第203話 ビースレクナでの魔物暴走対応 2
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次の日早朝、叔父様が指揮している領軍や冒険者達とともに、侵攻経路上の砦に向かい、前進した。ビースレクナ領は、魔物暴走に備えて、ファンデスラの森の近くに幾つか砦がある。魔物の群れは、大体平地や山脚部に沿って移動するから、侵攻を阻止可能な地点に砦を作っているそうだ。
今日は砦に到着した後に準備を行い、明日の朝以降に、神獣達に魔物を追い立てて貰い、森から出て来た魔物の群れに対処することになっている。魔物の群れは一旦森を出てしまえば、人の多い……というか魔力の多い所に向かう習性があるそうなので、間違いなく、待ち構えていた領軍とぶつかることになるだろう。勿論、それが目的なので、恐れはあるだろうが皆戦うだろうし、そうでなければ生き残れないのだ。
私はレイテアの馬に乗せて貰い、途中までは領軍と一緒に移動していたが、最終的には別れてもう一方の経路上の砦に向かった。ちなみに、ミリナも領軍に参加した。魔法兵部隊に入ったらしい。魔法兵部隊は比較的後方にいるけれど、多くの魔物がやって来て混戦状態になると、そんなことも言っていられない。叔父様も本音では止めたかったのだろうけれど、貴族としての義務があるし、氷魔法を習得した魔法士なので、戦力になるのは間違いないから、渋々了承したようだった。
夕方に砦に到着した。念のため精霊に周囲を警戒して貰っているが、今の所は魔物の群れはこちらには来ていない。交替で警戒して貰いつつ、仮眠を取ることになった。私は周囲の地形を風精霊と感覚共有して確認し、明日の構想を立てた後、仮眠させて貰った。
朝になり、起床して食事を取っていたところ、猫神獣がやって来た。
『愛し子よ、手筈通り眷属に魔物を追い立てさせている。そのうちそちらにも向かうだろう』
「水龍様、有難うございます。配置に着きますわ」
食事が終了し、レイテア達と一緒に、昨夜決めておいた場所にやって来た。ここなら、結構開けているから、魔物の群れが全て森から出た後に攻撃出来るだろう。
「導師様……本当に我々だけで大丈夫なのでしょうか?」
私に付いて来ている5人の兵士達のうちの1人が、不安だった様で私に質問して来た。
「ええ。魔物自体は私だけで全滅させますわ。貴方達は、魔物が確実に死んだか、確認をお願いします」
「導師様がそう仰るなら、本当なのでしょうが……」
「今回私が行うのは、広範囲の無差別攻撃ですわ。ですが、恐らく貴方達には何をやっているのか判らないと思いますので、私が指示を出すまでは、決して私の前に出てはいけません」
「は、はい……承知致しました」
暫く待っていると、地響きの様な音が聞こえ始めた。私は風精霊と感覚共有し、上空から森を確認して、その内容を兵士達に知らせた。
「魔物の群れが2つ、ございますわね。一方はこちらに、もう一方は領軍の方に向かっておりますわ。数は……概ね、こちらが4割、あちらが6割、といった所でしょうか。先端はここから2キート程先ですわね」
「承知しました!」
私は感覚共有を解き、魔物達が姿を見せるのを待った。
暫くして、魔物達が森から姿を見せ、こちらへ向かって走って来た。まあ、魔力お化けの私がいるから、森から出たらここへ向かって来るよね……。魔犬、魔狼、魔猪、魔鹿、魔熊、これまで見た魔物達が大挙してやって来る様は、正直恐怖以外の何物でもないが……私は呼吸を整え、全ての魔物達が森から出て来るのを待った。
最後尾らしき魔物が森から出て来たのを確認し、私は右手を火精霊、左手を風精霊と同化させた。
「今から魔物の群れに攻撃しますわ! はあっ!」
私は、魔物の群れがいる地域周辺を空気の壁で囲んで魔物を閉じ込め、そして、壁の内側にある酸素を、一斉に上に移動させた!
私の方に走って来ていた魔物達は次々と倒れていった。
魔物とは言っても、元々動物なので、生きていくのに酸素は必要だ。空気中から酸素が無くなれば行動を停止し、数分で死に至る筈だ。酸素は火と風の属性を持つから、火精霊と同化して操作すると、一時的に酸素が無い空間を作ることが出来る。予め空気を操作して壁を作っておけば、壁の内側ではその状態を維持出来るから、その中に動物がいれば、当然死ぬ。
トロスの役においても、やろうと思えば出来たのだが、ノスフェトゥス軍を皆殺しにすると戦争が激化する可能性が高かったことから、実行することは無かった。今回は、これが一番効率的だったから、実行したのだ。
暫くすると、全ての魔物が動かなくなった。そろそろ大丈夫だろう。上に移動させた酸素と空気の壁を元に戻して、同化を解いた。
「兵士の皆様、魔物達の確認をお願いしますわ」
兵士達は、どうやらこの状況に呆然としていたようだが、私の言葉で我に返ったようだ。
「は、はい! 直ちに、魔物の状態を確認します!」
魔物達は一様に口を大きく開けて倒れ、泡を吹いていたが、もう微動だにすることもなく、兵士達も最初は心臓を貫いたりした後に生死を確認していたが、慣れるに従い、脈だけを診るようになった。どうやら、こちらは任せても良さそうだ。魔力もまだ十分残っているし、あちらの加勢に向かおう。
「私とレイテアは、領軍の加勢に向かいますわ」
と、兵士達に告げて、レイテアと一緒に身体強化をして、走って行った。それほど離れていないので、急げば10分程で着く筈だ。
風精霊に案内して貰い、獣道の様な細い道を通って移動した。途中で何体か魔物に出会ったが、全てレーザーで倒して、砦近傍の開けた場所に出た。すると、魔物達が砦に殺到しており、領軍や冒険者が戦っているのが見えた。建物があったりすると、先程の様な攻撃では範囲指定が難しく、領軍側も巻き込んでしまう。ここは、荒魂で一気に薙ぎ払うべきだろう。とりあえずは近くにいる目に付いた魔物を、レーザーで仕留めておく。
「レイテア、信号用の魔道具をお願いします!」
「承知しました!」
レイテアが魔道具に魔力を込め、上に投げると、一瞬眩しい光と大きな音が発生した。事前に定めていた、加勢時の合図だ。さて、私は和合しよう。
【我が魂の同胞たる水精霊よ。我と共に在れ】
和合を完了し、周囲の水属性のエネルギーを体に集める。今回水属性を使っているのは、水龍様が近くにいるためか、水属性のエネルギーが比較的集めやすかったことと、砦への影響を少なくするためだ。レイテアは周囲を警戒しているが、私が先程周囲の魔物を片付けためか、今の所は襲われていない。
暫くして、エネルギーが体に満ちた。今一度心を鎮め、脚を大きく開いた状態でしっかり大地を踏みしめ、右の掌を前に出し、左手を右手に添えた。先程の合図で一旦領軍や冒険者は砦の中に下がり、砦の前は魔物だけになった。脳波を感じて……よし、今だ!
「はっ!!」
瞬間、右掌から水属性のエネルギーと魔力が混ざったものが撃ち出され、放たれた青い光線は、砦の前にいた魔物達を薙ぎ払った!
光が収まった後、魔物達の多くは吹き飛ばされて動かなくなっていた。今回は地属性に対して攻撃力が弱まる水属性を使ったし、拡散する様に撃ったから、吸込岩を破壊した時とは違い、砦を破壊することはなかったが、代わりに広範囲に影響が及んでいた。近くの地面や森の一部が多少えぐれていたが、まあ、許容範囲だろう……。
状況を確認し、私は和合を解いた。
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