第223話 サザーメリド国での魔物暴走対応協力 6
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陛下の執務室で、私と、豹神獣と感覚共有した地龍様が、事情を説明した。
「本件に関する報告は、以上でございます」
「そうか……そのような事になっていようとは……大儀であった」
『愛し子の報告に偽りの無い事、我が保証しよう。また、今回の騒動を看過した事を、謝罪する』
「地龍殿、気遣い痛み入る。謝罪を受け入れよう」
「陛下、本件に関しては、直ちにサザーメリドに対し、厳重抗議を行います」
「宰相、明確な協定違反であるのはもとより、精霊導師を取り込むための調略であったというのであれば、国交の停止を視野に入れよ。また、諸外国への通知を検討せよ」
「拝命致しました」
「陛下、本件に関連しまして、東公の動きを懸念しております。特に、我が娘に関する誤った内容の噂が不自然に流布するのではないかと、危惧しております。当家は全力で対抗しますが、噂への対応は困難を極めます故、陛下にも、心配りを頂きたく、存じます」
「侯爵、精霊導師が余の命を完遂した結果、名誉が毀損されるなど、在ってはならぬ事だ」
「陛下、そちらにつきましても、王都を中心に、防諜の態勢を強化致します」
「宰相、抜かりなく実施せよ」
「拝命致しました」
今後の対応要領が、次々と決まって行く。この辺りの政治的な所は、正直私は門外漢だ。精々、所々で証言をするくらいかな。そして、地龍様(と感覚共有した豹神獣)は、陛下との話も終わったので、水龍様の棲処を経由して帰ることになったのだが、今回の話とは関係無いことで1件情報提供をしてくれた。
『ロイドステア王よ。こちらに来て判ったのだが……近傍の海底火山に気を付けよ。不穏な活動をしておる』
「地龍殿、その忠告、有り難く活用させて貰おう」
これは精霊課の案件にもなるだろうから、こちらが落ち着いたら対策を考えておかないとね。
陛下への報告と、今後の対策会議も終了し、お父様達は王都邸へ戻り、私は魔法省へ行き、とりあえず大臣に、魔物暴走対応協力が終了したことを報告した。
「導師殿が任務を完了し、無事に帰国したことは、喜ばしいことです」
「有難く存じますわ。それと、大臣、もしかすると、本件に関し、暫く周囲が騒がしくなる可能性がございますが、お気になさらぬよう、お願い致します。これは陛下からの命でございます」
基本的に魔法省は、今後の対応には無関係となるので、気にせず通常業務を行うよう、陛下から言われたのだ。大臣は、その意味を理解し、承知してくれた。その後、精霊課などにも顔を見せた後、今日のところは早めに王都邸に戻った。
家に戻ると、お兄様は既に学校から戻っていたようで、私が邸内に入った途端やって来て、無事を喜んでくれた。その後は、お兄様とレイテア、家令のカールダラスを交えて会議が開かれた。簡単な状況説明と、今後の我が家の行動の概要が、私とお父様から語られた。
「……東公とサザーメリド国、許さん……」
「お兄様、私は無事ですわ。私の事を思って下さるのは嬉しいのですが、落ち着いて下さいませ」
「旦那様、では、暫くの間は、王都に滞在して、対虚偽風説流布の指揮を執られるということで宜しいでしょうか?」
「そうだ。当然カールダラスにも、当家の手の者の差配をやって貰わねばならん」
「承知致しました」
「エヴァには知人を中心に、茶会などに参加して、噂などが広まっていたら対処するとともに、積極的に正しい情報を流して貰う」
「ええ、クリス」
「カイは、特に学校内の学生達の言動を、遠視も併用して注視してくれ。魔法学校は貴族に関する噂を広める場として使用される傾向にある。そしてお前からも、フィリスには何も問題が無い事を、広めて貰いたい」
「……父上、承知致しました」
「フィリスについては、通常と異なる行動を取ると、それを理由に何らかの瑕疵に結び付けられる可能性がある。当面は、様子を見ながら通常通りに生活を行ってくれ。また、精霊による情報収集を、併せてやって貰う」
「お父様、承知致しました。皆様、宜しくお願いします」
こうして、対虚偽風説流布の活動を行うことになった。皆様、本当に有難うございます。
王都に戻って4日程の間は、大きな動きは見えなかったが、やはり王都各所で、私に関する噂が広まり始めていることが、カールダラスの報告で分かった。そこで、誤った内容の噂を打ち消すため、王家とも協力して、正しい情報の発信と、東公側の諜報員を排除する作戦を開始したらしい。こちらについては、お父様達に任せるしかない。
お母様やお兄様の方は、誤った内容の噂が確認出来なかったので、先行して、私がサザーメリド国の魔物暴走対応に協力して、魔物を殲滅したという話をしているそうだ。なお、私が持って帰った魔象などの死体は、博物館に寄贈することになった。剝製にするそうだ。ついでに、私が倒したことを今後広報していくらしいけれど……。
5日目に、サザーメリド側に動きがあった。というか、国王がロイドステア国に緊急会談を申し込んで来たのだ。どうも、先日女王様が言っていた仕置が始まったらしく、カラートアミ教の転移門を使わせて貰ってやって来たらしい。そんなに慌てて来るなんて、女王様は、何をやったんだろうね……。
とにかく、国王自らやって来ている以上、会談に応じないという話は無いので、こちらも急遽会談に対応することになり、陛下や王太子殿下、宰相閣下など、主要な方々が予定を変更して、王城の会議室に集まった。丁度王城に調整に来ていたお父様も、参加させて貰う様だ。
ちなみに私は、会議室にはいるが、衝立を設置して奥に控え、陛下が許可してから姿を見せ、会談での発言が可能となる。念の為の処置らしい。
暫くすると、サザーメリド国王以下、数名の高官と、大使が入って来た。王太子はいないようだ。国王同士が挨拶をして、会談が始まった。
……どうやら、サザーメリド側は、今回の件を、王太子の乱心として処理するようだ。私に恋焦がれて強引に手に入れようとしたようだ、と、サザーメリド国王がさらりと言ったのだが、その時、本当にお父様から殺気が漏れていた。いや、一応会談なのだからまずいってば。ちなみに現王太子である第1王子は廃嫡され、第2王子が王太子になるらしい。
協定書には、内容に反した時の違約金等については、具体的な取り決めは無く、内容に応じて両国で別途定めるという内容だったので、今回の会談で、私に対する賠償額などを決定したい、ということであった。と言っても、ここで私が賠償を受けてしまうと、問題が1つ発生するのだ。つまり
「私が傷物になったから賠償を受けた」
という様に、傍からは見えてしまうことだ。これは今後を考えると非常にまずいので、ロイドステア内では、賠償名目の金品は、サザーメリドからは絶対受け取らないという合意が出来ている。貰うとしても、あくまで国家間協定の違約金であり、政府が受け取ることになるのだ。その辺りがあるので、今私は、衝立の奥にいるのだけれど……。
「精霊導師に詫びたい。この場に呼んで貰えまいか」
「サザーメリド王よ。協定違反は国家間の話であって、精霊導師自身は無関係だが、詫びとは一体何の話だ?」
「それは、我が息子が精霊導師に対して行った無礼な行いだ」
「そのような事は知らん。何かの間違いではないか?」
「間違いであるものか! でなければ、我が国で起こっている事は何だというのだ!」
「それは貴国の事情であって、我が国とは無関係だ」
「……現在我が国では、魔法や魔道具が使用出来ん。我が国の精霊術士が、精霊から『主を怒らせたから、今後この国では力を貸せない』と言われたそうだ」
精霊は、敵対者には力を貸さなくても良い、と神様から言われているそうだが、女王様は今回、それを適用したわけか……。魔道具大国が、いきなり魔道具を使えなくなったら、確かに死活問題だろうな……。だから早く解決したくて、国王自身がやって来た、というわけか。
「その精霊が言った『主』とは、精霊女王のことではないか。では、やはり我が国には関係の無い事だ」
「そんなわけがあるか! 精霊導師に取り成して貰わねば、我が国はどうなるのか!」
……サザーメリド側は、形振り構わず泣きついて来た。しかしながら、陛下の仰る通り、私は女王様の仕置については既に無関係だ。一度取り成そうとしたけど、女王様は自身の考えを曲げる方ではないしね……。
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