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第228話 稲作を始めることにした

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

サザーメリド国の魔物暴走を利用した謀略への対応は終了し、私達は通常の生活に戻った。お父様とお母様についても、領地に帰らなければならないため、年末に帰ることを約束して、転移門で領へ送り届けた。その際、手紙でしか話を聞いていなかったお祖父様も私の事をとても心配していたらしく、安心させるために王都に戻るのが少々遅れたけれども。私は、今世でも良い家族を持てて幸せなのだなあと、改めて思った。




通常の生活に戻ったとはいえ、これまでと少し周囲の雰囲気が変わった所がある。私自身に直接何らかの被害があったわけではないが、諜報員が捕縛されてから暫くして、陰である噂が流れだしたのだ。


それは、諜報員達が流していたような虚偽風説ではないのだが、かなり扱いに困る内容であり、外で話せる事ではないので、内緒話のように囁かれているのだ。まあ、私は精霊と感覚共有して確認したのだけれども。


その噂は、全属性者として生まれ、この年で精霊導師として活躍し、今回は神託で結婚についてまで定められてしまった私がただの人であるはずがない、神様が何らかの使命を私に与えているのだろう、という内容だった。


ちなみにこちらの世界では、神様から使命を与えられた者を、神の使いという意味の言葉で呼んでいるのだそうだ。「神使」とでも呼べば良いだろうか。一番有名な神使は、カラートアミ教の教主である神子(神女)様だが、その他、歴史上には、神様から使命を与えられた方達が何名かいて、文明の発展に多大な貢献をしたり、多国家間の大きな争いを終息させたりしたそうだ。使命を与えられた記録が無いので明確ではないが、帝国の初代皇帝なども、神使であったとされている。


正直、使命の内容を聞いたわけではないので何とも言えないところだが、転生という事実を考慮すると、間違っていない可能性が高いのよね……。とは言っても、現段階で下手に認めてしまうと、神様が任じてもいないのに神使を名乗るのか、と言われてしまうから、注意しないといけない。まあ、今後はそういう目でも見られるものだと思って警戒した方がいいな、これは。




さて、落ち着いたところで、元日本人としては最優先でやりたいことがあるのだ。それは……稲の原種らしき植物を、美味しい米の出来る稲に品種改良すること!


幸い、大きな業務は無いので、研究の一環として魔法省の敷地内で行うことにした。今回は、うるち米が出来るかどうか試してみよう。イメージはとりあえず、前世の家の近所にあった田んぼで作っていた奴にしよう。収穫の時は、たまに手伝っていたんだよね……新米は美味しかったなあ……おっと、品種改良にとりかからないとね。


ということで、右手を地精霊と同化させて、今回採取した種籾?を握って、米のイメージを送る……よし、植えてみよう。


本来なら苗床で苗を育てて……とやるのだろうけれど、今回は考える必要がない。いつものように生長させると……やった! 私の知っている稲っぽい植物が生えて来た! きちんと自家受粉も出来てるみたいで、しっかり稲穂もある。


稲穂をナイフで切り取って、地精霊に聞いてみると、籾? には毒などの要素は無いようだ。作業机と椅子を出して座り、ナイフで籾を削ったところ……確かに玄米だよ!


試しに食べてみると、うんうん、米の味がする。やっぱりこれは、稲の原種にあたる植物だったんだ……何だか泣けてきたのだけれど、外だし落ち着こう……。




稲の原種はあの大森林にあったわけだけれど、魔物も多いし危険だったから、これまでは人の目に触れることが無かったんだろうな……しかしながら、米は地球でも三大穀物に数えられるほどのポテンシャルがある。こちらでは、とうもろこしと小麦が二大穀物として広く作られているが、今後は米も作って貰おうかな?


そのためには、ある程度作りやすく、美味しい物を提供しないとね……。


色々考えた結果、水の豊かさで選択できるよう、陸稲も水稲も作ることにした。また、陸稲はしっかり根を張る代わりに稈長を長めに、水稲は倒れにくくなる様に稈長を短めにすることにした。それと、水稲については苗を育てるのは厳しいかもしれないので、直播栽培が可能なようにしてみよう。


……たまに実験をするからという理由で、敷地内に私専用の区画を作っておいて貰って良かったよ。敷地にいきなり出来た田んぼに立ち入られて、怪我でもされたら嫌だしね……。




数日かけて改良し、満足の行く品種が出来た。また、少量だが精米し、炊いてみたので農業課に話を持って行くことにした。幸い、問題なくアポは取れたので、農務省の庁舎に移動し、農業課長の執務室に入室する。


「農業課長殿、本日はお時間を頂き、有難うございます」


「導師様、先日は品種改良に協力を頂き、有難うございます。して、今回のご用向きはどのようなものでしょうか?」


「実は、先日サザーメリド国に行く機会があったのですが……」


「……話は色々伺っております。導師様が任を全うされ、無事にお戻りされたことは我が国にとり、誠に喜ばしいことでした。……その際に何かこちらの業務に関係することがございましたか?」


「ええ。実は、魔物の討伐の為に大森林に赴いた際、見慣れない植物を発見しましたので、精霊に確認した所、穀類ということでしたので、試しに品種改良をしてみましたの。それがこちらになりますわ」


そう言って米や籾、稲や原種を異空間から取り出し、農業課長に見せた。


「……確かにこれは……見たことが無い穀物ですね……」


「この穀物は、基本的には形状を加工することなく炊く、蒸す、焼くなどして食することが出来ますわ。これが炊いた状態ですわね」


そう言って、炊いてから小さい器に盛りつけて収納したご飯を取り出し、スプーンで掬って食べてみる。農業課長にもスプーンを出して試食をして貰う。


「これは……成程。……導師様、こちらの穀物、作物研究所で研究させて頂けませんか?」


「ええ。そう仰って頂けるとお話を持って来た甲斐がございますわ。農業課長殿、こちらが、この穀物『米』に関する資料ですわ」


事前に作成しておいた資料を、異空間から取り出して、農業課長に手渡すと、農業課長は資料に目を通し始めた。


「『こめ』ですか……成程……沼地に生えていたのですか」


「ええ。このため、通常の畑ではなく、人工的に沼地の様な耕作地を作り、そこで育成した方が良いのではないかと考えております」


「ふむ……確か南国のサウスエッド国やヘイドバーク国においては、一部の根菜を湿地で栽培しているという話ですが……それと似たようなものでしょうか?」


「その方法かどうかは判りませんが……精霊から話を聞いて、私が検討している農法があるのですわ。その資料にも記載させて頂きました」


元々は精霊ではなく、前世由来なんだけどね……この世界でも実現させるためには、精霊からも色々話を聞かないといけないから、嘘ではない。


「……おお、この部分ですな。……承知致しました。まずは穀物研究室の方で、通常の畑での生育と、沼地での生育を行ってみましょう」


「こちらが畑、こちらが沼地での生育を想定して品種改良したものですわ」


「有難うございます。しかし……畑用が作れるのでしたら、沼地用は不要なのでは?」


「沼地用を作った理由は2点、1つは品種改良したとはいえ、出来る限り原種が存在した環境に近づけた方が、種としてロイドステアの地に根付きやすいという点、もう一つは、連作障害が起こりにくいという点ですわ」


「……元々は赤道付近の地域にあった植物ですから、ただでさえ環境が異なるロイドステアで栽培することを考えた場合、1つ目は当然の話でしょうが、2つ目はどういう意味なのでしょうか?」


「沼地を作るために水を引き入れることにより、土地の栄養がある程度回復しますし、小さい生物の影響で、調和がとれる状態に戻りやすいのですわ」


あと、田んぼで作った方が味が良くなると思うから、出来れば水稲を追求したいのよね……現段階では何とも言えないから、言わないけど。


「成程……そのような考えがあるのですね」


「ええ。とは言っても、大々的な人工沼地での栽培の研究は、こちらでは手狭だと思いますので、宜しければ、共同研究をさせて頂けませんか?」


「それは宜しいですが……アルカドール領で行うのでしょうか?」


「いいえ、アルカドール領は寒冷ですし、そこまで水が豊かというわけではございませんので、当分は様子見ですわね。今回は、テトラーデ領と話をさせて頂こうと考えておりますわ。今、叔父の所に手紙を出しておりますので、その回答次第ですが……」


「ふむ……テトラーデ領であれば、比較的温暖で水も豊かだ。場所としては宜しいのではないでしょうか」


「ええ。王都からも近いですし、私が足を運ぶことも容易ですわ」


「承知致しました。テトラーデ伯爵から了承を頂ければ、共同研究を進めましょう」




こうして、稲作をこちらの世界に根付かせるための研究が開始された。マーク叔父様からは快く了承を頂けた。さしあたり、王都に近い所にある、川から水を引ける土地を貸して貰って、私の方で田んぼや用水路を作り、私費で人を雇って稲を育てることになる。


なお、簡単に了承して頂けたのは、マーク叔父様の負担が少ないように配慮したこともあるが、米は様々な魚介類にも合う、と手紙に書いたのが決め手だったようだ。私も早く海鮮丼やうな重が食べたいなあ。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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