第242話 後任の専属護衛を採用した
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今日から年末年始休暇だ。しかしながら、午前中は私に用事があるため、出発は昼前になる。一緒に帰るお兄様、ルカやパティ以下の精霊術士5名についても、そのように調整している。
というのは、朝からレイテアの後任者候補がやって来るのだ。ただし、相手は知り合いなので、一応の挨拶と現在の実力を確認する程度で、基本的には内定している状態だ。
今回、レイテアの後任者として選ばれたのは、テルフィ・ドロウズだ。選定条件は、今年騎士学校を卒業する女子学生の中で、魔力波を習得しており、性格に大きな問題が無く、私の専属護衛を希望する者、というものだ。
私もレイテアも、魔力波を習得することにより、攻撃手段を得るだけではなく、魔力や視線への感覚も鋭敏になることから、条件の一つに挙げたのだが、今年の卒業生の中で習得出来たのが、テルフィだけだったのだ。学生全体だと、他にも数名いるらしいが……。
で、テルフィに専属護衛を希望するかを確認したところ、希望するということだったので、内定となったわけだ。何人かいたなら、試合などをやって貰おうかと思っていたのだけれど……。まあ、テルフィは今回、女子学生ではトップ、卒業生全体でも上位の成績で卒業するそうだから、能力的には問題無いし、性格も真面目だし、実家が国軍との取引も多い商会だから身元も保証されている。
今回の帰省で、本邸の方の護衛達に基本的な勤務要領を教えて貰いつつ、たまにレイテアと一緒に護衛に就いたりした後、王都に戻って来て本格的に専属護衛になるという流れだ。
私は稽古用の服を着て、応接室でテルフィが来るのを待った。暫くすると、レイテアに連れられて、テルフィがやって来て、私に礼をした。
「テルフィ、久しぶりですわね。私の専属護衛を希望してくれて嬉しく思いますわ」
「導師様、お久しぶりです! こちらこそ、先生の後任で導師様の護衛をやらせて頂けるなど、光栄極まりないことであります! 未熟ではございますが、精一杯務めさせて頂きます!」
「そう緊張しなくても宜しいですわ。貴女が私とレイテアの設定した条件を満たしてくれなかったら、困っていたのは私の方でしたわ。有難う」
「テルフィ、貴女の様な優秀な卒業生が後任になってくれるのなら、私も憂いが減るというものだ」
「レイテア、そこは憂いを無くして頂きたいですわね」
「お嬢様、私はそれだけ貴女の護衛であることを誇りに思っているのですよ」
「私も、貴女が護衛となってくれたことを誇らしく思いますわ。でも、長い人生の道のりでは、どこかで違う道を歩む時が来るものです。それを厭うていては、何を為すことも出来ませんわ」
「そうですね……。では、テルフィの実力を、お嬢様にも見て頂きましょう」
気を取り直し、私達は庭に出た。庭には、魔力波の試し撃ちをするために、岩を作って用意してある。
「テルフィ、ますはその岩に向かって魔力波を撃って貰おう」
「承知致しました」
テルフィは岩の前で腰を据えて構え、岩に右手を当てて、魔力波を撃つ姿勢を取った。暫くすると
「はっ!!」
と、テルフィが気合と共に右手から魔力を撃ち出した。岩は破壊され、テルフィが魔力波を習得していることが確認出来た。
「魔力波を放ったことを確認致しました。貴女のたゆまぬ努力に敬意を表しますわ」
「あ、有難うございます!」
「ところで、最近感覚が鋭くなったなどの変化はございましたか?」
「は、はい、朧気ですが、魔力を感じることが出来るようになりました。体操を行っている時など、魔力循環が良好になっていることが判り、更に効果的に行えているようになりました」
「ふふ、魔力を感じることが出来るのであれば、今後はそれを剣術にも生かせると思いますわ」
「成程……今後はそういった点を意識しながら、鍛錬を行っていきます」
「では、次は私と対戦を行おう。勝ち負け自体は関係ないが、対応力を見させて貰おう」
「は、はい! 宜しくお願いします!」
レイテアとテルフィが木剣を使い、対戦を始めた。レイテアは最初テルフィに攻めさせていたが、ある程度攻撃を見た所で反撃に転じた。本気で攻めてはいないものの、鋭い攻撃に対してテルフィは何とか対応出来ている。ただし、受け流しは甘いかな。
「よし、ここまでは良い感じだ。ではこれが受けられるかな? たあっ!」
「はっ! ふっ、え? ぐっ、そ、そんな……」
レイテアは思考加速を使い、テルフィの対応力を超える速度で攻め込んで、喉元に剣を突き付けた。
「通常、身体強化中に複雑な動きを行おうとすると、思考が付いていけずに身体の制御を失ってしまう。故に、身体強化を持続させるのではなく、通常の状態と適宜切り替えながら戦う、それがこれまでの剣術の常識だった。だが、魔力波を習得した上で更に鍛錬すると、身体強化中においても制御を失わず、このような高速かつ複雑な動きが可能となる。お嬢様や私は、この現象を『思考加速』と呼んでいる。テルフィも、今後の鍛錬で習得出来るだろう」
「は、はい! 今後も励ませて頂きます!」
「では最後に、私とも対戦して頂けるかしら? ただし、テルフィは木剣を使用し、私は徒手で行いますわ」
「え?! ……いくら導師様とは言え、それは少々お戯れが過ぎるのでは?」
「テルフィ、心配せずとも本気で木剣を振るってもお嬢様にはそうそう当たらない。寧ろ、間合いが剣と全く違う分、対応に困る筈だ。まあ、何事も経験だと思ってやってみればいい」
「は、はい……では、宜しくお願いします」
「先程も話しましたが、余裕があれば魔力を感じながら戦うと宜しいですわ。では、お願いします」
こうして、徒手の状態で、木剣を持ったテルフィとの対戦が始まった。合気道には太刀取りという項があるから、私については特に違和感はないが、以前レイテアに聞いた限りでは、この世界ではかなり特殊な対戦方式の様だ。
前世では、剣道三倍段という言葉があったが、要は間合いと攻撃力の差なのだ。攻撃は当たらなければ関係無いから、後はどのように間合いを制するか、ということになる。徒手対武器戦の基本は、相手に先に手を出させて間合いに入ることだ。テルフィは戸惑っているのか様子を見ているが、私は太刀取りの要領を応用して、攻めていこう。
「では、これから動いていきますわ」
私はそう言って、剣の間合いの境界を意識しつつ、テルフィの死界に入るように動いていく。その中で気勢を発したりしながら、間合いに少しずつ寄って行くと、テルフィも反応し始めた。ここで、一瞬間合いに入ってからすぐ下がると、テルフィは反応が遅れながらも、最小の動きで私を突いて来た。
「そこ!」
一瞬の反応の遅れによって出来た隙を利用し、突きを避けつつ間合いを詰めた私は、テルフィの柄付近を取って突きの力を回転力に変え、そのままテルフィを地面に置くように投げた。
「わっ? かふっ!」
「このような感じですわね」
私はテルフィの肩をタップして、対戦の終わりを宣言した。それを見てレイテアは、私達に近付いて来た。
「テルフィ、お嬢様の動きが分かったか?」
「途中までは分かったのですが……私が突きを放ってからの動きは、全く分かりませんでした」
「まあそうだろう。お嬢様は意識の隙を把握して、間合いに入っているからな」
「……はい?」
「私が少し間合いに入った時、貴女は反応が遅れたことから焦りを生じ、突きに意識を向け過ぎたのですわ。ですから、その意識を躱して間合いに踏み込み、貴女の体勢を崩して投げたのですわ」
「申し訳ありません。私には高度過ぎて、理解が追い付いてきません」
「今は分からずとも、魔力に対する感覚を養っていくうちに、意識への感覚も高まっていくでしょうから、そのうち理解出来るようになると思いますわ」
「……で、お嬢様、テルフィはどうでしょうか?」
「現時点でこれなら、十分ですわ。こう言っては何ですが、専属護衛として採用した当時の貴女よりも、今のテルフィの方が強いと思いますわ」
「ええ、振り返りますと、あの頃の私は、身体も魔力も、まるで整っておりませんでしたからね」
「その貴女が、ここまで強くなった。勿論、才能が有り、努力も人一倍行って来た結果ですが……テルフィも、今後も努力することで、更に強くなれるでしょう」
「は、はい! 導師様の元で、更に剣術に励みたいと思います!」
こうしてテルフィを、レイテアの後任として正式に専属護衛に採用することにした。暫くは早朝稽古などを利用して、テルフィに色々教えていかないとね。楽しみだ。
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