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第205話 ビースレクナでの魔物暴走対応 4

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

陛下の執務室にて、宰相閣下とともに、今回の件について報告した。


「うむぅ……よもや今回の魔物暴走が、アブドーム側の謀で引き起こされたとは……」


「アブドーム側も、当初発生していた魔物暴走への対処に困り、苦肉の策で行ったものと推察致しますわ」


「それでも、そなたが居らねば、我が国が甚大な被害を受けたであろうことに変わりは無い。攻め入られたことと同義だ。アブドームには、その代価を払って貰わんとな」


「……陛下、今度アブドームで行われる協議を利用し、圧力を掛けては如何でしょうか」


「ふむ……今書状で抗議を行っても、実利を得られるわけではない。であれば……」


陛下はそう呟いて、魔道具で人を呼んだ。暫くして、外務大臣がやって来た。


「陛下、……と、宰相殿、導師殿、珍しい組み合わせですが、如何なさいましたか」


「おお、外務大臣。実は……」


陛下は外務大臣に状況を話し、所々、私や宰相閣下が補足した。ちなみに外務大臣は、陛下の実の弟だが、臣籍降下して法服公爵となり、外務大臣職に就いている。私生活ではどうかは判らないが、今は公務中であり、あくまで王と大臣の関係を保っている。


「成程。来週アブドームで行われる協議の場を利用して抗議しつつ、協議を有利に進めようということですな。それならば……導師殿にも出席して頂くのは如何でしょうか?」


……確かに、実際に確認した私が、証人としてその場にいた方がいいからね……。


「奴らは、導師殿の力を知ったのでしょう? それならば、導師殿の存在自体が、圧となることでしょう」


……違った、威圧のためだったよ……。まあ、戦争とかにならないなら、いいや。そもそもあちらから攻撃して来た様なものだし、それなりの対応をしないとね……。


「ふむ、確かにそれならば、今後も有利に事を進められよう。精霊導師よ、協議に参加可能か?」


「陛下の命とあらば、否やはございません」


ということで、今後の方針が決まり、その場で幾つか話を詰めた。とりあえず、アブドームへの移動は、当初はカウンタール領を経由して馬車で向かうことになっていたが、カラートアミ教の転移門を使うことになった。つまり、こちらの王都からクェイトアミ山に転移し、更にそこからアブドームの王都に転移するのだ。


これは単に、移動が楽だからというだけでなく、私が精霊導師の仕事として、今回の魔物暴走に関する抗議を行うという体をとるからだ。まあ、公務で頻繁に外国に行っている外務大臣は非常に有難がっていたが。


また、今回の協議の内容についても話があった。最近アブドームからカウンタール領などへの移民が増えて、問題になっているそうで、その件についての協定を結ぶための協議らしい。


こちらとしては、雇用や治安などの関係で、受け入れにも限度があるからきちんと統制して貰いたいし、受け入れるための費用も貰いたいそうだけれど、あちらとしては、勝手に出て行く者への責任など取れないし、国民を増加させてやるのだからむしろこちらが金を貰いたいくらいだ、と主張しているそうだ。なるほど、それは色々難しそうだわ。


それと、最近のアブドームからの移民の荷物に毒虫が紛れ込んでおり、迷惑なので、きちんと出国の際には検査を行って貰いたいそうだ……って、もしかして、カウンタール領で見た、カイコのことか?


カウンタール侯爵には断られたが、養蚕業を興すことが出来れば、いい儲けになるし、文化的にも良いと思うんだよな……試しに提案してみるか。


「皆様、その毒虫の件で、提案がございます」


「む? 導師殿は、あの毒虫の事を知っているのかね」


「はい、大臣。先日、カウンタール領やヘキサディス領での巡回助言の際、駆除に協力致しましたので。……ただ、精霊が申すには、実はあの毒虫は、無毒化すれば、美しい糸が取れるとのことでございます」


そう言って、サンプルとして、1匹のカイコの幼虫と繭を異空間から取り出した。勿論無毒化済みで、色も白くしている。


「……おや? 確かこの毒虫は、幼虫も成虫も茶色だった筈だが?」


「はい。これは私が精霊の力を使って無毒化し、その際に区別が付くよう白色にしたものですわ。この芋虫が成虫である蛾になる際に、こちらの繭を作ってその中で蛹になります。この際、繭を熱湯で煮ることで、糸が取れるようになる筈ですわ」


陛下達は、幼虫と繭をじっくり見て考えた後


「……それが本当であれば、大量に飼育して産業化すれば、多大な利益を生むのではないか?」


「陛下、仰る通りでございますわ。ただ……以前カウンタール侯爵に同様の提案をさせて頂いたのですが、この虫を非常に嫌っていらしたので、お断りになられましたが」


「……まあ、それは仕方がない事だが……政府で研究する分には問題無かろう」


「では、農務省で研究させましょう。導師殿、後日担当者と調整を頼む」


「宰相閣下、承知致しました。……それと陛下、この虫を、アブドームでも研究させては如何でしょうか?」


「何故だ。あ奴らに富をもたらすことになるのではないか?」


「理由は2つございます。一つは、この虫はアブドーム原産でございますから、あちらの環境で育成することが、基本的には最も望ましい筈ですわ。こちらでは成功するかどうか、まだ未知数ですから、あちらとの連携は、保っておくべきかと存じます。もう一つは、現在のアブドームが、魔物暴走に対処することが困難となっている位に国力が低下しているからですわ。このため、ウェルスーラが属国化を狙っているそうですわね。今回使用された魔道具も、恐らくはその一環かと推察致します。それならば、ある程度アブドームの国力を回復させることは、我が国の安寧に繋がりますわ」


「……成程。宰相、外務大臣、どう思う」


「確かに、こちらが損害を被るわけではございませんし、提案する価値はあるでしょう」


「現状ではアブドームには、搾り取れるものがございませんが、これを産業化すれば、その限りではないでしょう。恩を売っておいて今後の交渉を有利に進めることも可能ですし、アブドーム内のウェルスーラの影響力を下げることも、期待出来るでしょう」


「よし。この件は精霊導師の案を元に進める」


カイコを活用したかったので、提案してみたが……うまく行きそうで何よりだよ。


さて、来週は外務大臣と共にアブドームへ行くことになったから、業務調整をして帰らないとね。とりあえず魔法大臣の所に行って報告した後、ニストラム秘書官に業務調整して貰い、早目に家へ戻った。暫くするとお兄様が戻って来て、労ってくれた。




次の日から、アブドームで養蚕の研究をして貰うため、養蚕に使用する道具をサンプルとして作ってみた。とは言っても、私の知識は社会見学で見た程度なので、大層な道具は作れないが、回転まぶしだけでも概略作っておけば、方向性は理解できるかもしれないからね……。


ということで、紙を作った時と同様、幾つか薪を貰って来た。ちなみに最近は、木をそのままの材質で、形だけ変形させることが可能になったのだ。前は金属でしか出来なかったのだけれどね。継ぎ目とかも無くなってしまうけれど、そこは工夫して作って貰おうかな。


社会見学で見たことを思い出しながら、色々試行錯誤して、回転まぶしを幾つか作成するとともに、カイコの育成方法を紙に記したりしているうちに、次の週となった。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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