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第198話 グラスリンド帝国第2皇子 カルロベイナス・サナ・スリンドル視点

お読み頂き有難うございます。

100万PVを達成しました!ブックマーク数や評価Pも増えてきました。

有難うございます!

宜しくお願いします。

俺はしがない騎士の家で生まれ育ったが、騎士団に入り、他国との戦闘において数々の武勲を挙げた。最終的に1個部隊の長となり、子爵位を与えられるまでに出世した。元々剣の才能を持っていたのかもしれないが、王家の剣術指南をやっていた父の知人に師事出来たのも、大きかったのだろう。


ということで個人的にはあまり悔いがない人生だったが、我が王家に大陸制覇を捧げる事が出来なかったのが心残りだ……と思いながら、子供達に看取られながら神の御許に向かった。




……それなのに、何故俺は今、赤子となって乳母らしき人物に抱かれているのだ? 一体何が起こった?


非常に動揺したが、現状をとりあえず受け入れ、情報を収集した。どうやら、ここは帝国という国で、俺は皇帝? の息子の一人らしい。はて? 帝国などという国は、聞いたことが無いが……。まあ、権力者の息子なら、当座は安泰だろうと考え、のんびりと過ごすことにしたのだが……その考えは、数日後には改まった。暗殺されそうになったのだ。


幸い、窓の外にいた暗殺者の殺気に気付き、大声で泣いたところ、やって来た乳母が暗殺者に気付いて警備兵を呼んだため、事無きを得たが……可及的速やかに、自衛が出来るようにならなければ、と決意した。


その日から、赤子の体を出来る限り動かせるよう、意識のある間は基本的に運動を行った。重傷者に対して、通常の生活が可能なように回復させるための運動程度だが、それでも当初は厳しかった。また、身体強化を行えるようにするため、魔力操作を練習するようにした。魔法はあまり得意ではなかったが、命が掛かっている以上、仕方がない。





状況が不明な中、何とか生き続けて数年経ち、俺は5才になった。その間も何度か暗殺者に襲われたり、食事に毒を入れられたりしたが、対処出来た。やはり体が動けるようになるのはいい。毒については、3才くらいの頃に教育を受けたのだが、この体は味覚や嗅覚がかなり鋭敏のようで、毒の入った食事がすぐに判るようになった。まあ、今後も油断はしないがな。


更に、自分でも書物が読めるようになり、色々調べた結果、恐ろしい事実が明らかになった。このグラスリンド帝国という国は、セベクティラ国が他の3つの国、サナクリーア国、ホロカボーカ国、ハプサナブラ国を併合してヴァルザー大陸を統一した結果誕生した国だったのだ! 俺はかつての祖国、サナクリーア国が滅亡したことを知り、涙した。


だが、もう今の俺にはどうしようもないのだと思い直した。


俺は現在、帝都にある帝城区域の一画にある後宮の建物の一つに住んでいるそうで、皇帝は最低でも4家から妃を迎えることを初代から続けており、俺の父親である、4代目たる今上帝についても同様だ。その4家とは、セベクティラ大公、サナクリーア大公、ホロカボーカ大公、ハプサナブラ大公の4大公、つまり旧王家の血筋を持つ家だ。


その時、俺は気付いた。俺の名が「カルロベイナス・サナ・スリンドル」であり、「サナ」の名を持つということは、俺の生母がサナクリーア家の者であるということだ。もしかすると、神が俺に、サナクリーアの血をもって、帝位につくという使命を与えたのやもしれん。そう考えれば、俺の今の境遇についても、納得できる。


俺は第2皇子なので帝位を望んでは国が乱れる元だ、と考えていたのだが、それは違うのではないか、と思うようになった。そもそも、建国帝、最後のセベクティラ国王は、伝え聞く所によると、俺と同様に複数属性者であったらしい。


建国帝は戦の天才で、他国との戦に勝ち続けて属国化し、大陸統一を成し遂げたそうだ。そういった話もあり、俺に対する周囲の期待は高く、また、政敵である3家からも危険視されているようだ。だから頻繁に暗殺されそうになっていたのだ。


帝国が建国されたのが、ユレート歴1460年だということなので、俺の死後100年ほど経った頃の話らしい。現在がユレート歴1512年らしいから、建国してまだ52年か。国としては若造だが、国力は最大だろう。皇帝の権力に焦がれるのも、当然か。





俺は、密かに皇帝を目指すことにした。正直、各種教養も礼儀作法も魔法も、乗り気ではなかったが淡々とこなした。やはり俺の本領は剣術だ。初めは騎士団の部隊長が教えに来ていたが、体の成長とともに昔の勘を取り戻し、訓練場へ赴き、騎士団の皆と訓練するようになった。騎士団の皆は、最初はお遊びだと思っていた様だが、俺の実力を見て、本気で相手をするようになった。そうでないと、俺も練度が上がらんから、有難い。


11才になった頃には、騎士団の強者とも互角の戦いが出来るようになった。また、騎士団と共に訓練しているところから、軍関係者からの支持が高まったので、権力基盤の構築にも良い事だ。





一方、俺と帝位を争う兄弟達の情報も集めていた。帝位継承権を持つ皇子は5人いるが、うち3人はまだ幼く、現段階では競争相手は第1皇子だけだ。一応あちらの方が先に生まれたのだが、ほんの数週程度しか違わないらしい。


しかも、侍女達の噂話などによると、俺は本来なら第1皇子だったらしいのだが、少し後に身籠ったセベクティラ家から嫁いだ妃が、怪しい薬を用いて予定より早めに出産した結果、第1皇子が生まれたそうだ。事の真偽は定かではないが、兄上は魔法の才能はそれなりにあるものの、あまり体が強い方ではないらしいし、その影響が出たのかもしれん。


とはいえ、基本的には第1皇子を皇太子に指名する傾向にあることは否めない。剣術以外にも、何か帝位に有利となる存在はないものか、と日々考えていたところ、ロイドステア国から、ある少女を精霊導師に任命した、という通知が届いた。俺はその時、精霊導師という者がどのような存在なのか知らなかったが、皇帝である父上や、宰相その他の主要な閣僚が集まり、緊急会議をすることとなった。この会議には兄上と俺も呼ばれて参加した。


とりあえず話を聞いていたところ、精霊導師とは、精霊の長である精霊女王の加護を持ち、自然すら操ることが出来る存在らしい。その力は人知を超え、ロイドステア国はその力をもって、一地方の領主が国王となり建国され、そして先日も、十倍以上の兵力差を物ともせず、隣国からの侵攻を阻止したそうだ。緊急会議が開かれたのも当然か。


そして、精霊導師への対応をどうするかが話し合われた。基本的には大陸が異なることもあり、大きな影響を及ぼすことは無いが、ロイドステアの国力が大幅に増強されるのは確実であることから、関係強化を図る方向で話が進んだ。また、精霊導師自身にも、何らかの対応はするべきであるという話が出た。当座は情報収集を行うとともに、婚姻の申し出をすることになるようだ。なるほど、だから兄上や俺が呼ばれたのか。


父上は、まずは兄上の方に問うたが、兄上はやんわりと断った。まあ、兄上は従兄妹であるセベクティラ大公の娘と仲が良いし、皇帝になった場合は他の3家からも娶ることを考え、忌避したのだろう。まあ、女は弱いくせに面倒な存在だしな。


父上は次に俺に問うた。俺は……承諾した。話を聞く限り、仮に帝国に取り込めるなら、間違いなく国益に叶う。うまく使えば俺が皇帝となる事への後押しになるだろう。妃だのなんだのは、それに比べれば些細な事だ。まあ、正妃に据えれば問題はあるまい。


緊急会議は終了し、当座の行動方針は決まった。俺の婚姻相手の候補も決まったが、優先的に情報を入手できるから、そこは利点か。とりあえず、会議の場で話された内容だと、容姿については、絶世と言える程の美少女らしい。また、魔力についても非常に高いという噂が入っているが、この辺りは交易港のある西の公爵領での情報らしいから確定では無いが、まあ、精霊導師なのだから間違いではなかろう。


問題は、全属性である、という点だ。それを聞いた時、父上が詳細を確認したのも頷ける。そんな人間は通常存在しないからだ。考えられるとすれば、俺の様に前世を持つ人間だろう。俺は自分の前世を誰かに話した事は無いが、初代皇帝の逸話を書物で知るにつれ、複数属性者は前世を持つ者なのでは? という考えに至ったのだ。


他にもヴァルザー大陸の歴史上に何人かの複数属性者が登場している。恐らくは前世の知識や技能を生かして活躍した人物達だったのだろう。8才にして精霊導師などという存在である彼女も、そうであると考えた方が納得が行く。であるならば……少々取扱いが厄介になりそうな気はするが……今後入手する情報で判断するか。





それから数年。俺は13才になり、前世より更に剣の腕を上げた俺は、特例で武術大会に参加して優勝し、存在感を示した……のは良いが、最近は夜会の度に女が寄って来るのが面倒だ。まあ、しつこい女に威圧したら、真っ青な顔になってその場に倒れ、会場の外に運ばれたがな。


例の精霊導師についても、色々情報が入っていた。どうやら、その力を使って国内を発展させつつあるようだ。災害の対処も行っており、国内では英雄的な扱いのようだが……それを他国が聞いた場合、恐怖するのか、羨むのか、自国に取り込みたくなるか、亡き者としようとするか。


とりあえず我が国は、丁度需要が高まっていたこともあり、砂糖をロイドステア国からも輸入することになった。何せ、新たに砂糖を生産することとなった領は、彼女の家が統治する領だからな。こういった所から縁を繋ぐのは定石だ。


更に良い情報が入った。今度の3月末に、我が国と交流の深いウェルスカレン公爵家の長女が、あちらの第2王子と婚姻するそうだ。この際開かれる祝宴は、婿入りのため領で行われるが、どうやらあの精霊導師も参加する可能性が高いそうだ。この祝宴には、我が国からも使者を送る予定だが、丁度良い機会だ、俺が直接精霊導師という存在を検分してやろうではないか。





こうして海を渡って西公府の港に到着し、帝国領事館で現地情報を収集して、精霊導師も参加することを確認した上で祝宴に参加した。大使か領事が参加するのが通例であるところ、俺が参加したことにロイドステア側も不審に思っているかもしれないが、今後益々関係を強化したいという話で、国王や西公には挨拶しておいた。そして、本命である精霊導師は……俺の予想を嬉しい意味で裏切った存在だった。


その美しさもさることながら、あれは、相当の手練れだ。剣を嗜んでいるという噂は領事館でも確認していたが、あの、周囲と調和しつつも隙をまるで感じない存在、あれは俺でも倒すのに苦労するだろう。これで来月11才になるというのだから、末恐ろしい。試しに会話の中で威圧を掛けてみたが、関係無い周囲の者が身震いする中、当の本人は容易く受け流し、平然と振る舞った。……面白い!


もし普通の令嬢なら、俺が威圧を掛ければ、恐怖のあまり気絶するか、俺に従属するかなのだがな……。ただ、是非一度対戦してみたいと言ったところ、警戒されているからか、断られたが……本心では、望んでいるように思えた。これを足掛かりにして、こちらへの取り込みを図りたいところだが……。


とはいえ、今後は接触を増やしていきたい所だな。そうだ、あの話があったな。帰ったら手配しよう。地盤固めも悪くないが、どうせ現状は兄が有利なのだ。その有利を覆す一手を狙った方が効果的だからな。これまでは、女など単なる道具だとしか思っていなかったが……あの女となら、権謀術数渦巻く帝都でも、楽しく暮らしていけそうだ。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

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宜しくお願いします。


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