第215話 レイテアの結婚相手が決まった
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今日は収穫祭2日目だ。当然今日の目玉は武術大会で、多くの人々が会場である王都多目的催事場へ集まる。私はレイテアを連れて会場へ向かった。ただし今日はレイテアが単独で行動することもあるので、護衛ではなく単なる同行者だ。臨時で別の護衛もいる。
今回の優勝候補筆頭は、勿論シンスグリム男爵で、今回優勝すると、殿堂入りとなり、恐らくは子爵に陞爵される筈だ。代々の騎士団長は、武術大会に3回優勝して殿堂入りし、子爵になった結果、団長に推挙されている人が多いらしい。勿論それだけでは推挙はされないのだろうけれど、それ相応の実力が求められているわけだ。
貴族用の観覧席に座って暫くすると、予選が始まった。レイテアとの結婚が目当ての参加者も結構いるから、この機会に見ておかないとね……。今回は特別に、予選を含めた対戦表を作って貰ったのだ。高位貴族向けのサービスらしく、事前に受付に言っておけば、当日の朝に会場で貰えるというものだ。
その対戦表と求婚者一覧を照合したところ……予選くらいは勝ち残ってくれる人でないといけないかな……と思っていたが、4人が残っているようだ。これに予選免除のシンスグリム男爵がいるから、計5名か。
レイテアはご両親と待ち合わせていたらしく、予選が終わると一旦席を離れ、会いに行った。現在の状況を話しに行ったのだろう。まあ、ご両親については、誰が良さそうなのか、聞いているだろうけれど。
レイテアが戻って暫くすると、本戦が始まった。3つの試合場でそれぞれ激闘が行われている。しかしながら、シンスグリム男爵は、あっさりと相手を下し、順調に勝ち上がっている。実力差があることもそうだが、シンスグリム男爵からは、鬼気迫るような凄みを感じる。刃引きした剣を使っている筈なのに、対戦相手を構えた剣ごと切り伏せてしまいそうな迫力だ。
その胸中に一体何があるのか、本人にしか解らないところではあるが、彼を見つめるレイテアもまた、真剣な表情だ。さて、どうなるかな……。
他の求婚者の中には、なかなかの腕前の人もいたが、残念ながら勝ち上がれず……まあ、あのシンスグリム男爵に当たったら、ねえ……。彼は見たところ、魔力波を習得しているわけでもないのに、思考加速の状態に入りつつあるようだ。前世において、一流のアスリートなどに見られた、ゾーン状態にも似た感じだ。仮に彼が魔力波を習得して、自在に思考加速を操れるようになったなら、更に強くなるだろう。
準決勝が終った。3位決定戦の後、決勝戦が始まる。決勝戦に出場したのは、シンスグリム男爵と騎士団近衛隊長だ。近衛隊長も前回より腕を上げているようだが、正直今のシンスグリム男爵には勝てないだろう。どこまで粘って意地を見せるかが見物というところだ。ちなみに、近衛隊長は普通に妻子持ちなので、当然レイテアへの求婚者ではない。
3位決定戦が終了し、決勝戦の時間となった。2人が入場し、挨拶の後、双方構えた。あの構えから察するに、シンスグリム男爵は、最初から勝負を決めるつもりのようだ。
試合開始の合図とともに、シンスグリム男爵は、物凄い勢いで斬りかかった! 近衛隊長は、避けることもかなわず、何とか剣で受け止めたものの足が居付いてしまい、動きが一瞬止まった。その隙を狙っていたであろうシンスグリム男爵が、剣を鋭く突き出し、剣先を近衛隊長の喉元に当てた。試合終了だ。
決勝開始から僅か数秒、まさしく秒殺という表現が相応しい結果で、シンスグリム男爵が勝利した。まあ、この勝ち方は、レイテアとの決勝戦で、シンスグリム男爵が最後に仕掛けた時と同じ状況だから、レイテアへのアピールでもあるのだろうな……。
シンスグリム男爵は、勝利の判定を受けると、こちら……というより、レイテアの方を向いて、剣を掲げた。恐らくは「勝利を捧げる」という意思表示なのだろう。その時、騎士っぽい人達から、声援が上がっていたが……あれは恐らく、今回の事情を知っているであろう、騎士団の同僚の人達だな……。
閉会式や優勝者へのインタビューも終了した後、アルカドール家で事前に借りていた一室に、本戦出場者達に集まって貰い、レイテア自身の口から回答を告げる機会を作っていたのだが……流石に圧倒的な力を見せて優勝したシンスグリム男爵が一緒だと、他の人達は肩身が狭そうだった。ちなみに私はレイテアの後見であるアルカドール家の代表として、この場にいる。レイテアのご両親も当然この場に来ていた。
全員の入室を確認して、臨時護衛にレイテアを呼んで来て貰い、レイテアが部屋に入って来た。あの表情を見ると、結婚を決めたらしい。相手は誰だろうか。レイテアは語り始めた。
「私に求婚し、ここに集まって下さった方々、まずは有難うございます。私の様な者が、いずれ劣らぬ素晴らしい方々の多くを袖にする権利があるのか、私自身が疑問に感じているところですが、このように取り決めた以上、ご容赦をお願いします。では、私からの答えを述べさせて頂きます」
と告げた後、レイテアはシンスグリム男爵の目の前に移動して、照れながら手を差し出して、言った。
「サムスワルド・シンスグリム男爵、私は貴方の求婚に応じたいと思います」
レイテアがそう言った時、シンスグリム男爵が嬉しそうな顔をして、レイテアの手を取って
「私の想いに応えてくれて、有難う! 共に人生を歩んで行こう」
と言った。他の求婚者達は、納得したような表情で、退室していった。ご両親は、二人に近づいて、祝福の言葉を告げていた。シンスグリム男爵は、ご両親の目にも適ったようだ。こうして、レイテアの結婚相手は、シンスグリム男爵に決定した。彼を推挙していた騎士団長も、喜んでいることだろう。
帰りの馬車の中で、念の為レイテアに、シンスグリム男爵を選んだ理由を聞いてみたところ
「人間的に尊敬できる方ですし、何より、共に腕を磨きたくなってしまったのです」
と、到底色恋沙汰とは思えない回答が返って来た。まあ、レイテアだし、そういうのもありだろう。
当然この件は、帰宅後転移門でアルカドール領にレイテアと一緒に一時帰省して、直接お父様とお母様、お祖父様に伝えた。全員喜んでくれたが、そこでお父様から
「では、近々フィリスの専属護衛を誰かに交代して貰うことになるな。寂しくなるが」
と言われた。元々想定していたことではあるが、私自身、非常に寂しい。しかし、レイテアが考えていたのは、少し違うことだった。
「大恩あるお嬢様の護衛を、一身上の都合で離れるのは、私自身望んではおりませんでした。しかしながら、私は騎士学校で教官をさせて頂くうちに、考えてしまったのです。一剣士としてお嬢様をお守りするのには限界がありますが、本格的に後進を育てていくことで、体制の強化を図ることが出来るのではないかと。今後お嬢様の活躍の場は、更に広がりますので、それに見合うよう、私も励みたいのです」
……そこまで私の事を考えてくれていたのか。私も、レイテアの気持ちに応えられるよう、更に頑張らないとね!
「ということは、護衛から退いた後は、正式に教官になるのね? 素晴らしいと思うわ」
「ええ。何せ、私が剣を捧げた方は、私だけでは護り切れないほど、世界にとって大きな存在ですから。人材を育成することで、今後とも貴女を守りたいと思います」
「有難う。私も貴女と出会えて、本当に幸せだったわ」
こうしてレイテアは、結婚のため、私の専属護衛を辞めることになった。ただし、辞めるのは後任者にきちんと引継ぎを終えてから、ということになった。後任者については、男性でも問題無かったのだが、女性護衛の使い勝手の良さを一度味わってしまうと、正直物足りないわけで……その辺りを考慮して、レイテアが推挙した女性を、私が最終的に判断して専属護衛にすることに決まった。
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