第218話 サザーメリド国での魔物暴走対応協力 1
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9月に入った。通常業務を行っていたところ、王城の侍従の一人が執務室に入って来た。
「導師様には、今から行われるサザーメリド国大使との会談に同席せよ、との陛下の指示がございました」
「謹んで承りました、侍従殿。ところで、会談の内容を伺っても?」
「導師様に、協力を要請したい内容がある模様です。詳細は伺ってはおりません」
「承知致しました。有難うございます」
私は、ニストラム秘書官に説明した後、王城の会議室に向かった。
サザーメリド国は、ここロイドステア国のあるユートリア大陸から見て、東に位置するメリゴート大陸の南域にあり、魔石の生産が世界一という国だ。ロイドステアもサザーメリドから魔石を輸入していて、国内で流通している魔石の半分は、サザーメリド産という話だ。魔道具技術なども非常に発展しているらしいので、我が国としては関係を良好に保ちたい国の一つなのだが……協力とは一体何だろう……?
会議室に到着したが……宰相閣下がいるのは良いとして、何故か東公もいる。もしかするとあまり良くない話かもしれないな……。その他、国防大臣と、外務省から担当課長が来ていた。外務大臣は現在不在だからね……。様子を見ているうちに、陛下とサザーメリド国大使らしき人が入室し、会議が始まった。
……話を要約すると、魔物暴走が大規模になりそうなので、私の力を借りたい、ということだった。先日もビースレクナ領でかなり大規模の魔物暴走が発生したが、そういった時は、他の魔物暴走多発地帯に悪影響を与え易くなるという、確たるデータは無いが信憑性がありそうな話も聞いている。魔物暴走は、他国だからと座視して良い案件ではない、ということだ。
だから、何もなければ普通に協力する流れだったのだが、国防大臣が騎士団の百騎隊、1個部隊を私の警護に付けようとしたところ、早期に対応する必要があること、また、同盟国ではない他国の軍が入ることは民心の不安を煽ることから、部隊単位での警護はやめて欲しいと言われたのだ。
しかしながら、大臣級が他国に出向く際は、通常その程度の警護部隊が付くらしい。現に今、外務大臣がネクディクト国に外遊しているが、同規模の警護部隊が付いている。他国も似たようなものらしいので、警護の規模を減らせと要求するのは、外交儀礼的に問題がある話なのだけれど……?
「しかし、先日アブドーム国に外務大臣殿と精霊導師殿が向かった際は、10名程度の護衛のみだったと聞いているが?」
ここで東公が発言をした。どうやら、サザーメリドの擁護を行うようだ。狙いは不明だ。
「それは、転移門を使用し、街中や神域のみの移動となったからです。今回、精霊導師殿が魔物暴走対応の協力を行うのであれば、野外で活動することになる筈です。であるならば、要人警護を担当する省としては、警護部隊を付けないという話は了承できません」
「では、我が国が精霊導師殿の警護を行うということでは如何でしょうか?」
「それこそ、貴国の対応が間に合わないのではないか?」
「今回の話を我が王が予期されておりましたので、こちらに命令書がございます。『必要とあらば、我が国が警護を行え』とありますので、我が国の威信をかけ、精霊導師殿の安全は保証致しましょう」
……随分と用意のいいことだが……この協力要請自体を断るのは、精霊導師に関する多国間協定の話などもあるため、かなり我が国の体裁が悪くなる話らしいし、魔石の交易量が減らされる可能性も高そうだからね。結局のところ行く事になるのだろう。ぶっちゃけ、私が了承すれば話が進むだろうけど……その場合、少数の護衛を付けることすら危険なのでは、と考えている。
というのは、先程から、たまに東公の悪意が、こちらに伝わってくるのだ。ということは、この話自体が、私に対する何らかの工作の一環と考えて間違いないだろう。災害にも等しき魔物暴走だというのに、それを出汁にして、何で人間同士で争おうとするのかね……もういいや、さっさとこの茶番、終わらせよう。私は自分の仕事をするだけだ。
「大使殿、サザーメリド国が私の身の安全を保証する、というのは、間違いのないことなのでしょうか?」
私のこの発言で、険悪な雰囲気が一時静まり、サザーメリド国大使が口を開いた。
「も、勿論です、精霊導師殿!」
「では、直ちに出発準備を致しますわ。併せて、今回の協力要請に際しては、貴国と我が国の間で、協定書を作成して下さいませ。それと、私が魔物暴走対応に協力したという証明書も、現地で責任者に署名を頂きますわ。なお、今回の協力要請、私単独で、カラートアミ教の転移門を使用して移動しますわ」
私がそう言うと、周囲が静まり返った。そして、その雰囲気を収めるべく、それまで皆の話を聞かれていた陛下が、決断された。
「分かった。精霊導師は、その方向で準備せよ。大使殿は協定書を作成して貰いたい。宰相、協定書等の作成は任せる」
そう言って、陛下は退室された。サザーメリド国大使は交渉が上手く行くのが嬉しそうな表情で了解し、ロイドステア側は何か言いたそうな人が殆どだったが、陛下の指示に基づき、協定書の作成に取り掛かった。東公は、一瞬喜んだのは分かったが、その後は感情を消したようだ。私は、準備の為に執務室へ戻ろうとしたところ
「導師様、陛下がお呼びでございます」
と、先程来た侍従に言われたので、陛下の執務室へ赴いた。
「陛下、お呼びとのことで、参りました」
「うむ。そなたの考えを、聞いておきたい。奴らについて、どう思った」
陛下も、きな臭いものを感じていたようだ。ここは正直に答えておこう。
「魔物暴走対応で、私の力が必要だというのは本当のようですが……併せて、何らかの謀略が行われる可能性が高いと考えております。しかしながら、そのために協力要請自体を断るのは、我が国の為にならぬと考え、承知した次第です」
「そうか、気を使わせたようだな……それと、護衛すら不要というのは?」
「私一人であれば、最悪の場合でも、精霊に頼み、精霊界に転移させて貰えば生き延びられますが……仮にそのような状況が発生した場合、護衛は精霊界に連れて行けませぬ故、喩えその護衛が強かろうと、無駄に命を散らすことになりますわ。であれば、最初から連れて行かぬ方が望ましいでしょう」
「……そこまで考えての事か、相分かった。気を付けよ」
「ご配慮頂き、誠に有難き幸せに存じますわ」
話は終わり、私は陛下に礼をして退室し、準備……と言っても着替えて業務調整するだけだ……を行った。あと、レイテアにも、今回は護衛無しで向かうことを伝えたのだが……
「そんな、危険です! せめて私だけでもお連れ下さい!」
「正直な所、今回の仕事は魔物だけではなく、サザーメリド国自体も敵の可能性があります。この場合は、私が単独で動いた方がやり易いですし、生き延びる確率も上がるのですわ」
「しかし、護衛がいれば、相手が多勢であっても、壁になることくらいは出来ます!」
「今回は、直接的な加害行為は、協定により制限されると思いますから、どちらかと言えば搦め手、食事に毒が入れられたりする可能性などの方が高いですわ。それならば、精霊がいれば対応できますから。大丈夫、必ず帰って来ますから」
「必ず! 無事に! 帰って来て下さい! ……アルカドール侯爵家の方々に、専属護衛としてお詫びのしようがございませんし、私自身、貴女を失うのは、嫌なのです」
「ふふ、承知しましたわ」
そのようなやり取りをして、何とかレイテアを宥めた。レイテアは、この国にとっても重要な人物になりつつあるし、変な謀略に巻き込んではいけないというのが本音なのだけれど。必ず帰るからね。
宰相閣下達が作成した協定書や協力証明書などを持って、サザーメリド側の案内者を伴い、カラートアミ教の転移門を使って、サザーメリド国の王都にある大聖堂に転移した。ここからは、馬車で王城に向かうようだ。
サザーメリド国は赤道が通過しているので、暦上は秋だけれど、まだ真夏の様に気温が高いのだが、導師服を着ているから、暑くはない。また、サザーメリド国にも当然精霊はいて、馬車を待っている間にこちらの精霊達に挨拶したところ
『愛し子が来た!』
と騒ぎ出し、囲まれてしまった。丁度警戒をお願いしようとしていたところだったので、有り難いことだ。
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