第219話 サザーメリド国での魔物暴走対応協力 2
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暫くして、やって来た馬車に乗って王城に移動し、サザーメリド国王に謁見した。
前世だったらこういう場合、言語が異なっていたり、かなり礼儀作法が異なっていたりするから面倒なのだけれど、この世界はカラートアミ教が唯一の世界宗教だからか、言語は同じだし、作法も多少は異なるけど大筋は同じだから有難いよね。
で、謁見の際に協定書も確認して貰い、了承は頂けた。まあ、そうでないと私は帰ることになっていたからね……。
謁見自体はすぐに終了し、現場の責任者である、この国の王太子と会った。……なお、サザーメリド国も、私との縁談を打診していて、その相手が王太子だったらしいが……今初めて知りましたよ、ええ。
この王太子、年齢は私より3才上の14才で、外見は如何にも王子様、という感じの人だが……かなり私に馴れ馴れしく寄って来るから面倒臭い。とりあえずはこいつにも協定書を理解して貰うかね。
「王太子殿下、今回の私の魔物暴走対応協力に関しては、協定が結ばれております。先程、国王陛下にも承認して頂きましたので、この内容に悖る行動は、お控え下さいませ」
「む、何々……はぁ? この様な面倒な協定など、私には関係ない!」
「そうですか……お守り頂けないのであれば、今回の協力自体が白紙に戻りますが……宜しいのでしょうか?」
「……まあ、国家間で結ばれた協定だ、守ってやろうではないか」
「有難き幸せに存じますわ」
とりあえずはこれで、表面的な動きは牽制できそうかな。
サザーメリド側の準備が整うまで、暫く王城の応接室のような所で待機することになった。暇なので、色々確認してみよう。とりあえず、以前お祖父様に頂いた本の内容を思い出しつつ、私の世話をするために待機しているメイドに話を聞いてみた。
サザーメリド国にも、ロイドステア国におけるファンデスラの森の様な、魔物暴走多発地帯となる大森林があるそうだが、対応要領はロイドステア国とは異なり、直接国軍が対応するらしい。
準備や移動などに時間がかかる筈なので、その点をどうしているのか、メイドに確認したが判らなかったので、護衛係らしい騎士に確認したところ、どうやら、アブドーム国も使っていた魔道具を使うことで、ある程度の日程調整は可能らしい。こちらの大森林にも、四龍のうちの1体がいて、魔物暴走の際には警告をくれたりすることもあり、通常であれば、対処は問題ないようだ。
また、サザーメリド国は隣接国も少ないので、大森林近傍にも、それなりの兵力を置けるらしい。ただ、今回は魔物の数が多くなり過ぎて、対処が大変なので、私が呼ばれたようだ。現地までの移動については、王城と大森林近傍の砦に転移門が設置してあり、今回も使用するそうだ。それなら、私が警護部隊を連れて来るのはお断りしたい状況なのも、理解は出来るかな……。
準備が整ったので、王太子や護衛達とともに、転移門で砦に移動した……が、転移門の起動の際に魔道具を使っていた。聞いてみたところ、複数の人間から魔力を提供して貰い、貯めておくことが出来る魔道具らしい。これを使って転移門を起動するわけだ。流石は魔道具先進国といったところか。
砦に到着し、早速現地の部隊長をはじめとする主要な人達との会議が始まった……が、まあ、ここの人達からすると、私は異分子だし、最初に紹介はされたものの、かなり私の方に多くの人の意識が集中していた。不埒な視線も多く、中には恩寵の遠視らしき視線もあったが、まあ、ここではおとなしくしておこう……。
現在は魔物の群れを誘導して森に留めている間に、こちらの態勢を整えているところで、明日の朝に群れが森を出る様調整しているそうだ。魔物は推定だが500体を超え、その内訳は、非常に強力な魔物である魔象や魔獅子を主体とした群れらしい。このため、この砦にいる兵士1万人で抑えられるかは五分五分の状況という内容だった。ここで、会議の司会らしき人から、私に話が振られた。
「一つ伺いたいのですが、精霊導師殿は、どの程度の魔物に対応できるのでしょうか?」
まあ、夏に魔物暴走対応に参加した時の経験から言わせて貰えば、喩え魔象であっても、基本的には私だけで大半を討伐出来るから、軍には、討ち漏らしを任せるのが妥当な所かな。とは言っても、どの程度信用して貰えるか判らないけど……正直に答えて、様子を見るか。
「その程度であれば、私が粗方を片付けられますわ。その後、貴国が討ち漏らしを対処するのが、最も被害を少なく出来ると思いますわ」
私がそう言うと、一瞬静まり返った後、笑い声が起こった。
「失礼ながら精霊導師殿、貴女は、どのように魔象を倒されるのですかな?魔象は、最大の動物とも言われる象が魔物化したものだ。まあ、貴女は魔象を御覧になった事が無いから、その様な事が言えるのでしょう?」
まあ、そう思うよね……一応冗談で無いことは伝えておくか。
「確かに魔象は見たことはございませんが……象であれば知っておりますわ。成体で体高は4クール、体重は8メグにもなるほどの大きさで、鼻がとても長く、牙と共に強力な武器となり、また、走った時の早さは、その巨体に見合わない、時速40キート以上にもなるとされておりますわね。それと、皮膚がとても厚く、少々の攻撃など物ともしないそうですわね」
「そ、そうです! そのような動物が魔物化し、更に強力になるのですぞ? それをどうやって……」
「それは精霊導師としての力を使って……としか答えられませんわね。まあ、そちらも私の言葉を鵜呑みに出来るものでもございませんでしょうから、私一人だけ、砦の前に配置して様子を見れば宜しいのではございませんか?」
「そんなことをされて、勝手に死なれでもしたら、こちらが困るではないか!」
「王太子殿下、私が魔物への対応を誤って死亡した場合は、貴国に咎はございませんわ。協定にもございますので」
「そ、そこまで言うのであれば、貴女に名誉ある先陣を任せようではないか!」
ということで、私は明日、一人で砦のかなり前に出て戦うことになった。ぶっちゃけ周りに人がいない方が有難い。
会議も終了し、夕食を取って休むことになった。王太子殿下が一緒に食事を……と誘って来たが、協定に、男性との接触を控えるよう書かれていたため断って、宿泊する部屋に持ってきて貰って一人で食べることにした。それは問題なかったのだが……。
「申し訳ございませんが、部屋を替えて頂けませんか?」
「それは困ります。こちらへお連れするよう指示されておりますので」
「しかしこの部屋は、魔法が禁じられているではありませんか」
「……これは、魔法や魔道具による襲撃を防ぐための処置でございます。その他、部屋の場所を基準に警備体制が取られておりますので、勝手に部屋を替えるわけにはいかないのです」
「私に魔法攻撃は通じませんし、精霊が部屋に入れないというのは、害悪以外の何物でもございませんわ」
「そう仰られましても、私どもでは対応いたしかねます」
「承知しました。この件は協定違反の一つとして、後日処置させて頂きますわ。ところで食事は?」
「中に準備してございます」
「そう、分かりました。貴女は下がって宜しいですわ」
ということでメイドを下がらせ、部屋に入った……が、確かに食事はテーブルに置いてあるな。とりあえず収納して、と。窓は……あるな。ここは4階相当の高さだけど、窓から出た時点で重力魔法を使って浮遊すれば問題ない。一応書置きだけして、窓から外に出た。
重力魔法で浮かびながら、砦の中で一番高い、物見の塔のような所の屋根の上に着地した。ここなら休めそうだ。雨もさっき降ったばかりで天候は晴れ、気温も高いから問題ないだろう。
屋根に腰を下ろし、部屋から持ってきた夕食を食べようとしたところ、精霊が警告した。
『その食べ物、何か良くない物が入っているよ』
……これも、証拠の一つにしておこう。改めて収納し、以前買っておいたパンなどを食べて、この日は休むことにした。下に毛布を敷いただけなのであまり寝心地は良くないが、精霊に守って貰えないあの部屋よりはましだろう……。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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※単位
1キート:0.9km
1クール:0.9m
1メグ(=1000ログ):1t(=1000kg)
「1時間」は概ね同じ。(フィアース語での時間の呼び方は異なりますが、都合上「時間」を使用)
ただし、全てフィリストリアの目測や体感が基準、という前提があります。




