第231話 国軍総合演習が行われた
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今日から国軍総合演習が始まる。今日の所は両方面軍の配置と事前の準備や打ち合わせで、明日の日の出、つまり1日が始まる時をもって状況開始になるという話だ。
大まかな状況としては、ステアシード訓練場全域が戦場で、その北端と南端に両方面軍の司令部が置かれる。基本的には、予期遭遇戦の様相になるそうだ。
戦闘行動は訓練場内でのみ可能で、双方、刃引きされた武器を使用することになっていて、寸止めが推奨されている。試合の様に1本取られた者は、戦闘不能としてその後の戦闘行動を禁止され、司令部に待機する。魔法で人を狙うことは禁止だけれど、騎士隊と歩兵隊は10名毎に組を作って1本の旗を持ち、その旗に魔法が当たったら、10名全員が戦闘不能と判定される。矢については、訓練用の矢の先にインクを滲ませた布が付いていて、当たって汚れたら戦闘不能と判定される。
そして、方面軍以外の騎士隊と魔法兵隊は、訓練場内に分散して、審判を行っているそうだ。審判の役割は2つあり、1つは戦闘不能と判断されても戦闘する者が結構いるので、戦闘不能であると宣言して、戦闘をやめさせること、もう1つは故意に危険行為を行った者を戦闘不能扱いにすることだ。演習後に厳しいペナルティが課されるそうなので、審判に従わない者は、ほぼいないと聞いている。
そして、次のいずれか「敵の司令官、すなわち騎士隊長を戦闘不能にする」「敵の司令部を占拠する」を達成した時点で勝利となり、5日間で勝敗が決まらなかった場合は、戦闘不能にした数が多い方が勝利、という判定だ。
南端に司令部がある方が赤方面軍、北端に司令部がある方が青方面軍で、赤方面軍には、リゼルトアラ以下8名、青方面軍にはマルロアーナ以下8名が加入している。基本的には魔法兵隊に同行することになるだろうけど、どういう風に精霊術士を活用するかは特に定められていないから、案外面白い動きをするかもしれないな。
今朝から演習の状況が開始された。私は通常通り庁舎で勤務しているが、適宜風精霊と感覚共有して、演習を観ることにしている。さて、書類も無いし、観にいってみよう。
訓練場に到着すると、開けた場所で両軍がぶつかろうとしていた。双方とも歩兵隊が前に出ており、騎士隊は後方にいる。まずは前哨戦といったところだろうか。
双方とも同じように見えて……あれ? 青軍の方は、魔法兵隊らしき人達が、こっそり前線に来ている? そして、両軍がぶつかる前、矢の射程より外から、青側が魔法を放ち始めた! おおっ、火と水のエネルギー弾が高速で飛んで行って、赤側の旗をどんどん落としているよ……あれは、マリー、アリネラ、ラクノアの3人が水魔法を、ラズリィが火魔法を強化しているね。
本当は威力の出る氷魔法を使いたかったんだろうけど、旗だけでなく人にもぶつかるから、難しかったんだろうな。ただ、火魔法の方は狙いが正確で飛翔速度も速いから、かなり遠くの旗もどんどん攻撃している。赤側はかなり動揺したようで、隊列が乱れていた。
暫くして、矢の射程に入った所で双方矢を射始めたが、これは双方共に風魔法で防いでいた。その間に、青側の魔法兵隊は後方に下がったようだ。そして部隊が激突する直前、間に土の壁やら落とし穴が急に発生して、一旦間合いを切ることになった。なるほど、こういう風に、突然壁や落とし穴が出来る状態では、騎士隊が突撃を行う時をきちんと見極める必要があるということか……。
その後は配置換えや小競り合いが何回かあったが、大きな変化は無さそうだった。また、訓練場の端の方では、双方共に警戒部隊を配置しているようだった。
定時に帰宅して、夕食後、訓練場の様子を確認してみたが、双方とも交代で仮眠を取りながら警戒していた。精霊術士達については、双方共に司令部付近に集まっているようだ。確認してみたところ、風の精霊術士を主体として、相手部隊の状況把握を行っているようだった。
通常だと出来るかどうかは判らないが、今回については、演習参加者は陣営側の色をした腕章を付けているため、赤側であれば「青い腕章を付けた人がどのあたりにいるか」ということを精霊に聞けば、魔法強化が可能なくらいに能力の高い精霊術士達が頼むのであれば、精霊達は調べてくれる筈だ。
ただし、私と違ってそこまで広い地域を確認できるわけではないので、分担して確認しているようだ。この場合は、リゼルトアラ以下、風の精霊術士が3名いる赤側の方が有利だと思うけど……明日にどう影響するかな。
出勤後、とりあえず訓練場の様子を確認してみると、動きがあったようだ。赤側が、騎士隊を突撃させたらしく、青側がかなりの混乱に陥っていた。近くに赤側の魔法兵隊がいなかったので、もしかすると昨日の精霊による情報収集や偵察などにより、魔法兵隊がいない正面を把握して、突撃したのかもしれない。
赤側の騎士隊は、攻撃を加えたあと、機動力を生かして離脱していった。青側は、かなりの損害が出たようだ。騎兵が走って通過したコース付近にいた歩兵は、全員戦闘不能にされるため、戦闘不能の判定を受ける前に逃げ出す歩兵も少なくなかった。赤側は数騎ほど、矢の攻撃で戦闘不能になったみたいだけど、青側は何百人も戦闘不能になったみたいだから、この攻撃は成功だったんだろうな……。
その後何回か観に行ったが、小競り合いはあったが大きな動きは無く、2日目を終えた。
3日目になると、多くの者に疲れが見える。精霊術士達についても、かなり疲れているようで、仮眠をとっている者が多かった。他に変化した様相と言えば、攻撃ルートになりそうな地点に、双方とも穴や壁、簡易的な陣地を作っていた。恐らく魔法強化した状態の地魔法で作ったのだろう。
また、少人数で偵察などを行っていたらしく、広範囲で小規模な戦闘が発生していたものの、戦線自体は膠着しているように見えた。そのまま状況は変化せず、3日目が終了した。
4日目、ここで青側が一気に攻撃を仕掛けた。何と、一部の魔法兵が馬に乗って接近し、魔法で赤側の壁や穴を排除し、そのまま攻め込んだのだ。
通常であれば、魔法であってもすぐに排除するなど出来ない筈が、今回は、青側の地の精霊術士であるパティとエナが、女性の魔法兵と一緒に馬に乗って、魔法強化をしつつ移動していたのだ!
このため、赤側に対応の暇を与えることなく素早く障害を処理し、通過口を作って青側の騎兵がなだれ込み、赤側の歩兵は逃げる間もなく蹂躙され、かなりの数の兵士が戦闘不能となった。
その後、赤側の騎士隊もやって来たので青側の騎士隊は撤退し、戦線の立て直しなどを行っているうちに1日が終了したようだ。
5日目、最終日だが、また昨日のように障害を均して突撃するのかと思って確認したところ、落とし穴などに氷が張っていた。恐らくは、昨日のような奇襲を防止するために、水魔法か何かで穴に水を入れた後、凍らせたのだろう。こうして、戦線が膠着した状態で最終日が終了し、結果としては、相手を戦闘不能にした数が多かった青方面軍の勝利となった。
撤収が終了した日に打ち上げが行われた。打ち上げに参加する精霊術士達に、寸志の代わりに精霊酒を5樽程持って行って貰ったら、酒好きのロナリアがとても喜んでいた。
あと、パティに、馬に乗って突撃した感想を聞いたところ
「実は演習前の打ち合わせの時から練習していたのよ。最初は怖かったのだけれど、慣れたら楽しかったわ。乗せて貰った魔法兵とも仲良くなれたし、魔法強化してくれた精霊も面白がっていたわよ」
と、平然と答えていた。やっぱり、女も度胸だよね……。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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