第193話 カルテリア領の巡回助言と魔力循環不全症の施術を行った
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今週は巡回助言が2領ある。カルテリアとクインセプトだ。両方とも領主家には行った事があるし、カルテリアはお祖母様の実家、クインセプトは体制派なので、あまり警戒する必要は無さそうだ。ただし、王太子妃殿下の出産予定日が近いので、予定変更の可能性を念頭に置いて行動しよう。
週初めからカルテリアの巡回助言なので、王都のカルテリア伯爵邸に向かった。今回、初の試みとして、魔力循環不全症の施術も併せて行うことになっており、魔法研究所からも、以前アルカドール領に行って、リーズの状態を確認していた研究員、アトルノート・キュレーニル男爵が来ていた。今回の助手のラフトリーザにも、念のため状況を説明したが、いつもの様に無言で頷いていた。挨拶をした後、転移門を使ってカルテリア伯爵本邸に転移した。
本邸からは、通常であれば領行政舎に向かうところだが、今回はまず魔力循環不全症の患者の所へ向かった。患者は、行政官の息子さんで3才だそうだ。症状の区分は重症で、殆ど寝たきりの状態らしい。それは一刻も早く施術しないとね。
行政官邸に到着すると、行政官夫妻が待っていた。軽く挨拶をした後、患者がいる部屋に向かった。患者は現在眠っているが、顔は血色が悪く、体もあまり育っていないようだ。見た感じ、確かに魔力循環が全体的に滞っている。両親に許可を取って、キュレーニル研究員が計測用の魔道具などを取り付け、私は施術について説明した。
「本当にそのようなことが……導師様! お願いします! このままの状態が続けば、息子は、遠からず命を落とすでしょう。最早、導師様にすがるしか方法が無いのです!」
「勿論、施術を行わせて頂きますわ。私はその為に来たのですから」
取付けが終わり、現在の状態を把握して貰った。やはり、状態は悪いらしいが、まだ何とかなる筈だ。
私は、両親に断りを入れて、施術を始めた。患者の丹田に手を当て、ゆっくりと私の魔力に同調させていく。体中の魔力を掌握した後は、魔力を体の隅々まで循環させ、次第に通常の魔力循環の速度に戻して行く。暫くすると
「導師様、魔力循環の数値が正常値となりました!」
とキュレーニル研究員からの報告があり、そこから暫く私の方で魔力循環を制御した後、同調を切った。
それからも計測を続けて貰ったが、正常値を維持出来ているので、施術は成功だ。リーズの時とは違い、計測して貰っているから私もやり易いし、より効果的に施術を行えた筈だ。
「施術は成功しましたわ。これで、状態は改善に向かうでしょう」
「本当ですか! ああ、導師様、有難うございます!」
「勿論、これで完治したわけではございません。今後はご子息の体力を健常者の域に戻すまで、相当な努力が必要となりますわ。貴方達をはじめ、周りの方々で息子さんを支えてあげて下さいな」
その後はキュレーニル研究員に患者を任せて、私は領行政舎へ向かった。
領行政舎の会議室に到着すると、領主である伯従父様や、前領主である大伯父様、その他行政官達がいた。
「導師殿、早速患者の所へ向かって貰い、感謝する。最近は両親の方も元気が無く、見るに忍びなかったのだ」
「伯爵、私の力で人を救う助けとなれたことは、誠に光栄ですわ。勿論、巡回助言の方も、精一杯務めさせて頂きます」
「是非、宜しくお願いする」
それから私は、行政官の一人からカルテリアの状況を確認後、いつもの様に準備して精霊達を招聘し、領内の状況を確認した。大きな問題は無く、幾つかを行政官達に伝えただけで巡回助言は終了した。昨年の山火事の跡も、順調に回復し始めていたので、大丈夫だろう。
施術の分だけ時間が遅くなってしまったが、伯爵邸に戻り、休ませて貰った……のだが、伯爵邸に戻った際に大伯父様が
「導師殿、業務で来られたのは重々承知しておるが、この屋敷におる間だけでも、大姪として接して良いじゃろうか」
と言った。懇願しているような真剣な表情で言われると、流石に否やは無い。
「ええ、勿論ですわ、大伯父様」
承諾した途端、これまで渋面だったのが、非常にニコニコした顔になり
「そうか! フィリストリア、よく来てくれた!」
お祖父様より甘々な態度で、私に接し始めた。更に、これまでの巡回助言は、就寝時以外は導師服で過ごしていたところだったが、夕食に向かう前に
「大旦那様より、是非こちらの服を着て頂きたい、と承っております」
と、メイドに言われて着替え、案内されて食堂に入ると
「おお、マーサが帰って来たかのようじゃ……フィリストリア、有難う……」
大伯父様は、涙ぐみながら、私に感謝していた。どうやら、お祖母様が昔よく着ていた服に似た服を準備していたらしい。その後も、これまでの所であれば巡回助言関連の話だったが、大伯父様が語る、お祖母様の思い出が殆どだった。伯従父様以下、相槌を打ったりしながら聞いていた。
次の日は、精霊術士候補を確認するため、朝食後に聖堂に向かった。今回は2名の精霊視を持つ少女が確認できた。確認が終わり、伯爵邸に戻って部屋着に着替え、談話室へ向かう。大伯父様に呼ばれていたのだ。
「大伯父様、用件が終わりましたので、参りました」
「おお、フィリストリア、こちらで話をしよう」
私は大伯父様の近くに行き、私の近況や、伯爵家の状況など、色々話した。また、大伯父様は、お祖父様の様子も聞いて来たので、以前火災から帰った後の話などをした。
「……そうじゃな……儂はマーサをあ奴に取られて、嫉妬しておっただけじゃ……あ奴は悪うない。それに、マーサが精一杯生きた証は、ここにおる」
「ええ。お祖父様とお祖母様が結ばれ、お父様を産み育てて頂いたから、私がいるのですわ」
そう言うと、大伯父様は、一層優しい瞳で、私を見つめた。
昼食後、制服に着替え、キュレーニル研究員と合流した。どうやら、施術後の状態は非常に良好で、魔力循環は正常値を維持しており、体調が安定しだしたのか、当人も目覚めて、両親と軽い受け答えが出来たそうだ。後は担当医に任せて、体力の増加を図るということだった。本当に良かったよ。
その後、大伯父様や伯従父夫婦に見送られ、王都に転移し、魔法省へ戻った。
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