第202話 ビースレクナでの魔物暴走対応 1
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週初め、通常の業務中であったところ、珍しいことに、水龍様の使いである猫神獣が執務室にやって来た。ということは……魔物暴走が起こるのか?!
『愛し子よ、危急の案件だ』
以前会った時の雰囲気とは違うな。恐らくは……今の猫神獣は、水龍様が感覚共有をしている状態なのだろう。以前聞いた所によると、水龍様は、配下の神獣と、いつでも感覚共有が出来るという話だったからね。
「水龍様ですわね。どうなさいましたか?」
『ファンデスラの森に、多くの魔物が誕生し、ビースレクナ領に向かって移動しておるようだ』
「規模は如何程でございましょうか」
『千体を超える。人の手には余るやも知れぬ』
「水龍様がお力を揮えば、地形すら変わってしまうと聞き及んでおりますわ。可能な限り、人の手で対応させて下さいませ」
実際に見たことは無いが、四龍の力は凄まじいものだ、と伝承やカラートアミ教の経典などで伝わっている。今回は私もいるし、水龍様に直接力を揮って頂く前に、何とかしたいものだ。
いずれにせよ、直ちに対処しなければならない事案だ。猫神獣(と感覚共有した水龍様)を連れて宰相閣下の所へ行き、説明した。
「水龍様、貴重な情報を頂き感謝致します。導師殿、直ちにビースレクナ領へ向かい、魔物暴走対処に助力して貰いたい」
「宰相閣下、承知致しました」
ビースレクナ領には、既に水龍様が状況を伝えていたそうで、今は領軍が準備をしている所だと、先程ビースレクナ侯爵王都邸から連絡があった。私は導師服に着替えて、レイテアと一緒に宰相府の馬車に乗って、ビースレクナ侯爵王都邸に移動した。転移門を使わせて貰おうとしたところ、そこにミリナがやって来た。
「話は伺いましたわ。私も同行して宜しいかしら?」
「侯爵の許可を頂いているのでしたら、私は問題ございませんわ」
「先程、『私も同行します!』 と本邸の方に連絡しておきましたから。それに、氷魔法の練度も上がりましたし、戦力にはなりますわ」
「……そうですか。では、参りましょう」
まあ、誰が止めてもついて来そうだから、仕方無いだろう。なお、猫神獣は、鳥神獣に乗って先にダリブノウ山に帰った。2時間もあれば到着出来るそうだが……私が乗って飛ぶのには危険な速度だから、機会があっても遠慮させて頂こう。
ビースレクナ侯爵本邸に転移すると、使用人達が慌ただしく動いていた。その中の一人が私達に気付き
「お嬢様と導師様が来られたぞ!」
と言って、こちらにやって来て、領行政舎の方に案内してくれた。どうやら、対策本部が立ち上がったらしい。巡回助言の際に使用した会議室に向かう。
「おお、導師殿、よくぞいらっしゃった」
叔父様は、微妙にミリナを無視している。本当は来て欲しくなかったのだろうな……。
「侯爵、宰相閣下の命を受け、魔物暴走対処に助力致しますわ。現在はどのような状況でしょうか」
「丁度今から対策会議を開く所でしたので、ご参加下さい」
よく見れば、行政官達や領軍長、冒険者組合長なども会議室にいた。それに、犬のような姿をした神獣もいた。恐らくこの神獣が、状況を知らせてくれたのだろう。今はどうやら、水龍様が感覚共有しているようだ。
対策会議が始まった。まずは現状の説明。魔物達は、まだファンデスラの森を出てはいないらしい。数は水龍様からの情報である『千体以上』というものをそのまま使用している。今も増殖を続けているので、最終的には何体になるか不明だが、今森の中に入っても全容が掴めない上に危険なので、現在は魔物の群れが、いつ、どの方向に向かうかという点に絞り、遠視の恩寵を持つ者などにより、情報収集を行っているそうだ。まあ、私が感覚共有で探っても、概略の数字しか判らないだろうし、この辺りは領軍に任せよう。
対して領軍は総員で約2万人いるが、領内の各町村における最低限の衛兵を除いて、現在投入可能な領兵は約3000名。ビースレクナ領への魔物の来襲が急だったため、遠方の町村からの招集が間に合わないそうだ。現在対応可能な冒険者達を加えても、3500名くらいらしい。魔物の種類にもよるが、平均的な強さで考えると、魔物1体につき5人で対応すれば戦力的に互角らしいので、魔物千体以上が相手では、正直阻止できるか不明、という話だ。
また、魔物の群れの出現予測地点も問題のようだ。現在魔物の群れがいるであろう地域からは、地形の関係上大きく3つの経路があり、現段階では魔物がどの経路を通って来るか予測が出来ないので、対処部隊を3等分しないといけないそうだ。勿論、魔物が1方向からのみ来るわけではないし、恐らくは出現時期や数に偏りが出来る筈だ。
そうなると、魔物の主侵攻経路に当たった部隊が侵攻を阻止している間に、対処の終わった経路から増援を出して対処する形にするか、当初から予備部隊を編成し、主侵攻経路が判明した段階で増援に入るという形となるため、戦力が分散し、更に被害が増すことになるだろう、ということだった。
「分かった。現状は非常に厳しいが、我々は領民を守るために戦わねばならん。……ただ、今回は導師殿が助力して下さる。導師殿、我々は導師殿のお力を存じませんが、現状ではどの程度の助力を頂けるのでしょうか?」
今回は相手が人間ではなく魔物だ。殲滅しても問題は無いだろうから、トロス砦では使えなかった手段が使えるし、荒魂もある。何にせよ広範囲に攻撃するから、領軍と共闘する場合には気を付けないといけないが。
「……そうですわね。まず、この3経路のうち、1経路は私が担当しても問題ございませんわ。私の他、護衛のレイテアを含めて数名程付けて頂ければ、魔物が何体来ようと殲滅してご覧に入れましょう」
「何と! そこまでの力をお持ちとは……」
「その後、余裕があれば他経路にも加勢が可能ですが……その場合は一旦魔物から距離を取って頂ければ、相当数を排除出来ると思いますわ」
『ふむ。では、我が威圧して魔物の群れを圧迫し、経路を2本に絞るのはどうだ?』
「成程! それならば領軍を1経路に集中出来ますので、対処が可能となるでしょう!」
『それと、現段階では魔物が森から出る時期が読めんが、眷属達に追い立てさせれば、時期の調整は概ね可能だ。ただ、時期を引き延ばすのは、魔物が更に増殖するため、奨めんが』
「おお、有難い! では、態勢が整う2日後早朝以降に宜しくお願いします」
私と水龍様の発言により、行動方針が定まり、細部の要領を詰めて会議は終了した。
領軍と冒険者有志は、明日早朝に出発することとなり、現在は準備中だ。私はそれに合わせて移動し、途中で別経路方向に分かれ、その経路上にある砦に向かうことになった。私自身は特に準備は不要なので、やる事は精々休息を取るくらいだ。ということで、犬神獣……と感覚共有している水龍様と話をした。
『愛し子よ、先程は言わなんだが、今回の魔物の動きには、少々不審な点があるのだ』
「どのような点でしょうか?」
『実は、魔物の群れは、当初はアブドーム側に向かっていたのだ。このため、眷属を向かわせ、アブドーム側の領主に知らせたのだが、それから暫くして、魔物共の進行方向が変化し、反対側のこちらに向かって来たのだ。この地の監視を命じられて以来、初めて見た事象だ』
「それは……先程水龍様が仰った、神獣様達による魔物の誘導と似た現象ですわね……」
『その通りだ。だが、我はその様なことを指示しておらぬ。誘導の間にも、魔物が増殖するからな。現に今回は、当初の数から倍以上に増殖しておる』
「水龍様がその様な事をなさる筈はございませんから、低確率で発生する、何かの偶然の可能性もございますわね……いずれにせよ、注意致しますわ」
もしかすると、アブドーム側から何らかの仕掛けが行われたかもしれないが……そういったことが可能なのかを判断する材料が無いから、今は魔物暴走への対処に集中しよう。
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