第230話 田んぼを作った
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マーク叔父様から、稲作研究用の土地に関する連絡が来た。場所は、王都に近いシーラ村という所らしい。王都から馬車で1時間ほどの距離にあり、川から水が引けるし、治安上も問題ないとのことで、選定したそうだ。
ちなみに、実際に田んぼで作業をして貰う人員については、シーラ村や周辺の集落で募集中とのことだ。一度場所を見ておきたかったので、視察ということで現地に行くことにした。
叔父様と調整して日取りを決め、農業課の穀物担当者なども連れて現地に赴き、テトラーデ領の行政官にも来て貰って説明を受けた。地積は100クール四方、前世で言うなら概ね90メートル四方の土地、8100平方メートルの面積になる。まあ、研究目的なら丁度いいかな。ついでなので、今のうちから田んぼだけでも作っておこう。
「行政官殿、今からこの土地に、研究用の人工湿地畑……『田んぼ』を作って宜しいでしょうか?」
「『たんぼ』……と言うのでしょうか?……ええ、問題ございません」
許可も頂いたことだし、早速作ろう。広さ的には、4区画にするのが丁度良さそうかな。とりあえずは両手を地精霊と同化させて……まず用水路と排水路になる溝を作って、次は畔の部分を残してその内側を耕し、出来るだけ粒を細かくした上で作土層と鋤床層を作る。
鋤床層は、あまり固めすぎてはいけないから、程々に……っと。それと、用水路・排水路や畔も固めてしまおう。更に今度は、水精霊と同化させて、田んぼの下の暗渠や地下水源を調整して……こんなものかな。
「このような形ですわね。作業要領については、作業を行われる方々が集まり次第、私から説明させて頂きますわ」
「……この広さの土地をこの短時間で耕すとは……このような形の畑は、見たことがございませんし、その上、水路までお造りになるとは……どのような作業になるのか、想像がつきませんな」
「新しい作物ですので、従来とは大きく異なる作業となりますわ。作業が始まりましたら、私も週1回程度の頻度で視察を行い、その際に精霊達に確認することとなりますので、そのようにお伝え下さいな」
「導師様がそこまで力をお入れになる穀物……『こめ』と言いましたか……是非成功させたいものですな」
「ええ。宜しくお願いします」
春になったら作業を始めることになるが……説明資料や農具など、色々準備していこう。
魔法省の定例会議に参加した。今回、特に話題となっているのは、来週実施される国軍総合演習だ。毎年10月頃に、最大5日間の状況と準備・撤収が4日で、約1週間の日程で実施されているそうだ。基本的に、1個騎士隊、1個歩兵隊及び1個魔法兵隊で編成された方面軍を2つ作り、対抗方式で行う演習だそうで、この結果は毎年王都でかなりの話題となっているようだ。
昨年は精霊課が無関係だったし、重力魔法関連で忙しかったのであまり関心が無かったが、今年は精霊術士も参加するので、そうも言っていられない。一応怪我をしないように気遣ってはくれるらしいけれど……物事に絶対は無いからね……。
ちなみに、総合演習に参加する精霊術士達は、現在両陣営の行っているミーティングに参加している。大変だと思うけど、頑張ってね……。
休日は鍛錬や稲作関連の準備などを行いながら過ごし、出勤したところ、ちょっとしたニュースが国防省から入って来た。空動車の技術試験が満足の行く出来だったらしい。また、ドミナスのフロントガラス作成についてもうまく行ったそうだ。
今後は実際に魔法兵団の地魔法士が様々な環境で実用試験を行い、改良を加えることで、実用化をするらしい。魔法大臣や魔道具課長、魔法兵課長達が早速実物を見に行くとのことだったので、私も一緒に行く事にした。
国防省の実験棟に移動し、案内されて一室に入った。幾つかの筐体があり、その中の幾つかは、私が提供したものだ。案内している人からの説明があった。
「今回、総合的に一番試験成果が良かったのはこの筐体ですね。ただし、これは一人用ですので、戦場での運用を考えますと、最低二人で乗れる筐体に仕様を変更する可能性が高いです。また、こちらの数人搭乗可能な筐体もかなり良い結果でしたので、実用試験を行っていこうと考えております」
一人用の筐体は、私が水上バイクをイメージして作ったもの、数人で乗れる筐体は、軽自動車をイメージして作ったものだ。
「ふむ。では、そちらの3つはどうだったのだ?」
「大臣、この2つは安定性が悪く、問題がございました。こちらについては、安定性は高かったのですが、恐らくは魔力が非常に高い者でないと、要求された機動性能を満たさないと判断されましたので、今回の選定からは外れました」
なるほど。ワンボックスは、今の魔道具では力不足だったということだろうか? ただ、私だったら扱える可能性があるかもしれない。
ワンボックスをどうするのか聞いたところ、もう使わないようだったので、返却して貰うことにした。ついでなので、魔道具部分をきちんと取り付けて貰うことで、私用の車にしようかな? まあ、今のところはバイク型と軽自動車型の出来次第といったところだけど、何かに使えないかな……。
その後、実験棟の施設を見せて貰っていたところ、うちの領から来ていた地属性の魔技士に会った。
「まあ、貴方、調子はいかがでしょうか?」
「お嬢様ではございませんか。こちらで勉強させて頂き、大変充実しております。重力魔法の魔道具作成に習熟致しましたら、是非領に戻って腕を振るわせて頂きたいと思います」
「何と頼もしい事でしょう。貴方の様な領民がいることを、嬉しく思いますわ」
「いえ、お嬢様こそ、我が領の誇りであります! 研究している皆から羨ましがられておりますよ」
「ふふ、有り難う」
「そうだ! お嬢様、先程、あちらにあった筐体の一つを受け取られたようですが……あれをどうされるのでしょうか?」
「あれは元々、私が作った筐体でしたので、試験が終了したので返却して頂いたのですわ」
「でしたら、もし宜しければ、あれを私に使わせて頂けませんか?」
「あら? 貴方が研究に使うと仰るのかしら?」
「はい、その通りです。あの筐体は、速度こそ出ませんでしたが安定しておりますし、勿体ないと思っておったのです。しかも、高貴な方が乗られるのであれば、あのくらいの空間があった方が宜しいでしょうから、使い道があるのではないかと考えておりまして」
「宜しいですわ。貴方に預けましょう。あと、研究というのであれば、資金なども必要でしょう」
私はそう言って、ワンボックス風の筐体と、それなりの現金と魔石を渡した。
「何と、このような大金、それに魔石も……有難うございます。必ずや、形にして見せましょうぞ!」
こうして、丁度良い人材が見つかり、ワンボックス風空動車の製作も進めて貰うことにした。
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