第233話 共同指揮所演習に参加した
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サウスエッド国との共同指揮所演習の事前調整要員を転移門で送り届け、月末の休日となった。とは言っても、特に変わったことをやるわけではなく、鍛錬や各種研究を行っていた。また、お兄様が、魔力波の習得には成功したのだが、その後の研究も行っているようなので、相談に乗ったりした。特に、精霊がお兄様の状態にとまどうようなので、その辺りの改善を図っていた。
11月となった。まずは合同洗礼式に立ち会って、精霊術士候補を探す仕事だ。いつもの様に、精霊と感覚共有して話し掛けたが、今回は誰も反応しなかったので、候補となる少女はいなかった。
いつもの人材交流の視察に加え、共同指揮所演習が行われるため、移動する日となった。王太子殿下以下、人材交流視察関連の面々に加え、今回は国軍総司令官以下、多くの総司令部員が参加している。
それに今回は、サウスエッドの魔力循環不全症患者への施術もあるから、キュレーニル研究員達も一緒に来ている。そのため、一度では運びきれずに1回往復した後、もう1回転移することになった。
今日の所は通常の人材交流視察、共同指揮所演習準備が行われるが、私については施術を行うため、王城の一室に集められた患者達の所に向かった。患者達は11名おり、サウスエッドで現在施術の対象となっている患者全員が集められたと聞いている。
サウスエッド側としては、同盟国からの情報ということで基本的に信用し、この機会に全員施術を受けさせようという考えだそうだ。その方が、こちらとしても気が楽なので有難い。とは言っても、サウスエッド側にも研究しておく必要があるため、宮廷魔導師長以下、数人の研究員らしき人達も同席していた。あからさまな興味の視線が少々面倒だが、いつもの様にこなしていこう。
11名の患者達に対し、キュレーニル研究員達が測定用魔道具を取り付け、準備が出来た患者から施術を行っていった。本部で多数の患者に対して施術したためか手際も良くなり、今回は問題なく終わらせることが出来た。
キュレーニル研究員達は、念の為こちらにいる間は患者達の様子を見ることになっているが、私は明日から共同指揮所演習の方に参加しなければならないので、宮廷魔導師長達からお礼の言葉を頂いた後に、職員の案内の元、演習準備を行っている会場に向かった。
到着すると、演習参加者達に対し、演習の認識共有が行われていた。丁度良いので聞かせて貰おう。
共同指揮所演習は、兵棋演習という形式で行われるそうだ。大きなチェスや将棋のような感じで、戦場を想定した板、兵棋盤の上に、兵棋という駒を置いて、あたかも戦場で実際に部隊を運用しているように司令官や指揮官役の人が命令を与えて行くのだ。
ただし、戦場では味方の配置は判っても、敵の配置や数などはきちんと偵察しないと判らないから、偵察で判明した敵部隊の兵棋だけが、自分達の兵棋盤に置かれることになるらしい。戦闘の進み方は、1回命令を与えると、一定時間が経過すると命令の結果が兵棋盤や兵棋に反映されるようで、また、実時間と戦場の時間は必ずしも一致するわけではないらしい。
今回については実時間が1時間過ぎると戦場では4時間が経過しているという計算だそうだ。そして、適宜戦場の時間を停止させ、部隊運用を失敗した場合に別の部隊運用の可能性を模索したり、休憩を取ったりするようだ。
今回、ロイドステア側もサウスエッド側も、兵棋は10、つまり10個部隊があり、司令部の兵棋が1個、騎士隊の兵棋が2個、歩兵隊の兵棋が6個、魔法兵隊の兵棋が1個で、それぞれ最初は兵棋1個当たり千人、つまり両軍とも総員1万人いるという想定だ。
戦場は実在の地形ではない、中間国であると設想されているが、両国の間にあり、ユートリア大陸の中央に位置するネクディクト国の地形に似ているような気がする。そして、某海軍強国が中間国に侵攻して流通を妨害していることから、両国が共同戦線を取って、中間国から某海軍強国を追い出すというシナリオらしい。やっぱりウェルスーラ国は敵国とされているのね……。
この兵棋演習は、演習統裁部の技量が問われる演習だそうで、人数もかなり多いが、見た感じでは、相当なベテラン達が演習統裁部員になっているようだ。まあ、下手な統裁をしたら喧嘩になるから、それなりに強い発言力を持つ人でないと務まらないよね……。ちなみに、演習対抗部隊、つまり敵国側の兵棋盤もあって、共同部隊側の駒を同じ位置に配置し、演習対抗部隊も駒を使って状態を表しているようだ。そして、こちらの兵棋盤が置いてある部屋には、共同部隊側の者は立ち入ってはならないということだ。なるほど……。
演習準備が終了したので、それぞれ指定された宿泊施設にて休むことになった。今回は演習の状況が終了した日の夜に、慰労会を兼ねた宴が予定されている。ということで今日の所は静かに休んだ。
今日から状況が開始される。私の役どころは、精霊に関する知識を必要とする所で尺度や意見を出すというものだが、基本的には見るだけだ。のんびりと見学させて貰おう。
演習時間で2日、つまり実時間で10時間が経過し、演習1日目が終了した。何だか皆、思った以上に指揮官役になっているな……。とりあえず、戦争目的は同じでも、両国軍はそれぞれ目標が違うのが印象に残った。
ロイドステア側は主要な陸路を制する砦の奪取で、サウスエッド側は港の奪取。それぞれ戦場が離れており、直接的な共同作戦が難しい位置だ。これだと共同の意味が少ない気がするけど、まあそれは今後の課題かな。
演習2日目については、両軍とも敵の奇襲に遭い、かなりの損害が出た。ここで状況一時停止となり、対応策が検討された。奇襲は基本的に「想定外のことをされて対応の暇がとれない状態」を意図的に作るものだから、対応策としては特に情報収集に力を入れたり、何があっても対応できるような態勢を取っておく、ということになる。
まあ、後者はとても難しいから、前者が主体になるのかな……と考えていると、私に対して質問があった。精霊の情報収集能力に関してだ。無難に答えておこう。
「今回ですと、夜間や荒天に乗じた奇襲を受けておりますが、精霊は夜間でも昼間同様に見ることが出来ますし、大雨の中でも、水精霊や風精霊であれば問題なく情報収集出来るでしょう。ただし、敵兵の明確な特徴を精霊術士に教えて頂くことが必要です。例えば、軍旗の図柄や装備に描かれた紋章などでしょうか」
と言ったところ、精霊を使った情報収集の要領を検討し始めたので、今回は友好国が侵略された際に敵国軍を排除するために行う戦争なので問題ないが、侵略戦争時には使わないで欲しい、とお願いしておいた。
演習3日目、状況としては最終日を予定していたためか、目標奪取に向けた激しい攻撃が展開された。特に、ロイドステア側については、砦の攻略に魔法兵隊を使ったのだが、その際に、精霊術士10人による魔法強化を行った上で攻撃したため、通常ではありえない程に敵が大損害を受けたので、判定に疑問を持った参加者が多数出た。
砦の奪取には成功したが、状況終了後に、私の方から魔法強化について説明させて貰い、理解を得ることが出来た。
演習は終了し、最後に演習統裁官である、両軍の総司令官から双方の成果や今後の演習の方向性などが示された。やはり今後は同一戦場での共同戦線を展開していくらしい。また、今回は想定上に無かったが、海上兵力の存在も加えていくそうだ。まあ、あちらさんはそれが強力な国だからね……。
演習が終了した夜には、宴が開かれた。とは言っても私については、殆どがサウスエッド側からの挨拶対応に費やされた感じだ。また、中には魔力循環不全症患者の家族の方もいて、大変感謝されたりもした。ちなみに、4日間愛娘や孫と過ごすことの出来た某国王は、大層ご満悦のようで、私が挨拶に行った時も、幸せそうな笑顔で迎えてくれた。
次の日、撤収も終了して帰国する際、国王夫妻以下、軍関係者などの多くの人達に見送られ、転移した。まあ、こういう交流を行うことで関係が良好になるのが、一番の成果なのだろうね……。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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