカマボコなども好調なので、今後は漁船を大型化して、沖の方まで漁に行くことを検討しているらしいが……ただ獲るだけではなく、養殖や稚魚の放流などについても検討するよう言っておいた。
総じて、順調に発展しているようだが、今後はお兄様も領政の仕事に携わるからね……。熱湯魔法やフリーズドライの研究を見ても分かるように、お兄様は領民の生活を更に良くしようとしている。私もお父様やお兄様の助けになれるよう、アイデアを出したり力を使ったりしないとね。
領行政舎で色々話を聞いた後、甘味研究所に顔を出したところ、やはり以前の様に歓迎され、新作のお菓子などを頂いた。重曹をうまく使ってふんわりしたお菓子を作っていたり、生クリームやカスタードクリームだけでなく、バタークリームやマロンクリームなども研究されていたので、内心驚いたが、前世の記憶を元に色々助言をしておいた。
また、寒天を使ったお菓子の中では、手軽に食べられることもあって羊羹が人気だという話を聞いたので、栗を使ったり、ホットケーキのような生地を皮にしてはさむなどのアイデアも出しておいた。
それと、今後はお菓子用に品種改良した果物を栽培していくという話をしたところ、大変喜ばれた。こんなに喜んでくれるのなら、りんごの品種改良も、頑張らないとね。
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