第210話 水の大精霊に、和合のコツを教えて貰った
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
それから私達は、村の広場で地図を広げて、地下水の分布や水源への影響などを話し合った。セントチェスト国は、鉱物資源は豊富なのだが、その反面、採掘の影響で山林の荒廃が酷いらしく、山地の保水力が低下していることから、河川がよく氾濫しているそうだ。
しかも、最近新たに大きな銅山を開発しているようで、河川の氾濫によって鉱毒汚染が広範囲に及んでいるらしい。このため、当座は地下水の分布をロイドステア側に寄せておきたかったそうだ。
「それは……鉱毒がロイドステア側の水にも含まれることにはならないでしょうか?」
『大丈夫よ。鉱山の一帯から切り離した上で、こちら側に誘導する経路を作るから』
「それならば、一先ずは安心致しました。ただ、鉱山の採掘や精錬の要領を、我が国の様に自然への影響が少なくなるように改善して頂くのが一番良いのでしょうが……他国の話ですからね……」
『少し前までは、話が出来る子がいて、地精霊が鉱山のことなども色々教えていたらしいんだけど、その子がどこかに行ってしまったから、教えることが出来なくなったって、嘆いていたわね』
……それは……もしかすると、その精霊術士が政治的な意味で遠くに追いやられてしまった、ということだろうか……? 折角精霊から助言を貰えていたのに、それを活かすどころか疎むなど、自分達の首を絞めるだけだというのに、愚かなことだ……。
その後も話し合いを進め、ディクセント領内に幾つか流れている、大きめの河川に水が流れ込むように水源や地下水の分布を調整することになった。当然これだけだと地盤沈下が起こってしまうわけだが、今回は水の大精霊が地精霊達に頼んで、地盤沈下が起こらないようにして貰うそうなので、その辺りも安心だ。
「おお、これならば、多くの町村での水不足が緩和されるだろう! 水の大精霊よ、感謝します」
『川の水が蒸発することで、こちらでも雨水が出来るはずだから、それで水不足は落ち着くと思うわ』
「承知致しましたわ。ご配慮、深く感謝致しますわ。ところで……この広範囲の調整を行うのは、大変なのでは?」
『大丈夫よ。この程度なら、ここからでも全ての範囲の水を一度に掌握出来るわ』
「流石は大精霊殿ですわね。私など、一度で掌握出来るのは、精々この村と周辺地域くらいですのに」
『それは少ないわね。エスメターナは、力に慣れた頃には私の半分くらいは掌握出来ていたから、やはり一度、私と全体的に同調してみて、様子を見た方がいいわね』
「そうなのですか。宜しくお願いします」
『そう言えば、私達大精霊と同調する場合は、文言も変わるのよ。私はどうでも良かったのだけれど、エスメターナは、決まりですし立場もあるのですから、とうるさかったわね……』
大精霊と和合する場合の文言を教えて貰った。なるほど、同格という位置付けだから、それを踏まえた文言になるわけか。しかし、先程からエスメターナ様を懐かしがっているように感じるが、当時は仲が良かったのかな……?
実際に水源と地下水脈を調整することになり、村にある井戸の前にやって来た。ここを基点として地下水脈にアクセスし、調整するのだ。今回は水の大精霊が補助してくれるので問題はないようだが、しっかり学ばないとね……。
「では、始めます」
【我が魂の同胞たる水の大精霊よ。我が願いに応じ、共に在らん】
『我は水の大精霊なり。其の願い、聞き届けた』
水の大精霊がそう返答した途端、青い光の奔流が私を飲み込んだ!
確かにいつもの和合とは違う。視界が青色に満たされ、意識に水が染み込んでいくような感じだ。ただ、恐らく基本は変わらない筈なので、意識して呼吸し、落ち着こう……。
暫くすると、視界が元に戻り、体の感覚が普通に……なったとは言い難いか。確かに、これまでより遠くの水属性を支配している感覚がある……が、まだ先程聞いたような広範囲の支配ではない。
『どう? 落ち着いたかしら』
「まあ。この状態でも、水の大精霊殿とは、話すことが出来ますのね」
『そうよ。でも、今の状態だと、まだ同調が完全ではないわね。恐らく、貴女が全属性だからだと思うわ。魂の一体感が、エスメターナの時とは異なるもの。 ……そうね……水の心になってみなさいな』
「水の心? それは一体……?」
『ああ、単なる思い付きだから深い意味は無いわ。でも、間違ってはいないと思うわよ?』
ということは感覚的な言葉ということか。とりあえず、やってみるか。
……そういえば、以前和合を試していた時、属性毎に性格が変わったような気がしたな。いつもはその辺りを出さないように、つまりは抑え込んでいるわけだけれど、それをありのままにしたら良いということだろうか? よし、試しに黙想してみよう。
しばらく黙想していたところ
『同調が強まって来たわ! その調子よ!』
と水の大精霊がこえをかけてくれたから、方向性はこれでいいかなぁ。よし、あとは、なんかこう、たゆたうようなかんじを、もとにもどしていこぅ……。そう……ちからに飲まれるのではなく、力と共にありつつ、制御するんだ……良し、見えた!
『ふふ、これなら合格よ? さあ、地下水脈を調整しましょう』
改めて水属性を掌握してみた。確かに、以前とは比較にならないほど広範囲を支配している感覚がある。まあ、大精霊の補助があってのことなのだけれど、それでも、この感覚を覚えておけば、今後通常の和合を行っても、従前より段違いの力を発揮出来るだろう。
先程話し合った通りに、地下水脈の流れを変えつつ、鉱山付近から水を退避させ、ロイドステア側に寄せた。また、各河川に水が流れるように湧出させると、減少していた水位も回復していった。暫く様子を見たが、問題無さそうだったので、和合を解いた。
「水の大精霊殿、お助け頂き、誠に有難く存じますわ」
『どういたしまして。そういえばフィリストリア、貴女は体全体を同調させる時、精霊を何体呼んでいるのかしら?』
「5体ですが……それが何か?」
『もしかすると、全属性の貴女の場合、6体呼んだ方がいいかもしれないわね』
「……まだ魔力は余裕がありますので、試しに行ってみます」
従前は5体をイメージしていたので、6体をイメージしてみよう。
【我が魂の同胞たる水精霊よ。我と共に在れ】
すると、6体の水精霊達がやって来て、私と和合した……おおっ、確かに先程よりは範囲が小さいが、従前とは比べ物にならないくらい広範囲を掌握出来ている。暫く感覚を確認した後、和合を解いた。
『うんうん、良くなってるわよ。これからも頑張ってね。じゃあ、私は行くわ』
「数々のご助言、今後も活用させて頂きますわ。ごきげんよう」
こうして水の大精霊は去って行った。私はここの仕事は終わったので王都に戻るが、サーナフィア達は、もう少し井戸を掘るそうだ。とりあえず村で一泊した後、侯爵達と一緒に中心都市へ向かい、侯爵本邸から転移して王都に戻り、大臣達に状況を報告して、業務を終了した。
次の日に省定例会議があったが、その際にも念の為、水の大精霊の話を各課長達に連絡しておいた。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。




