第194話 王太子妃殿下が出産された
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
今日はクインセプト領の巡回助言だ。通常なら1~2日開けるのだが、王太子妃殿下の出産が控えているため、早目に終了させるよう予定を立てているのだ。
今回、王都のクインセプト伯爵邸は改装が終わっていなかったものの、転移門付近は改装が終了していたので、普通に使わせて貰い、クインセプト領に転移した。その後はいつも通り領行政舎で巡回助言を行ったが、クインセプト領にも国王直轄地であるセンドルクがあり、第2歩兵隊1万4千名が駐屯していたので、トリセント領と同様、強い悪意についても確認するという話があり、助手のサリエラは興味深そうに聞いていた。
一部の改善点は見られたが、巡回助言は滞りなく終了し、クインセプト本邸で宿泊させて貰った。夕食の際に伯爵一家と話をしたが、伯爵からは以前に魔素溜まりを浄化した時の御礼を改めて言われた。伯爵夫人は結構活動的な方の様で、色々面白い話が聞けたし、相変わらず伯爵令息は恥ずかしがっていた。
次の日、精霊術士候補を1名確認したりした後、王都に戻った。
今日は通常の業務だが……王城やステア政府内は、少なくない人達が何かを待っているような、少々変わった雰囲気だった。そのような中、精霊課長が、新しく配置された精霊術士達を連れて、執務室に来た。
ビースレクナから4名、火属性の10才、イレーラ・イスプル、風属性の12才、レジーラ・スクロー、水属性の11才、ナテルア・ペリング、水属性の10才、レクシィ・ダクトル。カウンタールから1名、地属性の12才、グルミラ・シトガン。王都出身の1名、火属性の10才、レフィメア・オストフ。ディクセントから2名、地属性の12才、ラクステ・テドーラ、水属性の11才、イートナ・ウルドル。イクスルードから3名、風属性の12才、ピアーラ・エクミル、火属性の11才、シレーラ・サプラー、地属性の10才、サトリア・シダート。
計11名の新人精霊術士から挨拶を受けたが……流石に多いので、以前から知っているイレーラ以外は今後勤務していく中で特徴を覚えていこう。そういえば、レフィメア・オストフは、同姓であることから分かる様に、フェルダナと関係がある。ただし、王都の孤児院出身であり、元々の姓が不明だったため、孤児院長の姓を名乗っているという話なので、血縁関係ではないようだが。
フェルダナはたまに孤児院に顔を出しており、レフィメアから精霊が見えることに関して相談を受けていたそうだ。このことは先日、巡回助言に行った際、移動中の馬車の中でフェルダナが話してくれた。これから精霊課で一緒に働けることを喜んでいるようだった。
数日は通常の業務が続き、週末の日を迎えた。まあ、予定を変更し易くした結果であるけれども。しかしそれは、私の元に急いでやって来た侍従によって終わりを告げた。
「導師様! 王太子妃殿下が産気づかれました。至急サウスエッドに向かって下さい」
「侍従殿、承知致しましたわ」
手筈通り、私はレイテアを伴ってサウスエッドへの転移門へ向かうと、同行する侍従がおり、サウスエッドに転移した。今回の私の仕事は純然たる移動の支援であるため転移門で待機し、同行した侍従がサウスエッド国王達を呼びに行った。ちなみにこの侍従は、王太子妃殿下の輿入れの際にサウスエッドから来た侍従・侍女のうちの一人だそうだ。
暫く待っていると、サウスエッド国王、王妃が侍従・侍女、警護騎士達の集団を引き連れてやって来たので、跪いて礼をする。
「おお、導師殿、早速頼む」
「承知致しました」
全員が範囲内にいるのを確かめ、転移門を起動させ、ロイドステアに転移した。風景が切り替わった途端
「さあ、レイナの所へ案内せよ」
と、同行していた侍従に命じ、国王達は移動を始めた。かなりの速足だ。私も続いて移動する。王城の一室の前に王太子殿下がおり、サウスエッド国王達に礼をした。案内した侍従が
「こちらで出産を行っております」
と説明したところ、サウスエッド国王が扉を開けて入ろうとしたが
「出産に関係のない者が立ち入ることは、陛下であっても許されませんわ」
と、王妃が止めていた。そのまま、隣室に案内され、待機することになったようだ。
こちらの世界では、出産の際には医者や助産婦が呼ばれるのは勿論の事、貴族や裕福な者の場合は、体調回復などのために神官を立ち会わせる。これで死産や、産後の肥立ちが悪くて母親が亡くなることが少ないそうだ。平民はそれなりにあるそうだけれど。当然今回も、大聖堂から優秀な女性の神官がやって来ているそうなので、命の危険は殆ど無いだろう。私はその場を辞し、執務室に戻った。
風精霊に、産まれそうになったら教えて欲しいと頼み、次の巡回助言の資料などを読んでいたところ
『愛し子~、そろそろ産まれるよ!』
と、呼ばれたので、風精霊と感覚共有して、出産を行っている部屋の前に飛んで行く。暫く待っていると、微かに泣き声が聞こえ、助産婦らしき人が隣の部屋に行き
「お生まれになられました! 王子殿下でございます!」
その言葉を聞いた王太子殿下、サウスエッド国王、王妃が隣の部屋に走って行く。扉から、助産婦が生まれた王子殿下を白い布に包み、抱きながら出て来た。最初に王太子殿下が、その後はサウスエッド国王と王妃が王子殿下を抱いていたが……サウスエッド国王は感激のあまり泣きながら抱いていた。暫くすると、後産や体調回復の処置も終わったのか、侍医が部屋の外に呼びに来た。皆に続いて私もこっそり中に入ってみる。
王太子妃殿下は、疲労のためか顔色が悪かったが、満足そうな表情だった。王太子殿下やサウスエッド国王、王妃が声を掛けている。暫くすると国王陛下や王妃殿下もやって来て、結構騒がしくなって来たので部屋を離れて、執務室に戻った。送るのは明日になるから、とりあえず今日のところはお役御免かな。
王太子妃ご出産、王子殿下誕生の知らせは、瞬く間に王都中に伝わり、その日の夜には既に王都内の各所でお祝いの宴が開かれていた。ただし、王都の治安の任務も持つ国軍の近衛騎士隊や近衛兵隊は、逆に警戒が厳重になったりしていた。こういう時を狙って発生する犯罪も結構あるからだ。
また、当の王子殿下がいる、精霊が入れない魔法禁止の部屋についても、かなり厳重に警護されていた。確かに、今なら簡単に命を奪えるわけだから、狙われやすいよね……。聞いた話では、警護騎士や乳母、その他王子付の侍従・侍女は、体制派側の人間を配置しているということだ。生まれた時から権力闘争に巻き込まれるとは……王家の方々も大変だわ。
私の方は、休日ではあったが出勤し、サウスエッド国王達を転移門で送り、輸送任務を終了したのだが……国王が帰りたくないと駄々をこね、王妃に叱られる場面に遭遇してしまった。まあ、見なかったことにしておこう。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。