第200話 様々な研究に協力した
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4月に入った。とりあえず、1日は私の誕生日なので、非常に多くの贈り物が届いている。有難いことなのだろうけれど、本当に祝ってくれている人達がこの中のどれくらいになるかを考えると、正直気が滅入るので、考えないことにして出勤する。
基本的には業者に仕分けして貰い、リストを見てお礼の手紙を出したり、こちらも誕生日などに贈り物を出さないといけない人には、クラリアに手配して貰うことになる。勿論、家族や親しい人には私自身で贈り物を選ぶけれども。
さて、今日は農業課長が来ることになっていたから、品種改良の件かな? と考えながら書類を読んでいると、ニストラム秘書官の案内で、ベルロアーズ農業課長が入って来た。
「導師様、先日の品種改良支援の件、大臣の認可を頂いて参りました。今後も宜しくお願いします」
「承知致しました。今後の業務で幾つかお話ししたいことがございますので、そちらにお座り下さい」
それから、今後の品種改良の種類やスケジュールなどについて話した。当座は小麦や大麦、ぶどうや野いちごなどを、より美味しく改良したいと考えているそうだ。特に大麦については、食用とビール用を明確に区分したいらしい。そう言えば前世でも、二条大麦はビール用、六条大麦は食用、といった区別があったなあ……ああいう感じか。
それと、リストの中に柑橘類も入っていたので、ついでにレモン系統への改良も付け加えて貰うことにした。あと、イクスルード侯爵から、さつまいもの共同研究の話があり、協力することになったと報告された。来週には一度、農業課に行くことになり、参考資料も頂いて、話は終了した。
業務が終了して家に戻り、更に増えていた贈り物の山の仕分けをする業者の人に激励してから部屋に戻り、ささやかながら私の11才の誕生パーティーが開かれた。まあ、参加者は私とお兄様だけなのだが。
今日は通常業務の日だが、書類に目を通していると、ヴェルドレイク様がやって来た。先日、やって来ると言っていたからね……話を聞いてみよう。
「実は、数値を入出力する際の機能をどうしようかと悩んでおります。現状の計測器などで使用されている手段は、数の大きさを目盛の進度で判断しておりますので、入出力の際に解りづらいですし、誤りが発生する頻度が高いのです。何かもっと良い方法がないかと思案しておりまして……」
なるほど……。要するに、デジタル表示板のような機能を付けて、入出力に連動させればいいのかな。液晶はまだ早いだろうし、7セグメント表示を利用できないかな? 偶然と言って良いのか、フィアース語の数字は、7セグメント表示で表すことが可能な形だし、一度話してみるか。
「……ヴェルドレイク様、魔力を与えれば光る素材などは、ございますか?」
「ええ、魔石や、魔石屑などは、魔力を与えれば光りますね」
「では、7本の棒のような区画を、このように配置して、10進数に変換されている状態で、桁の数字が1の時は、ここの区画に魔力を流せば……このように『1』を表示できます。2については……」
このように、数字分のパターンを説明し、可能かどうか尋ねてみたところ
「……これなら……これなら……ああ、可能だ! こんな方法があったなんて……これを使えば、計算具だけでなく、計測用魔道具なども、数値が判り易くなる! 有難う!」
「ヴェルドレイク様、感謝して頂けるのは有難いのですが……手を離して下さいませ」
「え! あ、失礼しました!」
そう言ってヴェルドレイク様は、慌てて礼をして退室して行った。手を避けるのは簡単なのだけれど、子供の様に喜ぶ顔を見ると、まあいいかな、と思ってしまうのよね……。
今日は魔法研究所に用があり、朝から出向いている。まず、共通研究室を訪ねた。
「キュレーニル研究員殿、魔力循環不全症の論文を確認に参りましたわ」
「おお、導師様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
共通研究室にある空き机の一つに案内され、論文の案を拝見させてもらう。なるほど、魔力循環不全症という現象の説明、そして患者の治療に関するデータ、それらから得られた治療法及び予防に関する推論が記載されている。
まあ、治療法が「全属性者が患者と同調した上で魔力操作を実施する」というのは、現段階で私にしか出来ないと言っているようなものなので、他にも研究の余地はあるのだろうけれど、そこは今後の課題だろう。さしあたって、今は困っている患者達を救えるのは私だけなのだ。仕方がない。
あと、リハビリの際に効果的だったとして、例の体操のやり方が書いてあった。直接私は教えていないので、リーズがキュレーニル研究員に教えたのだろう。世間に広まるのはやぶさかではないけれど。
「なるほど、内容は私からは何も申す事はございませんわ。ただ……予防に関しては、早急に普及して行く必要があるでしょう。リーディラゼフト殿下が誕生され、また、貴族の方々の出生率も上がっているのですから」
「確かに! まさに今、生かさなければならない知識ですね。有難うございます」
何せ、病気に罹る事がまれなフィアース人の中で、生活水準が高い貴族の死亡理由のかなり高い割合を占めているのが魔力循環不全症だ。重度患者ならば、発症後1年以内には死亡、中程度なら成人するまで五分五分、軽度ならば多くが生き残ると言われているが、それでも魔法が使えず、体も貧弱であるということで、貴族としてのまともな生活が出来ずに、貴族籍から離れる者が殆どだそうだ。
実際、私がこれまで施術した患者は子供ばかりだ。そうでない患者は、既に亡くなったか、平民として暮らしているようだ。成人してから治しても意味があまりない病気だという判断からそうなったと聞いているが……。
病気の原因としては、魔力量の比較的多い者が、赤子の時に高熱などの影響で滞留した魔力が、魂の感化から外れることで発生すると、この論文では推察されているが、仮にそのような状況に陥った場合、同属性の者が、体の末端部などに手を当てて魔力を放出し、魔力循環を補助することで予防が出来るだろうと結論付けられている。是非この論文を生かして、悲劇を回避して貰いたいものだ。
論文を確認した後、準備して貰った昼食を頂いて、地属性研究室にも顔を出した。
ビルゲルード室長以下、多くの室員が重力魔法の研究を行っていたので参加しつつ、習得中の方には指導したりした。暫くするとオスクダリウス殿下もやってきたので、重力魔法の練習を確認したり、学校の様子などを聞いたりして過ごした。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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