第020話 テトラーデ領での滞在 1
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秋もそろそろ終わりだ。今年は寒くなるという予報があったので、少し憂鬱になっていたのだが、ある時両親に呼び出された。兄様もいた。何事かと思っていると、母様からの話があった。
「実はね、私の実家から、そろそろ貴方達を見せに来てくれないかという手紙が来たのよ。それに、今年は寒くなるから、暖かいところで過ごすのもよいかと思ったのよ。クリスは行けないけれど、貴方達はどうかしら?今の所、教育は順調すぎるくらいだと先生方から伺っているのだけれど」
どうやら、母様の実家のテトラーデ家に、母様や兄様と行くことができるそうだ。当然了承した。兄様も嬉しそうだ。ちなみにあちらは、叔父が数年前に家督を継いでおり、従兄弟が2人いると聞いている。確か私より1才年下の子と3才年下の子だったはずだ。
「ではこちらを雪が本格的に積もる前に出て、雪が融け出す頃に帰るよう予定を組みますから、移動が片道10日ほど。実家にはひと月ほどお世話になるわ。あちらでも勉強ができるように準備して頂戴」
気分は長めの冬休みだ。初めて領の外に出るからか、子供の様にワクワクしてきた。あ、今は子供か。
それから1か月後、母様や兄様と馬車に乗って出発した。使用人はメイリースを含めて5人、護衛もレイテアを含めて10人同行している。経路は北東街道を通り、トワイスノウ領、ノーナイスト領、デカントラル領を通過し、テトラーデ領に入る。今回は父様がいないので、通過する各領の領主に挨拶する必要はないが、父様がいた場合は挨拶に1日ずつ行程が遅れることになったらしい。まあ、付き合いもあるからね……。
約10日の行程は、基本的に大きな問題がなく順調に進んだ。馬車に乗るだけだと退屈なので、休憩の時にレイテアと鍛錬をしようとしたら、外でやってはいけないと母様に叱られたので、仕方なく魔力操作の鍛錬をやりつつ、母様から借りたテトラーデに関する資料を読んでいた。
テトラーデは王都に近いためか文化が発展しており、また、冬でも比較的暖かく、お茶が有名だ。北東部に山が多く、中央から南西部は平地になっている。海岸は結構入り組んでいて、小さい漁港が多く、貝の養殖が盛んだという。リアス式海岸みたいな感じなのだろうか。
それと、国王直轄地が隣にあって、そこには海兵団、所謂海軍の使う軍港があり、近隣の住民とのトラブルが絶えないらしい。今回近寄ることはないと思うので、とりあえずは安心だ。
道中、ノーナイスト領を通過中に、1度魔猪に遭遇した。この時、風精霊が私に警告してくれたので、母様達に伝えたところ、馬車に同乗していたキーファナが、インターホンの様な魔道具を使って、護衛達の乗る馬車に伝達していた。キーファナはメイド長なので、私が精霊と話ができることは伝えられている。伝達の際も「お嬢様が遠眼鏡で猪の魔物を見た」と言っていた。
慎重に進んでいると、魔猪が襲って来た。私も苦労した経験があるので、護衛達がどのように対処するのか興味があったのだが、なかなか見応えがあった。
レイテアともう1人の護衛が魔猪を引き付けている間に、大盾を持った1人を先頭に、後続の護衛達がスクラムを組んだ。それを確認したレイテア達が護衛達の方に移動すると、魔猪は今度は大盾を持った護衛に突進して来た。そこで、スクラムを組んだ護衛達が身体強化をして立ち向かい、大盾で魔猪の突進を止めてしまった。その隙をついたレイテア達が魔猪の横腹を剣で突き、倒した。うちの護衛達やるなぁ。
その後しばらく休憩となり、母様が護衛達を労った。魔猪の死体は、使い道があるそうで、簡単に血抜きをして馬車に乗せ、次の町で解体業者に引き取ってもらうらしい。私は、皆を褒め称えるとともに、参考とするため、他の魔物との戦い方なども聞いてみた。
魔犬程度なら一人で対処するが、基本はチームプレイで、誰かが囮になって引き付ける間に、別の者が隙をついて倒すそうだ。中でも魔熊の倒し方は面白かった。話を聞く限り、ロイドステアにいる熊は、ヒグマ程の大きさだそうだが……まず、囮役は大盾持ちに加え槍持ち。それを2組作って左右から近づくそうだ。
地球の熊がどうだったかは知らないが、こちらの熊は槍などが目の前にあると4足歩行をせず、立ち上がる習性があるらしい。つまり、槍持ちの役目は魔熊の突進を防止すること。ヒグマの突進は自動車並みと聞いたことがあるので、その対処は絶対に必要だろう。
その上で両側から近づき、魔熊を混乱させて強力な前足の一撃を躱しやすくしておいて、隙ができた所を誰かが背後に回って、斧で魔熊の後ろ足を攻撃し、立てなくなったところを、槍などでとどめを刺すそうだ。ただし、魔熊は非常にタフなので、言うほど簡単にはいかないそうだが。
仮に私が対戦するなら、突進時の力を利用して投げるだけでは、倒しきれない可能性が高そうだ。戦闘になった際は、既存の合気道の技にこだわらず、魔法など、単体で攻撃力のある方法で攻撃して倒す必要があるかもしれない。検討しておこう。
10日後、テトラーデ領の中心都市であるペアレム市に到着した。護衛が先行して連絡していたため、特に検問もなく、すんなり通ることができた。そのままテトラーデ伯爵邸に向かう。到着すると、叔父夫妻と従兄弟2人であろう人達が玄関で待っていた。母様や兄様と馬車を降り、叔父一家の前に移動した。
「久しぶりだね姉さん。変わらないようで安心したよ」
「貴方は威厳が出て来たわ。やはり立場は人を育てるのね。アルナは婚姻式以来ね」
「エヴァ義姉様お久しぶりです。暫くの間、こちらでゆっくりなさって下さい」
「で、姉さん、そちらの可愛らしい紳士と淑女は?」
さて兄様と私の挨拶だな。兄様が挨拶したら続いて挨拶しよう。
「叔父上、叔母上、初めまして。カイダリードです。暫くお世話になります。宜しくお願いします」
「叔父様、叔母様、初めまして。フィリストリアです。兄共々宜しくお願いします」
「もうそんなに立派な挨拶ができるのか。二人とも宜しく。ほら、お前達も、挨拶なさい」
「は、初めまして。アレク、シードです……」
「せ、せでぃでしゅ」
「まだ年少なので許してやってくれ。さあ、立ち話もこれくらいにして、中に入ろう」
叔父様に案内され、テトラーデ伯爵邸に入った。当初は談話室っぽい所に向かう。
談話室ではお互いの近況について話し合った。領地の話題などもあったが、やはりこういう時に盛り上がるのは、子供たちの教育の進捗状況だ。兄様は優秀で努力家だし、私も教育は順調なので、言われても問題ないが、大人びていると言われると、恐らく褒め言葉なのだろうが、一応中身は成人なので、微妙な気分だ。
一通り情報交換が終わった後、メイドに案内され、各人に割り当てられた部屋に向かった。ちなみに母様は昔使われた部屋のままだそうだ。とりあえず、うちの使用人達が整理した荷物を確認して、暫く休んでいると、呼び出しがあった。別邸の方に住んでいるお祖父様達に挨拶に向かうとのことだ。
別邸は同じ敷地内なので、叔父様に案内され、母様や兄様とともに歩いて行った。別邸に到着し、一室に案内され、お祖父様とお祖母様がいたので挨拶をした。その後はこちらの近況を報告していたのだが……何というか。
「カイは全体的に侯爵に似ておるな。ただ、目元はエヴァに似とるのう。魔法学校に入ったら令嬢達が放っておかんじゃろうな。早い所婚約者を決めてはどうじゃ」
「それを言うならフィリスなんてもう、マーサグリア様にそっくりですもの。王子殿下だって狙えるわよ。年齢で考えるなら第3王子のオスクダリウス殿下などどうかしら」
などと、結婚の話などされても判りませんよ。兄様と二人して苦笑いしてました。ちなみに私、王子様の名前とか、何人いるかとか、全く知らんので。
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(石は移動しました)