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第232話 神域で魔力循環不全症の施術を行った

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

国軍総合演習の間も、他の業務は滞りなく進められていた。特に私に関係する案件では、魔力循環不全症の患者を神域にあるカラートアミ教本部に集めて施術を行うことになっていたので、その日程の調整があった。


私自身は行って施術を行うだけなので殆ど準備はいらないが、患者達を運ぶ他国は結構な苦労があったようだ。各国にも色々事情があるようで、そこまで多くの国が参加しているわけではないようだ。


聞くところによると、ユートリア大陸ではアブドーム、ネクディクト、ヘイドバークの3国、イオンステ大陸ではノルウープ、ヘーゲルヴェスト、ネルセーデルの3国、あとはグラスリンド帝国が患者をカラートアミ教本部に輸送したということだ。


メリゴート大陸の国々は、サザーメリドの件があったため様子見、カナイ大陸には人間族が殆どいないためか患者がおらず、グリタニア・ルーランド大陸は参加の意志を見せず、モリコルチ大陸は小国家が群雄割拠している状態らしく、反応自体が無かった。


ユートリア大陸にも、幾つか来ていない国があるが……ロイドステアや私に対して恨みがありそうなノスフェトゥスや、潜在的な敵国となりつつあるウェルスーラは判るけど、セントチェストは何故だろう? 別に敵対しているわけでもないのにね……。


ちなみに、妖精族の国であるウォールレフテには患者はおらず、サウスエッドについては、来月行われる共同指揮所演習に私も参加するため、その際に患者の施術を併せて依頼されている状況だ。




カラートアミ教本部に向かう日となった。私は朝から大聖堂の方に向かった。先日の一件もあり、私に対する暗殺の発生なども想定されているので、念の為導師服を着ている。大聖堂で測定用魔道具などを持ったキュレーニル研究員以下数名の研究所員、護衛任務についている10名の騎士と合流し、カラートアミ教本部に転移した。


転移後私達は、患者達が集められているらしい、講堂のような建物に案内された。中に入ると、何と教主猊下がいたので、皆で跪いて礼をした。


「精霊導師殿とその一行の方々、此度は貴女達の力添えを頂けて誠に良き日となりました。今後も神の教えの体現の為、宜しくお願いします」


と言って去って行った。相変わらず鍛え上げられた身体だ……。


まあ、政治的には、神の教えに従って行っている事業であることをここで明言することで、施術に関して各国が文句を付けたりすることを抑える意味合いもあるわけだ。流石は教主猊下、といったところか。


さて、気を取り直し、施術の準備をしていった。勿論この場には、各国の患者達をはじめ、基本的には貴族子女の筈なので、その付き人達や、恐らくは政府関係者や諜報員のような人達もいるので、私達は注目の的だった。まあ、大抵は戦々恐々とした視線だったのだけれど……懸念された、敵意や殺意は無さそうだ。まあ、ここには精霊達もいるから、さほど心配はしていないけれども。


準備が整い、国単位で順番を決めて、施術を開始していった。順番については、前世でいうところのあみだくじで決めたらしい。ちなみにこちらでの名前は、敢えて表現するなら「運命の導き」という名前になる。まあ、阿弥陀如来はいないし、おいそれと神様の名前を使うのは宜しくないからね……。


患者達は、基本的にはうちの国と同様、幼い子供達で、程度の差はあったが、魔力循環不全症の症状が出ているのは明らかで、衰弱していて寝ているか、起きていても気怠そうにしていた。皆を健康体に戻す手助けが出来るよう、気合を入れ直した。


まずはヘイドバーク国の5人。責任者に施術をすることを告げ、5つ並べられたベッドの一番左側の患者から計測用魔道具を手早く取り付けて貰う。基本的には患者の国から同様の魔道具を持って来て貰う調整をしているので、そちらを付けて貰うが、問題があれば、こちらが持って来たものを付けることになっている。


取り付けが完了し、計測体制が整ったのを確認する。その後、患者に付いている人達に対し、改めて施術の許可を取り、患者の丹田付近に触れて、ゆっくりと私の魔力に同調させていく。体中の魔力を掌握した後は、魔力を体の隅々まで循環させ、次第に通常の魔力循環の速度に戻して行く。暫くして、魔力循環の値が正常値に戻ったという報告が上がり、様子を見て同調を切る。


これを繰り返した。続いて帝国の8人、ヘーゲルヴェストの3人、アブドームの4人、ネルセーデルの5人、ノルウープの4人、ネクディクトの6人の施術を行った。


施術自体は一人当たり10分程度で終わったが、合計35人もいたのでかなり時間がかかってしまった。患者達が騒ぐことは無かったが、施術を行う度に、周囲に対応するのに疲れてしまったよ……。


正常値に戻る度に驚かれたし、他にも患者の親らしき人が私に対して


「導師様、お願いします! 息子を、息子を……!」


と言って、縋り付こうとするのを護衛の騎士が引き留めて宥めるといった状況が何度もあったし、途中休憩を取りたくても皆が急かす視線を送って来るので、レイテアが気を利かせて


「お嬢様、この様にお疲れでは、施術に差し障りがございます。こちらで一旦お休み下さい」


と大声で告げて、控室の様な所に連れて来てくれたおかげで、やっと一息つくことが出来たりした。この辺りは、今後は改善が必要だけれど、それでも、意識のあった患者達からは


「体が楽になったよ! 有難う!」


と感謝の言葉を貰えたので、来た甲斐はあったかな、とも思う。




全員への施術が終了し、患者達に付いている人達に対し、キュレーニル研究員から今後のリハビリについて、国毎に準備していた資料を渡し、説明したが、中には


「本当にこのような体操を続けることで、病状が改善するのですか? そもそも、本当に精霊導師殿の施術は有効なのでしょうか? 無理をして患者を動かしたせいで、国に帰ってから体調が悪化してしまうのではありませんか?」


というような発言もあったが、キュレーニル研究員が


「今説明した事を確実に実行し、それでなお改善が見られない場合は貴国の政府からロイドステア行政府に問い合わせて頂きたい。また、施術の効果自体を疑っておられるようですが、先程教主猊下からもお言葉を頂いておりますので、今後貴国はこの事業に参加なさらないということで宜しいかな?」


と言ったことで収まった。


まあ、こちらは国威発揚などの思惑もあるけれど、基本的にはカラートアミ教の慈善事業の一環で、対価を貰うわけではなく、善意で施術を行っているわけで、疑う人達を説得してまで施術をしたいわけではないからね……。今回の施術で良好な成果が出ることによって、友好的に参加してくれる国が増えると、こちらとしても有難いのだけれど。




ということで、最後に教主猊下に挨拶して、やっとロイドステアに帰って来たよ……。当然陛下や宰相閣下、大臣にも状況を報告しましたよ。次は来年の4~5月の予定という話だけれど、改めて、人の命に関わる仕事は難しいなあ、と思った。


数日後に行われた全体定例会議の場で、魔力循環不全症の施術の件が紹介され、宰相閣下からも改めてお褒めの言葉を賜ったのだが、その際「やはり導師様は神使なのでは……」と、誰かが呟いたような気がした。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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